【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第320回

2017/3/16
 「警戒していたセットプレー」

 TBSラジオの仕事を終えて、11時10分東京発のぞみ27号にて新神戸へ。16時キックオフは有難かった。地下鉄御崎公園駅から地上に出たら春の陽ざしだ。今季初開催となるノエビアスタジアム神戸は大にぎわいだ。昨シーズン7位(16勝11敗7分)の躍進を足がかりに皆、タイトル奪取に燃えている。開幕節清水戦で昨年の得点王レアンドロが負傷&戦線離脱(左ひざ前十字靭帯損傷、全治6カ月)となり、意気消沈しかねないタイミングで元ドイツ代表FW、ルーカス・ポドリスキ(ガラタサライ)獲得が発表された。

 新潟は闘志満々だ。開幕戦の健闘はメディアの評判も高かった。移籍加入のCB富澤清太郎の体調不良が伝えられ、新潟日報の予想スタメンもソン・ジュフン先発だったが、フタを開けてみれば広島戦と同じ。「勝ってるチームは動かすな」の鉄則通りだ(正確に言えば広島戦は引き分けだったが)。つまり、「高校生ルーキー」の原輝綺は2戦続けてスタメン出場だ。ちなみに市立船橋は3月8日卒業式(神戸戦の4日後)ということだが、U-20代表候補キャンプと重なってしまった。

 もちろんゲームプランは「ガマンの試合」だろう。どこまで失点を防ぎ、相手を焦らせることができるか。敵の2トップは田中順也(柏から移籍)&渡邉千真と強力ではあるけれど、去年のレアンドロ&ペドロジュニオール(鹿島へ移籍)ほどの恐怖感はない。懸命に防いでいれば必ずチャンスは来る。新潟はまず守備ありきだ。目指すサッカーは「粘り強い守備からの素早い攻撃」(三浦文丈監督)。

 だから試合開始3分の失点は大誤算だった。藤田直之のロングスローが右サイドの大森晃太郎(ガンバから移籍)に出て、この大森が原を振り切ってクロスを入れ、エリア内のごちゃごちゃしたところから渡部博文(仙台から移籍)が蹴り込んだ。ピンボールみたいなゴールだ。どこかの時点で大きくクリアしたかったが、気がついたらゴールに入っていた。

 それじゃいきなり失点してゲームプランが変わるかというと、変わらないと思う。時間はたっぷりある。守備優先でバランスを取り、チャンスに懸ける。が、どうもおかしいのだ。神戸が守備ブロックを形成して、あんまり出て来ない。で、ロングボールを使ったりする。これは敵将ネルシーニョさん、カウンター対策を講じたな。これじゃ「小泉慶が奪ってホニに通す」が使えない。新潟はビルドアップするしかなく、回しては後ろに下げる繰り返し。それがパス精度も連携もスピードもさっぱりだった。去年、吉田達磨監督時代につくり上げたものがゼロになっている。

 前半の試合運びに関しネルシーニョさんは「ミスが多くてペースを握れず、あまり良くなかった」(試合後会見)とコメントしたが、あまり額面通りには受け取れない。スカウティングの成果だと思うのだ。新潟はあれをやられると渋滞が発生する。要は攻撃のオーガナイズはまだまだということ。山崎亮平に1本素晴らしいシュートがあったが、前半はそんなもの。とにかくリズムが出なかった。対して神戸は二度ほどビッグチャンスをつくる。

 が、(内容がどうだろうと)スコアを見れば0対1。最少得点差だ。後半開始早々、渡邉千真にクロスバーを叩かれるが、どんなにヒヤヒヤしたって入らなければ同じことだ。1点差は1点差。ワンチャンスで同点にできる。後半、神戸はだいぶ前へ出てきた。何だかんだいって「ガマンの試合」が成り立ってきてるんじゃないか。このまま勝負の時間帯まで行こうじゃないの。田中達也を待とうじゃないの。

 後半22分に成岡翔OUT→達也IN。予感ありましたね。同30分、右サイドから川口が入れて、山崎がヘッド、敵GKキム・スンギュが弾いたところを達也が決める。2試合連続ゴール! このペースだと34点取ってしまうぞ。

 そうしたら喜んだのもつかの間、同31分に高橋秀人(FC東京から移籍)に決勝ゴールを決められる。これはCKから橋本和にヘッドで折り返され、渡邉シュートのこぼれ球を高橋がフリック気味に流し込んだもの。再びビハインドを背負った新潟は鈴木武蔵、チアゴ・ガリャルドを送り込むが、無情のタイムアップ。開幕戦とは一転、まずい試合をしてしまった。

 監督会見で興味深かったのは、フミタケさんが試合総括で二度「警戒していたセットプレー」というフレーズを使ったことだ。「警戒していたセットプレー」に二度やられたのだ。開幕戦も入れると「警戒していたセットプレー」に三度やられている。じゃ、警戒って一体何だ?という非常に哲学的な問題になってしまう。

 僕は開幕戦で感じた好印象を引っ込める気はない。が、甘くはないってことだ。山のように課題が見つかる試合だった。それ自体は悪いことじゃない。課題にひとつずつ答えを出していこう。とりあえずつまらない失点を防ごう。「粘り強い守備からの素早い攻撃」、ここからブレちゃいけない。


附記1、指宿洋史選手のジェフへの完全移籍には驚きましたね。開幕早々だもんなぁ。まぁ、彼は千葉県の出身なんですよね。新天地でも大いに暴れてください。アリエ・アリエ・アリオー!

2、試合後、三宮のビールバーで関西在住アルビサポと話す機会がありました。力説していたのは「新潟の価値は離れて暮らしてみないとわからない」です。新潟がどんなに素晴らしい土地か、アルビがJ1にとどまり続けているのがどんなにすごいことか、故郷で暮らしている人のほうがわかってないと言います。まぁ、絶景といわれる日本海の夕陽も毎日見てる人には何の変哲もない当たり前になっちゃうみたいなことでしょうか。とりあえず「アル関西」旗揚げをそそのかしておきました。

3、『国際報道2017』(NHK-BS1、3月2日放映分)を見ていて「失業者がTシャツで大成功」というニュースに出くわしました。フランス南部の街アルビで去年5月、(当時)失業中だった男性が「PARIS NEW-YORK TOKYO ALBI」と胸プリントしたTシャツ&パーカーを考案し、現在、大ヒット中とのことです。男性は娘さんのパジャマに「PARIS NEW-YORK TOKYO」の文字が並んでたのにヒントを得て、そこに自分の住む「ALBI」という田舎町の名を加えたところ、これが大ウケ。同じく失業していた友人と会社を設立、今では「ALBI」部分に注文に応じて自分の街の名を入れられるサービスを始める等、手広く商売しているとのことでした。

4、ちなみに僕はこのアルビ(ALBI)という地名に魅かれ、わざわざフランス旅行に出かけたアルビサポの夫婦を知っています。その名前じゃなかったら一生訪れることのなかった街でしょう。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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