【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第257回

2015/6/25
 「へんなほうにはいっちゃった」

 聖籠で行われた練習試合のJ3富山戦(6月14日、2対3で敗戦)を見てないので、今週はフリーテーマにさせていただく。南伸坊さんの新刊『おじいさんになったね』(海竜社)に秀逸なサッカーネタがあった。まぁ、正確にいうとサッカーネタそのものじゃないんだけど、かなりサッカー寄りというか。まぁ、僕はやられた感があった。サッカー陣営にはちょっとこの発想はなかったかなぁ。

 ご存知のように南伸坊さんはスポーツの書き手ではない。僕は学生時代、赤瀬川原平さんや南さんの影響を受けて、ミニコミ誌に原稿を書き始めたのだ。後に『社会の窓』(毎日新聞社)というコラム集の装丁をお願いし、ご縁ができ、とうとう仲人さんまでやっていただいた。僕の尊敬する人だ。イラストレーター、デザイナー、ライターとして数々の傑作を手がけて来られた。また『本人伝説』(文藝春秋)等の顔真似シリーズも賞賛を集めている。

 で、今回は「噎(む)せる」にまつわる話だ。まぁ、噎せたことのない人はこの世にいないだろう。咳込む。食べものやなんかがへんなとこに入る。南さんは昔、咳込んでいたら、11歳上の横尾忠則さんに「唾がへんなほうに入った」と言い当てられ、「たいがいそうなるよ年とると」と言われたという。で、ご自身「前期高齢者」の年齢になって、ホントにそうだと実感されている。

 さて南さんはこの噎せた状態、へんなほうに入って咳込んでる状態を「うまいこと言い表わすコトバ」を思いついたそうだ。それがね、「オウンゴール」。いや、僕は笑ったなぁ。確かに「オウンゴール」はへんなほうに入る。しかも、自分がしでかしたことで、手ひどいことになる残念感が見事に表現されている。

 これは是非、日本語として定着させたい「サッカー慣用表現」だ。Jリーグクラブが増えることやW杯出場回数も大切だが、日本がサッカーネーションの仲間入りをするためにはもっと沢山こういう言葉がいる。それを一般家庭の、それこそおじいさんがフツーに使う感じが望ましい。

 だもんでこれからアルビサポは噎せて「エホエホ…」「どうした?」みたいな場面で、「うん、オウンゴール」と答えましょう。アルビサポからじわじわと日本語に定着させましょう。第一、情景がかわいい。小さなDFがのどの奧を4バックで守ってて、クリアミスが気管支のほうに入っちゃうんだね。みんな意気消沈だね。

 そういえば先週、当コラムは「オウンゴール」という語句を使っている。対戦相手の名古屋が「リーグ戦ではここ5試合得点なし(第13節・FC東京戦の相手オウンゴールを除く)」の状態でビッグスワンに乗り込んでくる、的なくだり。結局、永井謙佑にカウンターゴールを決められ、名古屋の「自分たちでゴールした得点なし」記録は5でストップする。もちろんグランパス関係者は胸をなでおろしたと思うが、FC東京の森重真人も少しホッとしたんじゃないか。記録が続いている間、ずっと不名誉な失点について言われてしまう。

 ところでこれは以前、文化放送の野村邦丸アナに教えてもらった受け売りなんだけど、中国語でオウンゴールを何ていうか、読者はご存知だろうか。中国語だから漢字だ。漢字というと「自殺点」が思い浮かぶがそうじゃない。「自殺点」は表現が物騒でもあるし、世界中で言わないことになった。邦丸さんは台湾のスポーツ記者からその知識を仕入れたらしい。最初、台湾の新聞が見出しで使い、やがて大陸にも広まった用語らしい。

 それが「烏龍球」なのだ。烏龍茶の「ウーロン」。「烏龍茶」自体にはネガティブな言葉のニュアンスはないが、どうもドジとかマヌケを指す「ウーロン」という語彙があって、それと音が同じということで使われたらしい。ちなみにアニメ『こちら葛飾区亀有公園前派出所』は台湾でも人気だが、タイトルは『烏龍派出所』だ。

 関係ないが、それで心配になったのが小林武史さんの音楽プロダクション「烏龍舎(OORONNG-SHA)」である。そして関連会社「OORONNG-MANAGEMENT」(マイ・リトル・ラバー、レミオロメン等が所属)である。うっかり中国で名刺を出して爆笑されたりしないだろうか。あるいはお笑い事務所とカン違いされないだろうか。

 しかし、考えたら僕はレミオロメンの事務所の心配をしてる場合じゃなかった。第一、レミオロメンは2012年から活動休止中だ。それよりもアルビレックス新潟が2015年6月18日現在、最下位であることが問題なのだ。それを脱するためには(月並みだが)正しいほうにゴールを決め、へんなほうに入っちゃったり、入れられたりしないことが肝心だ。というあたりが今日のまとめになるだろうか。次節はきっと勝つ。根拠はないけど本気で思ってるんだ。


附記1、どうもここ最近、散歩道が「らしくない」というのか、チームの低迷につれ元気がなくなってると読者からご指摘を受けました。僕もそう思います。で、今週は楽しいエッセーのほうに思い切り振ってみました。やっぱりね、アルビは「SMILE」を忘れちゃダメですよね。

2、なでしこジャパンは無事3連勝でグループ突破です。エクアドル戦は苦戦したけど、北原も上尾野辺も頑張ってた。W杯史上初めて「アルビIN、アルビOUT」という画期的なシーンが見られました。

3、そしてレオ・シルバ再来日の報が飛び込んできました。これはテンションあがりますね。ヤッホー?


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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