【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第171回

2013/5/23
 「佐賀県ケンゴ祭り」

 J1第11節、鳥栖×新潟。
 すいません、今回はとても正気ではいられません。事情が事情ですのでどうかバカ丸出しをご容赦ください。あと文中、わっしょいわっしょいの掛け声が無意味に差しはさまれる予定ですが、読者各位はどうかお気になさらず。どんどんってけたったどどーんがどん。ぴーぴーひゃらひゃら。わっしょいわっしょい。

 平成25年5月11日、この日が来るのをわしらはどんなに待ちわびていたことか。わしらは耐えることしか知らなかった。やたらと耐える。やたらと耐えしのぶ。耐えしのんだ先に何があるのかわからなくても耐えた。川又堅碁が好きだからだ。あぁ、この際だから言ってしまおうか。川又堅碁には特別に目をかけてしまう。何だこれは。この感情は。わっしょいわっしょい。

 何かを好きになるのに理屈はいらないと思う。が、直感的に思い当たることがある。川又堅碁はアルビっぽいのだ。もうひとつ掘り下げれば、川又堅碁は俺みたいなのだ。一昨年のシーズン、出番をもらってももらっても決定機をハズし続けたケンゴはアルビの象徴だった。そして、その姿は(少なくとも俺はね)、自分みたいだと感じた。いや、ケンゴは「アルビ以上にアルビ」「俺以上に俺」って感じかな。これを日本語では「投影する」と言う。初スタメン言われておなか痛くなって欠場するケンゴ、ポストに当てまくるケンゴは、わっしょいわっしょい、何かとても大事なもんを投影するに足る選手なのだった。

 いきなり来たんだ。開始2分。最初のCKを三門が入れる。文句ない軌道。そこへ後ろから飛び込んできたのがケンゴ。鳥栖はゾーンで守るが、あれだけ急に入って来られたらどうにもならない。また打点が高い。どーん。ケンゴ3試合連続弾はスーパーヘッド一閃だ。わっしょいわっしょい。

 しかし、このあっさり決まり具合いはどうだ? 一昨年、わしらは皆、口々に「ケンゴはひとつ決まれば堰を切ったように決まりだす」みたいなことを(無根拠に)言っていた。これはサポだけじゃなくて、チーム関係者も番記者も同じ感覚で言っていた。あれはそうであってほしいという希望だったのか、そうとでも思わないとやってられなかったのか。時が流れ、今、わしらは現にそれを目にしている。何故、今日にかぎって「わしら」なのか? 「わしら」なんて書いたのは連載始まって以来、今日が初めてだ。わっしょいわっしょい。

 ケンゴは晴れやかな表情だった。だけど「やった!」「嬉しい!」だけでなく、どこか奥のほうに「やっぱりね」「フツーですけど」的なものも浮かぶ。俺はね、この最近、戦国武将みたいな顔に見えてならないFWのドヤ顔を何百回でも録画再生したいと思うんだ。そして考える。「堰を切ったように」ならその「堰」っていうのは何だったのか? 「覚醒した」ならグースカ寝ていたもんを叩き起こした「目覚まし時計」は何なのか? 「進化した」なら一昨年と今の間に横たわる「ミッシングリンク」は何なのか? 岡山って何だ? どんな場所だ? 俺も原稿とかで行き詰ったら岡山へ行って、わっしょいわっしょい、マスカットとかきびだんごとか食ってきたほうがいいのかい。

 前半24分、わっしょいわっしょい、成岡翔が敵のパスをかっさらって、ケンゴに渡し、シザースの動きをする。エリアに駆け込んだのは3枚、左に成岡、中央にケンゴ、大外に田中達也。ケンゴは左へ突進する成岡に壁パスを返し、成岡がDFを2枚引きつける。で、ラストパス。ケンゴは左足だ。落ち着いてキーパーの届かないところへ蹴り込む。

 やばい。わしらのケンゴが2点とった。ちょっとそこ行く奥さん、ケンゴ2点とりましたよー。これはディスクに焼いて永久保存せんならん。ケンゴ祭りイン佐賀。こう『モテキ』の森山未来みたいな感じで、ケンゴが御神輿に乗ってる映像が頭に浮かぶが、かついでるのもケンゴっぽい。実際のピッチ上では成岡、田中達也がめちゃめちゃ効いてるわけだが、御神輿はケンゴが乗ってケンゴがかついでる。そんな俺の妄想の説明をした。わっしょいわっしょい。

 しかして鳥栖は今季、ナビスコで負けてるし、リーグ戦もやられっぱなしでしょう。昨シーズン5位(!)の大躍進とは打って変わって、今年は苦労しているけど、エース・豊田陽平は目下、得点王だ。新潟としては非常に苦手なタイプだと思う。がっちり守って、勝負どころで決定力がある相手。勝てそうな気がしない。わっしょいわっしょい。ケンゴが爆発する前だったらね。

 さぁ、それじゃ本当の爆発、この日最高のゴールについて書こう。ものすごく意味のある得点。というのも後半18分に1点返されて(得点者・野田隆之介)、鳥栖のペースになりかけていたからだ。直後の後半21分、右サイドでレオ・シルバがいいプレッシャーをかけて、苦しまぎれのパスを田中達也が拾う。達也はすかさずケンゴに供給、エリア左のケンゴに鳥栖DFが集まる。このとき達也はすぐに右スペースへ走ったから、達也にパスを出す手もあった。が、ここはストライカーの、わっしょいわっしょい、本能ってやつなのかい。

 自分で行った。切り返して今度は右足。ゴール左下隅にどーん。ケンゴは頭、左足、右足とフルコースでハットトリック達成。わっしょいわっしょい。VTRで見るとわかるが、敵DFはPK覚悟でシャツをつかみ、止めに行っている。それが止まらないんだなぁ。痛快無比、天下無双のファインゴール! 

 平成25年5月11日、わしらは川又堅碁がクラブ史上に残るストライカーになったのを目撃した。わしらは歓喜した。わしらは震えた。わしらは泣いた。わしらは酔った。あぁもう、何でも持って来い。こんなに嬉しい日はないんだ。どんどんってれてけつく、ぴーぴー、どんどんひゃらひゃら。わっしょいわっしょい。わっしょいわっしょい。


附記1、鳥栖のホスピタリティーが素晴しかったですね。ただでさえベアスタが環境バツグンなのに、鳥栖のホームゲーム・オーガナイズのおかげで多くの新潟サポが「また来たい」と思うに至りました。そしてメンチ天の心配をしました。

2、申し遅れましたが、この試合、三門が右SH、成岡がボランチの1枚、そして坪内が左SBというスタメンでしたよ。

3、昨日(5月15日=Jリーグの日)はナビスコ杯・FC東京戦でした。残念ながら敗れ、予選突破は叶いませんでしたが、20年前のJリーグ開幕戦と同じ国立の舞台に立つという栄誉に浴しました。岡本英也の同点ゴールはすごかったんだけどなぁ。試合後、そのアシストをした田中亜土夢に偶然出くわし(フツーに飲み物の自販機行くところだった)、「こういう華のある試合でゴールも決めないと」と言ったら、「マイヤー(20年前、J初ゴールを記録したヴェルディの選手)のポーズはイメージできてたんですけどねぇ(笑)」とのこと。

4、さぁ、週末・大分戦もやっちゃいますか。わっしょいわっしょい。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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