【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第311回

2016/10/6
 「橙魂結集とその急展開」

 天皇杯3回戦・新潟×山口。
 J1第13節(第2ステージ)、新潟×鹿島。
 今週のコラムは通常のフォーマットで書くことが不可能だ。(私事で申し訳ないが)20日に父が亡くなり、山口戦に関しては全く見られなかったし、鹿島戦もスカパーで一度見たきりだ。スケジュール的には2戦の「中2日」にお通夜と告別式がおさまった。喪主を務めたのは初めてだけど、お葬式自体よりも手配や下準備が大変だった。アルビレックス新潟からお花や弔電をいただいた。知人サポーターからもお悔やみメールやLINEを頂戴した。この場をお借りして御礼申し上げます。

 ただ鹿島戦は行きたかったなぁ。橙魂結集。プロ野球で成功をおさめた「ユニチケ」(ユニホーム付チケット。ブースでチケット交換する方式と、入場口で全員に配布する「全プレ」式があるようだ)をはじめ、盛り沢山のイベントを企画して、4万人動員を目指した。試合はレディースの千葉戦とダブルヘッダーである。スタジアム滞在時間が長くなることを見越して、この日に限り、再入場可の態勢が取られた。だからお昼に光るスワンをゲットし、レディース千葉戦を見た後、もう一度、Eゲート前広場で牛串を食べ鹿島戦、というお祭りのような過ごし方ができる。クラブ創設20周年の祝祭だ。これは営業や商品開発等、クラブスタッフが本当に頑張ったと思う。ちなみにユニチケの「20周年記念復刻ユニ」(胸に「アイシテルニイガタ」の文字)は市役所や地元協力店等にも配布され、コミュニティのお祭りとして盛り立ててもらう作戦が取られた。

 この「橙魂結集」企画は多数のファン、サポーターに支持されたと思う。僕もフロントスタッフのナイストライに異を唱えるつもりはない。ただ数自体は少数派になるかもしれないが、サポから「ずれてる」という声も聞かれた。OB戦「新潟クラシック」のときもそうだが、20周年企画にがんじがらめになって、チームの苦しい状況とリンクしていない。会議で決まった企画を予定通りこなしている感じで、スタジアムの生の空気を吸ってない。今季は第2ステージ開幕戦で、クラブ主導のイベントとして「史上最大の入り待ち作戦」が再現されたのだ。あれが例としてはわかりやすい。入り待ちという通常は自然発生的な出来事が、クラブ側の呼びかけで実施される違和感。いや、僕は「橙魂結集」企画に全く参加できていないので、どうなんだろうなぁということを述べているに過ぎない。クラブ側の必死さもよく理解できる。企画を通してもう一度、アルビレックス新潟のプレステージを高めたいのだ。だから僕も現場で「橙魂結集」の空気を吸いたかった。自分の五感で判断したかった。

 鹿島戦は重圧のかかった状態で始まった。14時開始の「仙台×名古屋」で名古屋が勝利したのだ。勝ち点差は1まで縮まった。新潟は舞行龍がスタメン復帰し、必勝を期す構えだ。システムは(守備時、5バックの)3-4-3だ。中2日とはいえ天皇杯山口戦は事実上のターンオーバーでまかない、2戦続けてホームゲームだった。コンディション的には圧倒的に有利である。あとは猛追名古屋の重圧をはね返せるかどうか。古巣相手に燃える前野貴徳が素晴らしいリーダーシップを発揮した。前半はピーンと張った緊張感のなかで、両軍が一歩も譲らない展開。新潟は善戦した。残留争いをしているようなチームに見えない。

 試合のアヤになったのは前半44分の前野負傷交代だった。ケガ人が帰ってきたと思ったらまたケガ人だ。交代出場の増田には悪いが、前野の奮戦で均衡が保たれていたので非常に嫌な予感がした。後半3分に柴崎岳に見事なボレーシュートを決められ(あれは増田は中途半端なクリアではなく、流せばよかった)、同45分にPKゴール(得点者・金崎夢生)で追加点を許す。そしてこちらは有効な攻め手がつくれない。完全な力負けだった。今シーズン、何度も見てきた尻つぼみの試合だ。僕は0対2の終盤、5バックを堅持したまま攻め上がらないのが意味不明に思えた。

 で、ある意味、敗戦以上にショックだったのはその日、配信された監督会見の質疑応答だ。これは現場にいたかったなぁ。質問者と達磨さんの回答がかみ合っていない。それどころかちょっと不穏な空気すら感じる。


