【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第253回

2015/5/28
 「すくむ新潟」

 J1第12節(第1ステージ)、新潟×仙台。
 15位の仙台と17位の新潟。残留圏、降格圏に得失点差で分かれているが勝ち点は同じ10。気の早い言い方をすれば「6ポイントマッチ」だ。絶対に勝たなきゃいけない。新潟は「Wシルバ」の欠場が痛いけれど、「(一時帰国した)レオに心配をかけないためにも結果を出したい」(大井健太郎)、「離れていてもケガをしていても、一緒に戦っている」(コルテース)とむしろチームの結束力は高まってると報じられた。

 実は仙台も必死だった。ここ7戦勝利なし。1年以上にわたりアウェー勝利なし。日程を見ると今節の新潟戦、次節の甲府戦で今季の浮沈が決まりそうだ。そうしたら先週、新潟はレオ・シルバ離脱、甲府は樋口靖洋監督の辞任とどちらも動きがあった。つまり、覚悟を固めた「ガチの新潟、甲府」と激突することになる。渡邉晋監督は戦い方を整理したようだ。ポイントは前節の浦和戦で4失点した守備のチューンアップだった。

 この日、僕は試合前から大事な仕事があった。正午からカナール水上ステージにて元『週刊サッカーマガジン』編集長、平澤大輔さんとのトークショーだ。敬和学園ジャズホーネッツへの挑戦だ(うそ)。まぁ、戦術的な解析は平澤さんにお任せするとして、僕が心がけたのは一つだけ、大一番を前に戦う空気をつくることだ。大勢のファン、サポーターに直接語りかける機会だった。カナールの空気がビッグスワンの空気につながり、それがピッチに伝わると考えた。

 ビッグスワンの雰囲気は最高だった。さすがはアルビレックス新潟だ。観客動員数の低下が語られるけど(そして、それは事実だけど)、これだけ本気で戦うファン、サポーターを抱えている。チャントが始まり、空気がビリビリと震えた。のるかそるかの大勝負。新潟は舞行龍を1列上げて、ボランチ起用だ。2トップは指宿、山崎。「戦争だと思って戦わないといけない」(コルテース)ではないが、皆、本当に気持ちが入ってる。

 先手を取りたかったなぁ。タフな試合に決まってるんだから先にかましておきたかった。それがやられるんだよ。前半10分、小林裕紀のクリアミスを金園英学につながれ、奥埜博亮のゴールを許す。これはがっかりしたよ。小林のミスに加え、金園に競り負けている。大事な試合の開始10分のところだ。チームはずっと点が取れなくて苦労している。どれだけ手堅く行ってもいい場面だ。あり得ないよ!

 前半はそれでも新潟の時間帯があった。やり返さなきゃビッグスワンの観客が許さない。パスをつないでサイドから攻める。同24分、小泉慶、25分、小林に決定機が訪れる。決まらないんよ。ビッグチャンスは同44分、山本康裕にもあった。決まらないんよ。

 この試合は仙台の守備が素晴らしかった。先手を取ったことで仙台が主導権を握った試合かというと、そんな感じはしない。たぶんね、先制点はあくまで予定外で、仙台はプラン通りに守り勝ったんだと思う。渡邉監督、会心のゲームだなぁ。きっちり守ってるうちに新潟が勝手に自滅してくれた。

 オートマチックにブロックを築くんだ。等間隔にスペースを埋める。オートマチックだから先手先手で動ける。新潟の選手は後手を踏んで、セカンドボールに遅れて入るからイエローを大量にもらった。仙台はウイルソンや梁勇基の「個の力」というイメージがあるけど、素晴らしく組織化されていた。大事な試合でこれが出せるんだから仙台は大したもんだ。

 に対して新潟は(言いたくないが)何もなかった。いかに「Wシルバ」を欠くとはいえ、12節になってこの何もなさは問題だ。悔しいなぁ。0対3の完敗にショックを受けて、試合後、知り合いの記者から「高校サッカーみたいだった。高校サッカーだと片方がよく訓練されて組織になってて、もう一方が何もないって試合あるんですよ」と言い得て妙のコメントをもらってショック倍増だった。いやぁ、ペッコンと音をたてて凹みました。

 次節・広島戦まで1週間あるからちょっと気持ちの面から立て直すしかない。選手らで焼肉会とか、話し合う機会をつくるのはどうだろう。ひとつの光明は指宿洋史が好調だったことだなぁ。指宿にフォーカスした戦い方でいいんじゃないか。やることをはっきりさせて、拾えるところを拾っていくしかなさそうに思える。「Wシルバ」が戻るまで辛抱するしかないよ。

 ファン、サポーターに申し上げたい。新潟日報が「すくむ新潟 屈辱の完敗」(5月17日付スポーツ面)と見出しを打つ大ピンチだ。記事中、大井健太郎主将のコメント「選手の中でも降格が頭に入ってきてしまっている。自分たちで打破しないと」に疑問を感じた方もおられるだろう。選手側から弱気な声が出るのは残念なことだと思う。お前らは新潟の誇りなんだぞと言ってやりたい。

 ただ大井主将が危機感を表明し、何とかしようとしてることは確かだ。新潟の選手はマジメだから、皆、敗戦に傷つき、もがいている。ブーイングするのもいい。大文句言うのもいい。けど最後の最後、大ピンチの只中にあるチームを助けてほしい。

 まぁ、とにかくね、別に命を取られるわけじゃなし、元気出そうよ。顔を上げて広島戦に向かおう。ACL日程でナビスコ柏戦が回避できたのはラッキーじゃないか。広島戦は舞行龍、小泉慶が累積欠場だからフレッシュな顔ぶれが見られそうだ。


附記1、カナールのトークショーに集まってくれた皆さん、そして翌日、北書店イベントに参加された皆さん、ありがとうございました。平澤大輔さんから翌日すぐに「仙台戦メモ」が届きました。詳細は省きますが、「前野と加藤のキック」に注目し「山本康裕FW起用」を提言する興味深い内容でしたよ。一方、まったくサッカーを知らない北尾トロさんは突然、「シルバって2人いるの?」と言い出し僕らをハッとさせました。「え、トロさん詳しいね。そうですよ、2人いるんです」と答えたら、「やっぱりね、両シルバって言ってたもんね」とのこと。いや、それは「両シルバ」じゃなくて「レオ・シルバ」の聞き違えです。

2、当日、亀田製菓サンクスデーでハッピーターンとバンダナもらっちゃった。ハッピーターンは試合後半、ばりばり食べちゃったけど、オレンジのバンダナは大事にしますね。

3、北書店・佐藤雄一さんの案内で初めて沼垂テラス商店街へ行きました。かなり気に入ったなぁ。「FISH ON」という開高健っぽい名前の古書店に寄った。あと「ISANA」でアイスコーヒー。その後、「アベック食堂」まで足を伸ばしたら、運悪くお休みでした。
 

えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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