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2016.10.27スペシャル
【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第314回
 「世界史的な痕跡」

 順を追って説明するが、結論を先に言うと「アルビレックス新潟にハマッた人を『アル中』と呼ぶのは完全に正しい」ことがわかった。今年3月下旬に発見してから、発表の機会をずっと待っていた。今季は10月になるまで公式戦の中断期間がなく、したがって当コラムのフリーテーマ回もおあずけである。大発見だけに人に言いたくて言いたくて、早く言わないと誰かに先を越されそうで気が急(せ)いてしかたなかったけど、よーく考えたらこんなことを突き詰めそうなのは日本で僕一人だと思う。何か月寝かせてもぜんぜん平気だった。

 順番に行こう。まず、今年3月の悲しい報道が発端だった。「イラクのスタジアムで自爆テロ 25人死亡 ISISが犯行声明」(3月26日付、CNN.co.jp)という記事を見かけた。暗澹たる思いになった。イラク中部バビル州イスカンダリヤという町のサッカー場で自爆テロがあり、多くの犠牲者が出た。地元チームの優勝を祝うセレモニーの最中であったらしい。ISISの犯行声明が出された。ISISは去年11月、パリのスタッド・ド・フランス(フランス×ドイツの親善試合が行われていた)も標的にしている。

 一人のサッカーファンとして本気で憤っていたのである。そんなひどい話があるか。優勝祝賀会が暗転である。僕は何というチームなのか知りたくなった。で、チーム名は探しても見つからなかったのだ。イスカンダリヤという町だからイスカンダリヤFCだろうか。そのときに「イスカンダリヤ」が意識が向いた。

 「イスカンダル」に似ている。僕の世代にとっては懐かしい名前だ。松本零士監督の『宇宙戦艦ヤマト』。宇宙戦艦ヤマトは使命のために遠く離れた惑星イスカンダルまで旅をする。イスカンダルとイスカンダリヤ。これは何だろう。そういえば以前、西アジアの地図を見ていて偶然、イスカンダルという地名を発見したことがあった。

 気になって調べてみたら驚くべきことがわかった。イスカンダル、イスカンダリヤは世界史上の有名人の名前にちなんでいる。その人物の名は定冠詞「アル」を「イスカンダル」「イスカンダリヤ」の前につければなんとなーく見えてくる。「アル」+「イスカンダル」=「アレキサンダー」。アレキサンダー大王なのだ。実はイスカンダル(ダリヤ)という町は、オリエント世界に無数に点在する。全てアレキサンダー大王が征服した町なのだ。松本零士は何故、架空の惑星にそんな名前をつけたのだろうか。

 つまり、全部「アレクサンドリア」なのだと思えばいい。エジプト第二の都市、アレクサンドリアは紀元前333年、アレキサンダー大王が征服し、自らの名を冠した町の第1号だ。そういうのが無数にある。で、面白いことに「Aliskandar」だったものがアラビア語の定冠詞「al」とカン違いされ、「アル」「イスカンダル」に分解され定着したそうだ。僕らは馴じみが薄いが、地名に定冠詞をつけるパターンだ。例えばエジプト最大の都市カイロは、正式には「アル・カイロ」である。

 ここまで話せばおぼろげに「アル」をめぐる冒険だと読者も想像がついたと思う。アラビア語の定冠詞「アル」(al)だ。「アル」自体は英語でいう「ザ」(the)と同じで意味を持たない。「アル・ジャジーラ」(カタールの衛星放送局)は「ザ・(アラビア)半島」という意味。テロ組織の「アル・カイーダ」は「ザ・基地」という意味。年末の世界クラブ選手権を見てると「アル・イテハド」とか「アル・アハリ」「アル・アイン」とか、「アル」がついてるクラブを見かける。もう「アル」がついてるだけで潤沢な予算があるんだろうなぁという気がしてしまう。オイルマネーのイメージだろう。サッカー報道で「アル・サッドから○○選手が巨額のオファーを受けている」みたいなのも目にする。で、僕はアルビレックスも「アル・ビレックス」にして、せめてイメージだけでも金満クラブを目指すべきじゃないかという冗談を思いつく

 「アル・イテハド」「アル・アハリ」「アル・アイン」「アル・サッド」「アル・ビレックス」。いい並びだ。予算すんごいありそう。しかし、パッと見はまぎれるけど実際に並べるのは無理があるか。「Albirex」。うーん、雰囲気は出てるんだけどなぁと思って、そもそもの由来を考えてみる。折しもクラブ創設20周年だ。なぜアルビはアルビなんだっけ。

 「1955年、新潟明訓高校OBが中心となって創部した新潟イレブンサッカークラブが前身。1995年、はくちょう座にある二重星アルビレオに由来する『アルビレオ新潟FC』に改称したが、1997年、商標問題からクラブ名の改称を決定し、県民投票の結果、"アルビレオ"とラテン語で「王」を意味する"レックス"を掛け合わせた造語である『アルビレックス』に改称した。(後略)」(ウィキペディア「アルビレックス新潟」概要より、2016.10.19)

 はくちょう座の二重星アルビレオが由来だった。夏の夜空に輝くオレンジと青の二つ星。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』では天上のサファイヤとトパーズに喩えられている。美しいイメージだ。では、もうちょっと詳細まで踏み込んでみよう。

