【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第323回

2017/4/6
 「フェブレ・フットボレイラ」

 横浜駅からみなとみらい線で7分、日本大通り駅(県庁・大さん橋)で下車すると、出口直結でそのまま横浜情報文化センターの建物に入れる。ここは旧横浜商工奨励館の建物を保全し、メディア関連施設として活用した場所だ。日本新聞博物館が入ってることでも知られている。もうひとつ名高いのが8、9階の「放送ライブラリー」(公益財団法人 放送番組センター)である。今週は国際マッチデーウイークの関係でJ1リーグ戦がお休みだ。僕はフリーテーマのネタを求めて「放送ライブラリー」を目指した。

 目的地は8階、視聴ホールだ。受付を済ませ、ブースの番号札をもらって、勝手に自分でその番号ブースに行く。何かインターネットカフェを思わせる運営方式だ。ただもちろんのこと「モニターがネットにつながってない」&「飲み食い厳禁」だから、実態はぜんぜんネットカフェではない。「放送ライブラリーは、放送法の指定を受けたわが国唯一の放送番組専門のアーカイブ施設」(パンフレットより)なんである。収蔵した約3万本のテレビ、ラジオ、CM、ニュース映画等が何と無料で視聴できてしまう。

 事前に公式HPの番組検索ワードに「アルビレックス新潟」を入力してみると、懐かしい番組名が上がった。「フェブレ・フットボレイラ/Fiebre Futbolera」(エフエムラジオ新潟)。放送日は2004年11月20日。尺は23分間(つまり、CMを入れて30分番組の構成)。出演者は「朝妻均、森下英矢」、スタッフは「制作・杉原孝之、演出・脚本・山口聡、技術・五十嵐裕明、構成・杉原孝之」。

 概要の欄が興味深いのだ。
 「アルビレックス新潟」のサポーター組織『アライアンス2002』の協力で、地元のアルビレックスを応援し、さらにサッカースポーツ全体の楽しみを共有する。毎週土曜の生放送番組。MCは森下英矢(NAMARA)、コメンテーターは朝妻均(アライアンス2002)。(2004年4月放送開始)。◆この日は、FM新潟主催イベント「スノージャム」会場からの公開生放送。ゲストは植田朝日氏(FC東京サポーター)と林宗應(ペンパルズ)。「アルビレックス新潟」vs「FC東京」のゲーム終了直後ということで、両チームが様々な場面でつながりや因縁があることを紹介される。そして『ペンパルズ』の曲がアルビレックス応援ソングとなったいきさつ、サッカーとサポーターの結びつき、地域と地元プロスポーツチームの関係、サポーターの気構えなどが話題になる」

 まず、最初にツッコミを入れなきゃならないのは出演者「アライアンス2002の朝妻均」だ。これはどう考えても「浅妻信」であるべきだ。浅妻さんなら僕も旧知の間柄だ。何で間違っちゃってるのか、このままじゃ後世のアルビ研究者が「朝妻均」と「浅妻信」と、2人のアサツマがいたと勘違いしかねない。それから出演者をクレジットするならゲストのペンパルズ林さんや植田朝日さんを書くべきだろう。放送日を見て記憶がよみがえった方もおられるのじゃないか。2004年11月20日は新潟県中越地震の後、初めてビッグスワンで試合をやった日だ。ペンパルズがゴール裏へ向けて激励のライブを敢行した。

 この日の試合はよく覚えている。まだ当コラムは始まっていない。『サッカーマガジン』連載の取材を兼ねて、家族と1泊2日の復興支援旅行を計画した。確か新幹線は復旧してなかったはずだ。クルマで関越道を行くとき、路面が大きく波打っているのに驚いた。試合は4対2の快勝だ。あのときは「サッカー以上の力」がスタジアムに凝縮していた。山古志村の子供らが来ていた。新潟は全存在をかけて勝たねばならず、そして勝った。

 番組はNAMARA森下さんの軽快なトークでスタートする。森下さんも(今、スタジアムDJで聞いてる感じより)やっぱり声が若い。最初に浅妻信さんが紹介されて、浅妻さんが恥ずかしそうにゴニョゴニョ言う。で、ゲスト紹介だ。植田さんが「はいどーも、ナビスコカップチャンピオンの植田朝日です」(FC東京はこの年11月、初タイトルを獲得したばかり)と自己紹介するのも時代を感じさせる。ペンパルズ林宗應さんは三度目のビッグスワンだった由。実はこの時期、個人ユニットに活動の中心を移行させていて、ペンパルズのメンバーが揃うのは久々だったという。

