【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第277回

2015/11/12
 「アクセントの問題」

 今週はフリーテーマだ。当連載がスタートした頃からずっと気になっていて、取り上げようとは思うんだけど、どうやって取り上げたらいいか困っていた問題にいよいよ着手する。相当の覚悟だ。読者よ、まずは次の3つのJクラブ名を音読していただきたい。

 アルビレックス新潟。
 ガンバ大阪。
 サガン鳥栖。

 音読していただけましたか? 取り上げ方に困っていたのは文字ヅラだけではイメージしにくい、アクセントの問題だからだ。活字としての表記は「アルビレックス新潟」であり「ガンバ大阪」「サガン鳥栖」だ。その点に紛れはない。ただこの3クラブの名前にはそれぞれ異なった2つの読みが存在する。「アルビレックス新潟」はこのネタの核心部分なので後に取っておこう。

 「ガンバ大阪」と「サガン鳥栖」。これは一般的な読み(NHKアナウンサーが発語するアクセント)と「現地読み」が分離しているといわれる代表的な例だ。ガンバ大阪」の現地読みは「ガ」を頭高に強調するのでなく、「大阪」の「大」を強調する。「新大阪」のアクセントをそのまま当てはめれば感じが出る(「ガンバ」を「新」のように平板に言う)。「サガン鳥栖」の現地読みは「ユベントス」のアクセントと全く同じになる。強めるのは「サ」ではなく「ガ」の箇所。

 ことがアクセントであり、取り上げてるのが非・首都圏クラブばかりなので、これはうっかりすると「なまり」の問題に回収されかねないと思う。が、僕の考えを言うとこれは「なまり」とは別次元の話だ。読者はここまで来れば「アルビレックス新潟」の2つの読みについてもイメージされてるだろう。ひとつはNHK方式の「アルビレックス」「新潟」をそれぞれ立たせる読み、もうひとつはTeNYの「にぃ」を強調する読み。

 TeNYはスカパー中継を担当することが多く、僕はたぶん鈴木英門アナの「にぃ」を聞いてこの問題に直面したんだと思う。これは「複合語のアクセント」というやつだ。「大根役者」(「大根」+「役者」)や「トンネル工事」(「トンネル」+「工事」)といった複合語はアクセントが変化する。一応の法則性があり、「1、前の単語はすべて平板アクセントに変わる。2、中高アクセントの単語が後ろにつく場合、一拍目は高くなるが、下がり目は変わらない。3、その他の平板アクセント・頭高アクセント・尾高アクセントの単語が後ろにつく場合、後ろの単語の二拍目から下がる」とされる。

 TeNY式の「アルビレックス新潟」は(なまりや方言でなく)複合語アクセントの法則にかなったものだ。「アルビレックス」部分は平板アクセントに変わり、「新潟」部分の「にぃ」の1拍目が高くなり、そこから急降下している。実はTeNYの正式名称「テレビ新潟」も同じパターンの複合語であって、複合語アクセントの変化がそっくる同じ(特に「新潟」部分は言葉自体が同じ)になっている。まぁ、念のため、アクセント変化がパッとイメージしづらい読者は「アルビレックス新潟」が「クレヨンしんちゃん」と同じアクセント(高低)になると思えばいい。

 僕はひとつ仮説を持った。TeNY式の「にぃ」強調読みは、TeNY自体が「テレビ新潟」であるため複合語アクセントに敏感になり、生み出されたものではないか。言い換えるとTeNYの発明ではないか。ビッグスワンのスタジアムDJ、お笑い集団「NAMARA」の森下英矢さんも「にぃ」もTeNY式アクセントを用いてるが、これは仕事面か人間関係面かで何かの影響があるのじゃないか。

 僕は新潟の放送媒体ではFMポートとBSNテレビに出演歴がある。当然、「アルビレックス新潟」のアクセントに大注目したが、FMポートの立石勇生さん、BSNの手島千尋さんともに非・TeNY式だった。「アルビレックス」も「新潟」も複合語変化をさせずに、それぞれ頭高型アクセントを用いる。まぁNHK式とも呼べるけど、僕の知ってる東京のスポーツアナは全員こっちなので東京式とでもいうのか。

 僕がとりわけ面白いと思ったのはBSNの見解だった。TeNYと同じ地元局だ。今年は中継を組んだし、スカパー中継をTBSが担当する場合は協力している(手島千尋アナがピッチレポーターを務めたりする)。つまり、TeNYが担当するときとTBS(BSN)が担当するときと、同じビッグスワン発のスカパー中継に2つの「アルビレックス新潟」読みが並立してることになる。