 「(前略)この星は中世のアラビア語話者の天文学者にはminqar al-dajaja(雌鳥のくちばし)と呼ばれていた。現在のアルビレオという名称は、誤解と誤訳の結果である。はくちょう座はギリシア語でornisであったが、これがアラビア語ではurnisに変化した。ラテン語に翻訳された際、この名称は植物のErysimum officinaleを指すものであると解され、そのラテン語名ireoに訳された。後にab ireoという記述がアラビア語の術語の誤写だと考えられal-bireoと書き直された。(後略)」(ウィキペディア「アルビレオ」名称より、2016.10.19)

 この「誤解と誤訳」の背景にあるのは「中世暗黒期→ルネサンス」史観だと思う。僕が学校で習った西洋文明史では、まずギリシャ、ローマの科学・哲学・芸術等々の発展があり、その多神教的な神話世界を背景にした天文学が発達したりする。が、その後、一神教的なキリスト教文化が支配的になり、ヨーロッパは中世の暗黒期を迎える。その間、ギリシャ、ローマの豊饒な文明的成果はイスラム文明が継承することになる。アッバース朝の第7代カリフ、マームーンによりバグダードに設立された「知恵の館」(大図書館兼天文台)における翻訳作業の結果、膨大なアラビア語文献となってストックされる。で、15世紀、その膨大なアラビア語文献が(更に)ラテン語に翻訳される気運になるのだ。ヨーロッパ人が失われた古典古代の文化に再び出会う。これがルネサンスだ。古典古代の文化は人文科学や芸術等、あらゆるジャンルに強烈なインパクトを与え、その影響で百花繚乱の文化ムーブメントが巻き起こる。

 で、この理解で行けば天文学知識(星の名前や神話を含む)はギリシャ語→アラビア語→ラテン語と翻訳を繰り返し、そのなかで「誤解と誤訳」が発生したことになる。が、ちょっとそこの事情はわからないのだ。現在では反証となるものが数多く発見され、「中世暗黒期→ルネサンス」史観は一部否定されつつある。また天文学の起源も古代メソポタミアやエジプトに求める見方が支配的であり、アラビア語のほうが先であった可能性も考慮したい。

 いずれにしても「アルビレオ」はアラビア語由来のラテン語なのだ。わし座の恒星「アルタイル」(日本では彦星として知られる)と同様だ。僕らは「ラテン語で『王』を意味する"レックス"」をちょっと唐突じゃないかなぁ、何でラテン語? くらいに思ってきたが、ここはラテン語で正しかったのだ。「アルビレオ」+「レックス」はラテン語どうしの組み合わせだ。

 で、僕は「アラビア語由来」の奥深さに魅了されたのだった。普段、何気なく使っている言葉に世界史的な痕跡が残っている面白さ。試しに「アラビア語由来」の英語を挙げてみよう。ちょっとびっくりしますよ。「アル」という定冠詞が残ってるものだと「アルコール」「アルカリ」が代表例だ。「アルケミー」(錬金術)「アルジェブラ」(代数学)「アルゴリズム」(問題を解く手順)も元はアラビア語だ。ざっくりした印象だが理系というのか化学用語が多い。

 冒頭、申し上げた「アルビレックス新潟にハマッた人を『アル中』と呼ぶのは完全に正しい」件だが、つまり、「アルビレックス」も「アルコール」も両方ともアラビア語由来の言葉なのだ。「アルコール(alcohol)」はアラビア語の「al-kuhul」が語源であり、定冠詞「アル」の痕跡を残している。まぁ、アルコール中毒の省略形「アル中」を最初に言い出した日本人も、まさかそれが定冠詞の部分だとは思わなかったろう。ものすごく変な言葉だ。英語なら「ザ(the)中」スペイン語なら「エル(el)中」、一体何の中毒なのか具体性がない。

 つまり、冗談で思いついたことは冗談ではなかったのだ。読者もアルビレックスは「アルビ(・レックス)」であると同時に間違いなく「アル・ビレックス」でもあるという荘厳な事実に打たれてほしい。ひょっとするとだけど「アル・ビレックスからのオファー」は外国人選手にとって(実質以上に?)魅力的に映っているかもしれないじゃないか。本当に思いも寄らぬことだが、僕らのクラブ名は見かけ上、カタールやUAEあたりの金満クラブに肉迫している。あとは予算規模の面で肉迫するだけだ。


附記1、クラブ20周年に捧げる「アルアルネタ」になりました。これ、わりとスクープじゃないかと思うんですよ。僕みたいな物好きが深掘りしなかったらずっと埋もれていたでしょう。だから、アレですかね、西アジアの人に親近感持ってもらえるクラブ名なんですかねぇ。案外、UAEに営業に行ったらすんごいスポンサーがついたりして。

2、「アル・ビレックス」以外で定冠詞がついてるJクラブは「ザ・スパ」でしょうか。

3、長かったブレークも終わり、いよいよラスト3節です。週末は優勝を決めるべく浦和がビッグスワンに乗り込んできます。敵はルヴァンカップを獲ったばかりで意気軒昂ですよね。で、そうはさせじと友人の俳優・大高洋夫(第三舞台)が参戦表明です。「OHTAKA 12」のレプリカ着てくるらしいですよ。『サイバーズ・ギルト&シェイム』(鴻上尚史 作・演出、11月11日~、紀伊国屋ホール)の稽古期間、たった一日空いたオフらしいですよ。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動がさめる前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!

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