【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第235回

2014/10/30
 「甘くはなかった」

 J1第28節、新潟×甲府。
 単行本『アルビレックス散歩道2013』サイン会のため、少し早めにスワン入り。最高の秋晴れだった。コンコース特設会場でざっと100人の読者と交流の機会を持ったが、皆、表情まで晴れやかだった。「勝ちましょう!」「絶対、3連勝ですよ!」。 お互い言ってることがめちゃめちゃポジティブだ。

 僕は日程表をにらんで中3日で行われる10月の連戦アタマ(中断明けホーム甲府戦&アウェー清水戦)が「大山のぶ代」になるんじゃないかと想像していた。いちばん厳しい「大山のぶ代」は名古屋、川崎に敗れ、2連勝マストの状態で迎える「大山のぶ代」だ。J1残留争いのガチンコ対決×2。いやもう、今、言ってみてるだけでプレッシャーに押しつぶされそうになる。幸運なことにその「大山のぶ代」は回避され、「小山薫堂」程度になる。

 といって甘くはなかったなぁというのが、当日、ファンの偽らざる心境であったろう。甲府が全くスキを見せなかった。素晴らしい集中力だ。前半、キックオフからしばらく呆けたように試合を見つめて、ハッと我に返り、隣りで見てるエイヤード・丸山英輝さんに「しかし、何も起きない試合だなぁ」と言ってしまう。

 30分経過して何も起きない。点を取る気も取られる気もしない。両軍守備が良すぎて、攻撃が未然に防がれてしまう。40分経過して何も起きない。甲府の守備ブロックはどうすれば崩せるのか。とうとうシュート0本で前半が終了してしまった(ちなみに甲府は前半2本)。

 ラファエル・シルバが足の違和感でベンチから外れ、この日は鈴木武蔵がFWで先発していた。ここで結果出したかったけどなぁ。結局、試合トータルで新潟はシュート1本で終わる。これは左サイドからのクロスに指宿洋史が頭で合わせたもの(後半12分)。さすがにシュート1本の試合は勝てない。一方、甲府は阿部翔平のヘディング等、数こそ少ないけれど決定機があった(ちなみに甲府はトータルシュート数5本)。

 まぁ、ガマン比べがガマンしてるうちに終わってしまった感じかなぁ。ガマン強い2チームはスコアレスドローで、勝ち点1を分け合った。試合終了後、甲府サポのコールが熱かったよ。新潟はひとつ抜け出した感じで安心してるかもなぁ。まだ抜け切ってはいないけどなぁ。


J1第29節、清水×新潟。
今度は雨の試合。平日ナイターで、かつ強風が吹きつけたから体感気温はかなり低かった。記者席の屋根も雨を防いではくれず、レインパーカのフードを大粒の雨が打ち続ける。試合中、このパラパラ音をずっと聴いていた。

が、それよりも清水サポ&サンバ隊だな。びしょ濡れになりながら本当にチームを後押ししていた。数は1万人に届かないけど、こういうのは数だけじゃないよね。敵地に乗り込んだ新潟サポだってしっかり声が聴こえてたけどね。迫力の点では、やっぱりボトム3脱出に命がけの清水サポだ。「生涯J1」って断幕掲げましたよ。名門の意地です。

で、試合のほうも清水が良かったな。4-1-4-1ですよね。大変アグレッシブに来て、新潟は後手にまわった。雨でピッチが走るから、展開がスリリングなんだ。日本平のピッチコンディションがまた雨でもビクともしない。見てて面白かったです。レインパーカのパラパラ音が全く気にならなかった。

得点経過を言うと先に失点してしまうんだな(得点者・石毛秀樹)で、後半、大井健太郎のヘッドで追いつく。このとき、場内のテンションがガクンと下がり、新潟は圧倒的優位に立ってたんだと知る。清水は勝ち点1じゃダメなんだ。絶対3欲しい。対して新潟は1で大丈夫でしょ。甲府&清水戦で勝ち点2を積み上げ、計39にできたら上出来だ。

つまり、清水は攻めなきゃならない。新潟はその前がかりになったスキを突けばいい。と、理屈の上では言えるんだよ。ただサッカーは理屈よりか気持ちが勝るスポーツだったりする。最後、やられた。左サイドの突破を許し、ノヴァコヴィッチ決勝弾!

ひとつのアヤはこの日、右サイドハーフで起用された田中亜土夢じゃなかったか。亜土夢は普段、左サイドで攻守両方に効いている。サイドバックのお守りも重要な役目で、大野も小泉も相当助かってると思うのだ。

が、この日は亜土夢が小泉の面倒を見られない。しかも、小泉のトイメンは大前元紀だ。これは雨漏りし続けることになる。補修がきかない。クロスを上げられまくった。決勝点は、だから想像がついたことでもあるんだね。

サイドバックは(大野欠場が長引き)小泉のコンバートでまかなってるけど、ちょっと心臓に悪いなぁ。小泉本人もきついと思う。あと足が遅いね。手当としては、もちろん川口尚紀なんだけど、現状何か考えあって川口使わず小泉なわけでしょう。川口以外だと、舞行龍か、奥の手で亜土夢のサイドバック起用かなぁ。こうして考えると坪内置いときたかったなぁ。


附記1、だから、もし甲府&清水戦が「大山のぶ代」だったらと思うとゾッとしますね。

2、18日はサイン会にお集まりいただき、ありがとうございました。「出遅れて整理券もらえなかった」という方もいらっしゃいました。そういえば新潟日報紙上で、横浜FM戦パブリックビューイング&トークショーの告知が出ましたね。ハガキで応募するスタイルみたいですね。よろしくお願いします。

3、甲府戦の翌日(10月19日)、三ツ沢に横浜FC×栃木を見に行きました。ヨンハもワンちゃんも、そして勲も大活躍でしたよ。それからスタジアム内に奥大介さん追悼の献花台が設けられていて、胸がつまりました。あらためてご冥福をお祈りします。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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