 僕はBSNの番組打ち上げ会でこの問題を尋ねてみたのだ。「(複合語変化の)アルビレックス新潟はTeNYさんが言ってるんじゃないんですか。うちは(変化しない)アルビレックス新潟です。こっちのほうがフツーじゃないですか?」。僕は「KTTくまもと県民テレビ&KAB熊本朝日放送」連合vs「RKK熊本放送&TKUテレビ熊本」連合の「くまモン」アクセント大論争を思い浮かべた(前者は全国区の頭高アクセント、後者は「熊本のモン」という意味で平板アクセントを主張している由)。新潟でも一度、各局アナウンス部長や人気アナ、パーソナリティーが一堂に会すイベント「大激論!どう言うどう読むアルビレックス新潟!?」を開催したらどうだろうと思った。

 で、実は今年、この件に関して大変な進展があったのだ。下町(しもまち)の居酒屋「さい三郎」にて、直接、TeNYの須山司アナ、内田拓志アナに話をうかがう機会を得た。僕は当てずっぽうながら須山司アナはこの件に深く関与していると見ていた。須山さんこそ下部リーグ時代からアルビを見てきたTeNYサッカー実況の草分けだ。後輩の内田拓志アナは「サッカーを担当することになってどうしゃべったらいいかわからなくて、須山さんの実況をキックオフから一字一句書き起こすことから始めました」いう須山イズムの信奉者だ。そして複合語変化の「アルビレックス新潟」アクセントを須山イズムとして継承している。

 居酒屋「さい三郎」の2階座敷で謎解きが行われようとしていた。僕は名探偵・金田一耕助よろしく事件の真犯人を名指しする。「須山さん、アルビレックス新潟を複合語変化させたのはTeNYではなく、あなたですね?」。後輩の内田アナ証言が決め手となった。と、進退窮まったはずの須山さんがにこやかに応じるのだ。
 
 「違いますよ。僕はアルビレオ新潟FCからアルビレックス新潟に変わったときに、広報に直接、電話して問い合わせてるんです。そうしたら当時の田村貢広報が(複合語変化の)アルビレックス新潟ですと言ったんです」

 大どんでん返しだ。田村さんだった(!)。いやぁ、笑ったなぁ。なるほどね、クラブ名称ができたとき、ロゴやエンブレムだけじゃなく、読み(アクセント)も必要とされる。公式のアクセントをメディアに伝える役は広報担当者なのだ。だからTeNYのほか、スタジアムDJも複合語変化を用いるんだなぁ。JFL時代、田村広報がそう言ったならそっちがオフィシャルなアクセントである。但し、クラブは現在、「非・複合語アクセント」(NHK型、BSNやFMポート方式、あるいは東京式)も認める大らかな立場らしい。

 TeNYの須山さん内田さんに感謝したい。長年の疑問が氷解した。そして、複合語アクセントを用いるとき、「アルビレックス新潟レディース」はちょっと大変そうですねと申し上げたい。このケースは法則上、「アルビレックス新潟」までずーっと平板であるべきだ。で、「レ」が高く跳ね上がる。では「アルビレックス新潟レディースゴールキーパーコーチ」は? 一体、どこまでが平板で、どこが高くなるのだろう。


附記1、11月に入ったと思ったら週末いきなり「ホーム最終戦」ですね。今シーズンは勝手が違うなぁ。もちろんテーマは本拠地で残留確定ですね。しかし、スワン開催があるだけマシかもわかんないですよ。残留争いのライバル・松本山雅は残り2節ともアウェー戦です。今シーズンの雪国クラブ日程はちょっと極端ですね。

2、まぁ、2014年シーズンは開幕節に甲府が大雪中止→国立代替、最終節に新潟が大雪中止→カシマ代替だったわけです。その影響は否定できないでしょう。おかげで新潟はこれまでJ1昇格・残留のドラマを繰りひろげてきた「最終節・スワン」を失った。だから「ラス前節・スワン」で決めるしかありませんね。

3、僕は7日、『ナイツのちゃきちゃき大放送』(TBSラジオ)の出演日なので、赤坂を10時に出てダッシュで新幹線だなぁと思っていたんですよ。そうしたら放送が2時間の短縮版ってことになり、前日収録することになりました。ラッキー。6日は札幌から戻ってTBS入りになるけど、おかげで土曜日がフリーです。

4、あ、北書店おかげ様で満杯みたいです。ありがとうございます!


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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