【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第254回

2015/6/4
 「最下位転落」

 J1第13節(第1ステージ)、広島×新潟。
 この日は九州にいた。出先で有難いのは今シーズン、個人的に導入したスカパー・オン・デマンドだ。ホテルのWi-Fiにつなぐだけで出張先でスカパー観戦ができる。ホント、今までの苦労は何だったのか。思い出すのは何年前かな、北海道で試合が見れなくて、知り合いの札幌サポに頼み込んで録画をDVDに焼いてもらった(確かカードは「鹿島×新潟」)ことだなぁ。あのときは知り合いがいる札幌だから助かった。が、今回は何のつてもない長崎市で泰然としていられたのだ。

 が、「泰然と」はあくまでオンタイム観戦(実際は「ほぼオンタイム観戦」。ネットを介すため少しタイムラグが生じる)に関してであり、広島戦そのものについては「泰然と」おさまってる場合じゃなかった。だって強豪の広島と当たるだけで大変なのに、こっちは主力級がゴソッと抜けている。両シルバと鈴木武蔵が体調不良やケガ、舞行龍と小泉慶が累積。こうなると少数精鋭のチーム編成が仇となる。急きょユースから宮崎幾笑、長谷川巧の2人がコールアップされリザーブに入った。

 対する広島は青山敏弘を欠くくらいでほぼベストメンバーだ。新潟の唯一有利な条件は(ACLで柏が勝ちすすんでるおかげで)ミッドウィークのナビスコ戦が免除になったことか。それ以外は敵地でもあるし、ポジティブな要素が見当たらない。こうなったら言葉は悪いけど「火事場の馬鹿力」のようなサムシングエルスに期待すべきじゃないか。これはNHK解説者の山本昌邦さんなら「人間力」と表現する部分だ。従来のアルビ用語なら「粘り」とか「あきらめない心」と呼んだ気がする。言わんとするところは同じだ。ひとつの注目ポイント、今年のチームは苦しいところでどのくらい粘れるだろう。

フォーメーションは大方の予想通り、3バック(大井、大野、前野)を採用。ボランチは小林がスタメンを外れ、成岡&加藤大だった。前線は指宿1トップに山本、山崎の2シャドー。つまり、広島に合わせてミラーゲームの布陣を敷く。マンツーマンでやり合うわけだが、サッカーファン的な注目はコルテースとミキッチのマッチアップだろうね。

 とにかくガマンの試合だ。スコアレスドロー上等。僕はこの試合のテーマは「堅守復活」になるんじゃないかなと想像していた。両シルバがいない以上、サッカーの構成力では敵わない。広島は百戦錬磨だ。試合運びのギアチェンジ、濃淡のつけ方が実に巧みだ。新潟はバリバリ頑張る根性サッカーで行くしかないか。追い回し、つぶし、セカンドを拾い、水際でクリアしまくる泥臭いサッカー。広島がワンチャンスで仕留めてやると狙ってるうち、案外90分もってしまいましたという体力自慢っぽい展開。

 そうしたらね、試合は「堅守復活」とは反対の方向へ転がってっちゃう。目論見通りいかないもんだね。前半19分、CKから塩谷司にどフリーでヘディングかまされた。もう毎度繰り返されてるセットプレーからの失点だ。これね、相手がスカウティングして狙って来てますよ。試合後、ヒーローインタビューで塩谷(2得点)に「今日はマークがゆるかったんで…」と言われる始末。

 僕は同じ形でやられすぎだと思う。何故、プロが対応できないのだろう。柳下正明監督はこの手の失点を基本、「個人のミス」に還元してきた。僕ら素人がわからないのは、(「個人のミス」に還元するなら)何故そもそもその選手を使うのかだ。あるいは発想を変えて「個人のミス」に還元しない考え方は成り立たないのかだ。

 例えば大野和成はかなり競り合いに強い選手だと思うのだ。が、試合のなかでは(1失点目をイメージしてほしい)競り合えていない。これはどこに問題があるのか。大野の技術か集中力かメンタルか戦術理解か。あるいは戦術そのものか。仮に戦術は理解してるけれど、技術が足りずに失点しているのだとしよう。これは戦術に合わせるべきか、選手の技量に合わせるべきか。僕の考えを言うと、そろそろセットプレー時のマンツーマンは見直すべきじゃないかなと思う。

 前半37分にはドウグラスのヘッドで追加点を奪われる。で、新潟は後半になって3バックの左右を入れ替える(前野が右へ、大井が左へ)んだけど、これが単純に「前野とドウグラスの身長差によるミスマッチ」という話だったら、そんなの最初からわかってたことじゃないのかな。前半のうちにあっさり2失点して「堅守復活」どころではなくなる。試合が壊れそうになるのを防いだのは山崎亮平のドリブル突破だった。前半45分、完全な個人技のゴール。

 なんですけどね、後半そこから更に2失点する(得点者・浅野拓磨、塩谷司)。前節の3失点に続き、今節は4失点の守備崩壊っぷり。試合終盤、交代投入の田中達也が1点返す(チームとして今季、初めてCKから得点)が、焼け石に水だった。

 翌日の新潟日報によると柳下監督は「『考え方を変える必要がある』と言い、積極的なプレスを封印して、めりはりをつけてボールを奪いにいく作戦を与えた」(5月24日付運動面)ということだ。結果が出ないことで守備戦術を変更していた。が、それが不発に終わり、今季ワーストタイの4失点を喫した現実をどうとらえるか。チームは3連敗。甲府と入れ替わって、ついに最下位転落だ。


附記1、そうしたら水曜日のナビスコ湘南戦、2対0で快勝しましたね。内容的にはほぼ広島戦で求めていた「根性サッカー」「泥臭いサッカー」「体力自慢っぽい展開」そのものでした。まぁ、それが通じる相手と通じない相手がいる(湘南もフルメンバーじゃなかった)とは思いますけど、もがいてつかみ取ったものには千金の値打ちがあります。面白いのは、この姿を多くの人が「アルビらしい」と受け取ったことですね。あるいは「アルビ本来」とか「アルビの原点」という風に。立ち返るべきはここだったということです。

2、さっき見終わったばかりなので、ナビスコ湘南戦中継についてツッコミ。TeNY内田拓志アナ、湘南の17番「三竿雄斗」選手ですが、「みかさ」ではなく「みさお」です。

3、今回、九州から見るとJの風景がまたぜんぜん違って見えるなぁと思いました。ベースボールマガジン社新潟支社に転勤になった平澤大輔さんと「日本海側から見たJの風景」という話をよくするんですけど、中央何するものぞって感じが似ている。九州はJクラブも増えたけど、元々、高校サッカーの強豪校がひしめき、名選手を輩出してきた風土ですよね。「こっちが本場」っていう自負がある。あとアレですよ、広島でさえ「本州のチーム」に見える。

4、次節・甲府戦は本当に「川中島の合戦」級ですね。僕らは最下位なんだから一心にチャレンジするだけです。やることはハッキリしたはずです。がんばりましょう!


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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