 ちょっと意外なのは誰も新潟県中越地震に直接言及しなかったことだ。試合が無事行われ、当たり前の日常が取り戻せたという喜びを皆、言外に匂わせつつ、あえて言葉にはしない。僕はこれは地元局だからだろうと思った。東京のスタジオでこれをやれば、くどいくらい局アナが「地震の爪痕が残るなか、立ち上がった被災地新潟」を伝えただろう。地元局はデリケートなのだ。傷ついてる人もいる。つらいのは皆、わかってる。前提が揃ってるから説明が省かれる感覚だ。言わなくてもわかることは言わない。だもんで出演者諸氏の思ってる以上に「フェブレ・フットボレイラ」はチャラい番組に聞こえていた。後世のアルビ研究者がそこら辺の機微を汲んでくれるかどうか。

 あと興味深かったのは植田朝日さんのアルビに関するコメントだ。メモを取る時間がなかったので以下大意。
 JFLでもJ2でもFC東京の節目の試合にはいつもアルビが関わってる。最近はいつも鈴木慎吾にやられてる印象で、いい選手だと思うから今度は鈴木慎吾をFC東京にいただくことにしたい。という冗談はともかく、これからもうまくやっていけたらいい。
 アルビは大したもんだ。優勝争いもしない降格もしないで、この盛り上がりがあと2、3年続いたらすごい。

 まぁ、上から目線と口の悪さは植田さんの芸風みたいなもんだからお気になさらず。実際は意外と情に厚いタイプだと思う。それよりも「優勝争いもしない降格もしないで、この盛り上がりがあと2、3年」だ。アルビ昇格の2004年、他からはそう見えていたのだ。新潟の熱は疑いようがない。それは地震でも微動だにしなかった。それがこのまま続くのか? この先、優勝争いにチームを押し上げるのか? 反動で急速にしぼむのか?

 放送日から13年後の未来を生きている僕らは答えを知っている。「優勝争いもしない降格もしない」はずっとキープされる。それは決してネガティブなことじゃない。Jリーグの歴史では、親会社を持たない、インデペンデントな地方クラブの成功例に数えられる。が今、そのプライドと閉塞感とが二つサポーターの胸にある。過去のラジオ番組は期せずして今を映し出す鏡の働きをする。

 しかし、「フェブレ・フットボレイラ」(英語にすれば「フットボール・フィーバー」)の自由さはどうだろう。この日は14時キックオフ、18時番組開始だ。さっき見た試合のことを生放送で話している。

 実は僕もこの番組に出演したことがある。あいにく「放送ライブラリー」にアーカイブは残ってないが、2005年5月14日鹿島戦の後だ。まだ当コラムは影も形もない。日光アイスバックスGK、春名真仁がスポーツフェスタの仕事か何かで市陸に呼ばれたのだ。で、経緯は端折るけど一緒に鹿島戦を見ることになった。見終わったらほとんど有無を言わさずタクシーに乗せられて、万代ビルボードプレース2のサテライトスタジオへ連行された。そのとき、NAMARAの森下英矢さん(もしかすると中村博和さんも?)とご挨拶した記憶がある。スタジオトークの相手は浅妻信さんと西塚章仁さんだった。まだ西塚さんは「サッカーショップ24」を経営してたはずだ。

 アイスホッケー日本代表GKと『サッカーマガジン』の人気コラムニストは、問われるままに「さっき見た鹿島戦」の話をした。台本なんか一切なかった。僕は確かその日のウェブ日記に「幕末でもないのに、新潟には面白い連中がいる」と書いたのだ。サポーター発のラジオ番組は強く印象に残った。

 今こそ「フェブレ・フットボレイラ」みたいなサッカー番組があったらいいのになと思う。あんまりお仕事お仕事したやつより、サッカー好きが勝手にやってる感じのほうがエネルギーが生まれる。興味を持たれた方は横浜の「放送ライブラリー」へ行っていつでも現物に当たってほしい。ものすごく素人くさいけど、魅力ある番組だ。何かがそこからひょっこり生まれて来そうな番組だ。


附記1、日本代表はUAE戦、タイ戦と連勝できてよかったですね。ゴートクのボランチ出場も新鮮に映りました。

2、増田繁人選手の町田への期限付き移籍が発表になりました。山口へ期限付き移籍した小塚和季選手(こないだのシュートすごかった!)もそうですが、かつてお世話になったクラブから望まれて声がかかるのは素晴らしいことです。試合に出て、更に大きく飛躍してほしいと思います。

3、ホニ選手交通事故の一報には肝を冷やしました。双方大したことないようで本当によかったです。

4、ちなみに「放送ライブラリー」にはFM-PORTの松村道子さんの特番なんかも保存されてます。本当に一度、遊びに行くとハマりますよ。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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