【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第324回

2017/4/13
 「リードしてからの時間帯」

 J1第5節、新潟×G大阪。
 フィンランド航空の機内でこれを書いている。これからフィンランドリーグ開幕戦取材でヘルシンキへ向かうところだ。もちろん田中亜土夢に会ってくる。詳しくは「新潟レッツゴー!」番外編として新潟日報に寄稿する予定だ。リーグのベストイレブンに選出される等、亜土夢は既にHJKヘルシンキの顔になっている。昨シーズン、UEFAヨーロッパリーグ予選で骨折して以来のビッグゲームだ。活躍を楽しみにしている。

 ガンバ戦はNHKーBS録画だった。この日はアイスホッケー・アジアリーグのプレーオフ(セミファイナル)第4戦、ロシアのサハリンと延長戦を戦った後、東武特急スペーシアでトンボ返りして、リビングのTVモニターにかじりついた。ホッケーのプレーオフに負け、ガンバ戦も敗れた。4月1日、エイプリルフールのウソだったらいいのに。録画を見終えた夜遅く、ちょっと凹んでいた。窓を開けて空気を入れ替える。外気は冷たくて、10秒程度で限界だった。

 試合。立ち上がりから主導権を握られた。新潟はブロックをつくる守り方だが、もうひとつハマッていない。前半9分、代表帰りの倉田秋にいきなり先制弾を食らう。クロスのこぼれにワントラップ入れて、左足を振り抜かれた。

 ほんのわずかフリーにしただけだ。守備陣形は整っていて、そんなに悪い感じはなかった。あれがやられるのか。強いて言えば左サイドをもう少し抑えたい。このところずっとそうだ。スカウティングで狙われてるんじゃないか。あそこで楽に仕事されると、エリア内のDFは水際対応に追われることになる。

 で、そこは修正がはかられたのだと思う。強めにプレスに行くことで、試合のバランスがだんだん変化し始める。この日はホニ、チアゴ・ガリャルドの2トップが目立った。すっかり日本のサッカーにフィットしてきた。見るからに点取りそうな雰囲気だ。

 前半17分、矢野貴章のスルーパスを受けたホニがエリア内で倒される。ファビオがとっさにそうするくらいホニは危険だった。PK獲得。キッカーは山崎亮平。ギュンギュン、これを落ち着いて決めて今季初ゴール!

 1対1でハーフタイムに入る。今季ずっと先制点を奪われる展開が続いているが、今日はサクッと追いつけた。ガンバの出来はそんなにいいとは思えない。代表戦の今野負傷欠場も確実に影響してるだろう。

 後半10分、新潟が先手を取る。チアゴ・ガリャルドからスルーパスを受けたホニがDFを置き去りにした。最高のパスと最高の抜け出し。ホニ越後路ひとり旅。シュートモーションも小さく(ていうかほとんどなく)、トンッと敵GK東口の脇を通す。痛快無比の勝ち越しゴールだ! ゴールの後はバク転&ゆりかごダンスだ!

 あんな派手なシーン見せられたらスタジアムは沸騰する。今季初めて新潟がリードする展開になった。先制されちゃいつもスポーツニュースで「追いつきたい新潟は」と要約されてきた。何だ「追いつきたい新潟」って、あと「波に乗りたい新潟」っていうのもあるか。ヘンな上の句つけないでほしい。「追いつきたい新潟」は暗に「追いつけない」と言われてるようだ。「追いつきたい新潟は○分、○○のクロスに△△が頭で合わせますが、これはクロスバーの上」って言い方を何べん聞かされたことか。

 という話で行くと後半その後の展開は「追いつかれたくない新潟」だったろうか。リードして気持ちが守りに入った。DFラインが下がり過ぎ、ずっと押し込まれっぱなしになる。クリアが拾われ、つなごうとして突っつかれ、感覚的には波状攻撃を30分ほど受け続けた。だけど、面白いのだ。この間、三浦文丈監督の選手交代は攻撃の駒ばかりだ。監督のメッセージは「攻めろ」(正確には、相手が前がかりになったところをカウンターで攻めろ)、ピッチ上の選手の気持ちは「守れ」、この時間帯は本当にチグハグだった。

 この「追いつかれたくない新潟」問題は、リードした後の試合運びという戦術的課題だ。これはビデオをすり切れるまで見直して解析してほしい(今はすり切れないけど)。チームのバランスはどこに置くべきか。勝ち切るためには何が必要だったか。この教訓を生かさねばチームは永遠に勝利できない。「追いつかれたくない新潟」は暗に「追いつかれる」と言ってることになる。

 そこからの2失点を記さねばならない。後半31分、FKからキム・ジョンヤのヘッド。後半40分、こぼれ球を拾った井出口陽介の決勝弾。どちらも人はいた。人はいたはずなのに何故かあっさりゴールを割られている。つまり、勝ち切れず、守り切れなかったのだ。


附記1、現在、ロシア上空高度11.582メートルです。案内モニターによるともうすぐノリリスクという街とのこと。窓から見下ろす景色は真っ白に凍てついています。原稿書いてて、あらためてちょっと凹んできました。CAさんがアイスクリームをくれました。

2、ホントは「ホニ越後路ひとり旅」というタイトルで、ウキウキの原稿が書きたかったです。ホニは華がありますね。素晴らしい選手を獲得しました。

3、チアゴ・ガリャルドも才気を見せましたね。交代のとき、ちょっと表情が険しくてハラハラしましたけど、別に問題ないようです。男前ですよね。僕は(往年の反町さんのように)「ガリャルドカリャルド、男前!」やってほしい。

4、この悔しさを必ず晴らしましょう。悔しさはスポーツの原点ですよ。僕は試合最後の「アイシテル新潟」エンドレスループを忘れません。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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