――新潟の特長である武器はショートカウンターにあると思うが、ここ何試合かその形を出せていないように感じる。その原因はどこにあると思うか。

前線で追いかける単純な人数が少ないということ。ただ、おっしゃったようにショートカウンターが出せていない部分はあるかもしれませんが、カウンターは出せています。そういうショートカウンターを出すためにやるよりは、奪ったボールを早く前線につなぐことが大事だと思います。

――ある意味、ショートカウンターを選択肢から捨てても仕方がないというところはあるか。

いや、まったくそんなことは言っていません。そもそもショートカウンターの定義自体がよく分からないところがありますが、理由を言うならば2トップの方がセンターバックにははまるのはあると思います。ただ、前線から引っかけて、マリノス戦もショートカウンターというか、ラファと翔のところで奪って一気に持って行くシーンはありました。今日も守備は、それほど前線からの守備がマズいとは思っていないというところです。

――それほど相手の最終ラインを慌てさせないというか。

いや、そんなことはないです。相手のセンターバックは慌てさせたかったですし、今日のメンバー表を見て、ブエノと植田君で来ましたから、「圧力をかけていこう」とラファエルからスタートしてやりました。

物の見方なので、腹を立てて見られちゃえばダメだと思います。守備自体は前から追いかける部分は、ラファが入るとこれまではなかなか追えませんでした。ただ、ラファの追いもありましたし、逆から山崎や野津田のサポートもありました。そう捉えることはあまりできないと思います。


 どこがかみ合ってないかおわかりだろうか。「ショートカウンターの定義」は、質問者のイメージするショートカウンター(「新潟の特長である武器」と言い切っている)と、議論の前提をすり合わせようという意味だ。そこは大した問題じゃないと思う。文脈のなかで達磨さんは「前線から追いかける」がショートカウンターの(定義に関わるような)重要なファクターだと言っている。前からプレスし、敵フィードの精度を下げ、奪い、逆を突いて攻め込むような感覚だろう。

 問題は「それほど相手の最終ラインを慌てさせない」の部分だ。質問者はたぶん決定機、得点機のことを言っている。あるいはゴールそのもののことを言っている。達磨さんは「前線から追いかける」のことを言っている。フィードする敵DF(最終ライン)にプレスをかけ「慌てさせる」ことを言っている。ちょっと困った事態だ。質問者にすればはぐらかされた感じだろうし、達磨さんはあいまいな印象じゃなく具体を論じましょう、だろう。僕は一読してまずいなぁと思った。単に「監督さんとメディアの関係性」で終わる話ならいいけど、背景に何か不信感のようなものがたち込めている感じがした。

 「かみ合わない質疑応答」とまっすぐ矢印でつながるものかどうかわからないが、もやもやした違和感は2日後、具体的なアクションとなって僕らの前に示される。27日、吉田達磨監督、および北嶋秀朗、安田好隆コーチの退任、片淵浩一郎コーチの新監督就任、内田潤スクールコーチの入閣が発表されたのだ。平たく言えば「監督解任」だ。残り4節の土壇場まで来てアルビレックス新潟は最終手段に打って出た。僕からするとちょっとの間にストーリーが100ページくらい進んでしまった感じだ。急展開に驚くばかり。

 が、これはリアリズムの選択なのだろうと考えた。降格危機が迫るなか、回避のための最善手は何かという判断をせざるを得なかった。苦渋の決断というやつだ。「監督を守れないクラブ」も「長期的ビジョンの瓦解」も重々承知、なりふりを気にしていられる状況ではないというわけだ。チームの閉塞感はそれほど深刻なのだ。火中の栗を拾う形の片渕新監督、内田コーチは並々ならぬ決意のもとにある。こうなったらやるしかないだろう。


附記1、まず吉田達磨監督、北嶋秀朗コーチ、安田好隆コーチにお疲れ様でしたと申し上げたい。結果に結びつかなかったが、ハマったときの攻撃は「うちもこんなことができるんだ!」であった。プロは結果責任の問われる世界だから仕方ないのかもしれない。だけど何とかならなかったかなぁと考えてしまう。とにかく旅をともにした3人のサッカー人に対して、リスペクトを失いたくないです。

2、モバアルで片渕新監督の就任会見を読んで、この人を全力でサポートしなければと思いました。興味深かったのは再三、「新潟らしさ」に触れていたところです。僕としては上記で引用した吉田達磨会見(「かみ合わない質疑応答」)の続きの部分を語っている印象でした。質問者の「新潟らしさ」と、片渕さんの「新潟らしさ」のすり合わせを見ましたね。このテーマに関しては回をあらためます。

3、これは磐田戦がクラブ史上、最重要なアウェー戦になりました。力を貸してください。

 
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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