【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第298回

2016/7/7
 「オンリーウェイ」

 J1最終節(第1ステージ)、新潟×鳥栖。
 早いものでリーグ戦も折り返し地点まで来た。中断期間なしで、翌週にはすぐ第2ステージが始まる。ミニキャンプ等で立て直す期間がまったく取れないから鳥栖戦は非常に大事になった。是が非でもホーム連勝で弾みをつけたいところだ。

 だからこう、「1学期の終わり」というか「第1ステージの卒業式」というか、そのような区切りの試合だった。好都合なことに順位の近い「新監督のチーム」が対戦相手である。実戦を通してお互いの仕上がり具合いが比べられる。それから鳥栖はおそらく引いてくるはずだ。「引いた相手をどう崩すか」を課題としてきた新潟にとって格好の対戦相手と言える。

 悪天候が懸念されたが、デンカビッグスワンは信じられないくらい美しい夕焼けに包まれた。オレンジの光がスタジアムの屋根を染める。試合前、早川史哉支援チャリティーTシャツ(限定280着)購入の列が長く伸び、また募金や折り鶴の回収(何と2万羽集まった由)も実施された。あれから支援の輪は更に多くのJクラブ、サッカーファミリーに広がっている。鳥栖サポーターも「早川史哉選手 1日も早い恢復を願います ベアスタで会いましょう!」の断幕を掲示してくれた。

 この試合の主題はひとつだ。フミヤに勝利を届ける。口に出すまでもなく誰もが想いを共有していた。そのためにゴール裏は「ハッピーターン 28 FUMIYA」のビッグユニホームを掲げ、選手らはベンチに掛けた「28」番ユニホームに触れてからピッチに入った。

 スタメンは2トップの一角に鈴木武蔵が復帰した。また左サイドハーフに田中達也、センターバックに舞行龍が戻った(舞行龍のダメージは大したことなかったようだ)。で、この全員が素晴らしいパフォーマンスをする。武蔵は再三、サイドに敵DFを釣り出し、スペースを作る仕事をした。こう、見ていてエネルギーにあふれてる感じがして、武蔵はめっちゃ試合に出たかったんだと思う。で、仰天したのは田中達也にもまったく同じ質のエネルギーを感じたことだ。達也もめっちゃ出たかったんだなぁと惚れ惚れ見入ってしまった。

 但し殊勲の度合いをいえば、この試合は舞行龍と大野和成のCBコンビ、そしてボランチの小林裕紀だろう。素晴らしい仕事をした。マッシモ・フィッカデンティ監督のお株を奪うカテナチオっぷりだ。カギをかけて敵エース・豊田陽平に仕事をさせなかった。この試合は要するに守り勝ったのだ。

 豊田陽平といえば前半21分、守田達弥と交錯したシーンはヒヤッとした。守田は出血退場してしまい、救急車で病院へ。ゴールはスクランブル出場の川浪吾郎が守り抜くことになる。このときは守田の容態も、ゴローの心の準備も心配だった。いちばん不確定要素の重なった時間帯だ。どうなっちゃうのかなぁとハラハラした。

 が、ハラハラしたのはそのときだけだった。だって枠内(被)シュート0本だ。ゴローの出来を云々するまでもない。守備陣が危ない場面を作らないのだ。特にパサーの鎌田大地を徹底的につぶした。この試合に限れば完全な新潟の戦術的勝利だ。

 しかし、得点はなかなか奪えなかった。鳥栖は引いて守って、それほどプレスに来ない。だもんで中盤はゆるゆるにスペースがあった。しかも、武蔵がDFを釣り出したりして、チャンスは何度も訪れたのだった。3対0くらいで勝っていい試合だったと思う。守りはまずまず形になってきたが、攻撃に関してはぜんぜん足りない。

 虎の子の1点は後半33分だった。これはいい形だったよ。小林のサイドチャンジのパスから達也がキープ、レオが受けて見事なスルーパス、これをコルテースが折り返して、加藤大がダイビングヘッドでポストを叩く。そこに山崎亮平がいた。山崎ギュンギュンはキーパーを見て、冷静にゴール! 視線が前後左右に振れ、プレーに緩急がついた最高の崩し。ゴールの後、山崎はベンチへ走り「28」番ユニホームを高々と掲げた。

 試合の締めくくりが新潟にしては珍しく大人っぽいボールキープの連続で、おお、こういうこともできるんだなぁと思った。それだけ必死に勝ち切ろうとしていたんだ。場内は360度、「アイシテル新潟」と手拍子。完勝だった。今季、ダントツに危なげない勝利。まぁ、鳥栖も元気なかったけどね。今は勝って前に進むだけ。ジ・オンリーウェイ・イズ・アップ! 


附記1、「28」番を着てヒーローインタビューに答えた山崎選手、「28」のチャリティーTシャツに着替えて場内をまわったチーム、フミヤのチャントを繰り返したゴール裏。試合後の光景が本当に感動的でしたね。病床まで必ず届いたはずです。

2、翌日曜日は恒例のサマーフェスタでした。「全身タイツで三輪車競争」の画像には笑った。キンキラの端山豪選手もすごかったけど、ショッカーのカリウ選手も想像を超えてましたね。

3、U-23代表の南ア戦(アルウィン)は野津田岳人、松原健、鈴木武蔵の3人が全員出番をもらいましたね。あと中島翔哉選手がTVインタビューで(名前は出さなかったけど)フミヤのことに触れてくれました。五輪代表のメンバー発表は7月1日です。誰がブラジルへ行くか刮目して待ちたいと思います。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動がさめる前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!

photo
 


ユニフォームパートナー