【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第327回

2017/5/4
  「(前半よいよい)後半こわい」

 J1第8節、新潟×FC東京。
 0対3の完敗ではあるけれど、今季いちばん中身のあった試合。特に前半は動きの質量ともにFC東京を凌駕していた。あれ、だいぶ出来てきたじゃん、と母校の新校舎建設現場の前を通りがかったような感想を持つ。山崎亮平、加藤大の上下動がハンパない。特に加藤の充実ぶりがうかがえた。ボランチもよくつぶしに行けていた(欲を言えばロメロ・フランクにもっと安定感が欲しい)。チアゴ・ガリャルドとホニのところは見るたびに良くなってる。他との比較ではなく、チームの完成度だけを見ればいいとこまで来たと思う。但し、問題は「他との比較」だ。サッカーは「自分のスモウを取り切るだけッス」というわけにいかない。

 フィニッシュの精度。決定力の問題。それが露呈した試合といえるだろう。システムは出来てきても点が取れなければ勝利に結びつかない。そしてシュートが枠内に行かなければ点は取れない。率直に言って僕は練習だと思うのだ。システムやオーガナイズの部分と違って、フィニッシュは個人の技術だ。僕は(以前も書いたことだが)野球取材の経験が長いので、なぜサッカー選手が反復練習をもっとやり込まないのかわからない。例えばプロ野球の2軍選手は(実戦では変化球で崩されるとしても)毎日バットを振り込んで「自分の形」をつくる。それはもう執念のように反復して身体に叩き込むのだ。サッカーでも釜本邦茂、中村俊輔といったビッグネームはそういうアプローチをしている。

 現状では新潟はそう何点も取れるチームではない。が、だいぶ見えてきた。90分、これをやり切れば試合はつくれそうだ。問題点をひとつ指摘すると選手交代だろう。まぁ、この試合は最後、大野和成を投入して「ソン・ジュフンを前線に上げてパワープレー」という手を打って、あまり機能しなかった(ソン・ジュフンあんまり練習でやってないか苦手か、どっちかじゃないかな。しっかり前線で張れてなかった)のだが、それよりもっと継続して問題となってる案件がある。

 「ホニ、チアゴの交代」だ。この2人が下がってしまうとガクッと攻撃力が落ちる。相手からすると脅威が減る。だもんでゲームバランスが変化してしまう。「だいぶ見えてきた」のはホニ、チアゴ・ガリャルドありきの組織戦術だ。僕は交代で入る田中達也、鈴木武蔵らを決して悪く言うつもりはない。彼らの良さが生きないのだ。「ホニ、チアゴの交代」は何とかならないだろうか。「90分使い切る」は不可能なのか。例えば逆転の発想で「前半はハードワーカーで敵DFを疲れさせ、後半から2人を投入」は難しいかなぁ。

 ところで3失点の仔細だが、あれは「守備崩壊」というような話じゃない気がする。大久保嘉人にやられてしまった。審判の判定如何では展開は異なったと思う。といって「判定如何で勝てていたか?」といえば負けてたと思う。そこなのだ、非常に困るのは。点差ほどやられてないから余計に重症に感じられてしまう。本拠地初勝利はいつになるだろう。


 YBCルヴァンカップ第3節(Bグループ)、横浜FM×新潟。
 ニッパツ三ツ沢球技場で行われた旧「ナビスコ」カップ戦。ずっとスカパー観戦だったが、生で見たかった。新戦力や「新鮮力」を見ることができる。リーグ戦の出場メンバーが比較的固定し、システムとして仕上がってきてもいるし、それはそれで閉塞感をもたらしてもいる微妙な状況下だ。割って入って来る面白い選手はいないだろうか。

 元「サッカーマガジン」編集長の平澤大輔さんと現地で落ち合った。平澤さんは新卒でベースボールマガジン社に入社し、サカマガに配属になって、最初に担当したのが横浜マリノスだった。初めて取材に来たのが三ツ沢で、その年のルーキーが筑波大卒の三浦文丈選手だった由。「同期」ということで当時いちばん親しかった選手らしい。思い出のニッパツ三ツ沢で2人ともアルビ側というめぐり合わせの面白さである。しかも、平澤さんは僕と言葉を交わした後、マフラーをして新潟ゴール裏へ向かった。

 とにかくスタメン表でひと際、目を引いたのは「MF 6 ジャン・パトリック」である。(聖籠へ行けないサポは)これまでインスタグラムでしか見たことがない。実在する選手なのか、もしかすると「都市伝説」なのか。様々な憶測を生んだ24歳のボランチだ。ウォームアップする姿を見て、これは「実在する」と興奮した。

 そうしたら実在するも何も前半18分、先制ゴールを決めて新潟ゴール裏の前でガッツポーズだ。派手な実戦デビューである。もっとも同32分にはエリア内でファウルを取られPKを献上している。こういう雑というか危なっかしいキャラなのだろうか。この日見た範囲では使われなかった理由が他に思いつかない。もう一枚のボランチ、本間勲をはじめ他の選手との距離感をうまく保ち、ポジショニングを工夫していた。何よりボールをいったん持てる。ボランチにジャンがいて、1列前にチアゴ・ガリャルドがいて、両方にあずけられたらすごくいいのにと思った。まぁ、毎日見てるフミタケさんがそうしないのだから何か課題があるのだろう。

 試合はそこから4失点。後半は散々なものになった。誰が良かったとか悪かったという以前の話だ。気持ちが切れてしまった。気持ちが入っていてきびしく寄せるだけで防げた失点があったと思う。試合後、平澤さんと三ツ沢上町駅まで歩いたけど、僕はその話をずっとしていた。つらいものがある。チームが負け慣れてきた。サポも疲れてきた。アルビレックスの明日はどっちだ。


附記1、ボールは丸い。サッカーは続きます。顔を上げていきましょう。いよいよ週末からGW突入ですね。30日の柏戦は安英学さんの引退セレモニーがあります。「♪イギョライギョラ、アンヨンハ~」歌うのかなぁ。感無量だなぁ。

2、ヨンハに恥じない戦いをしましょう。

3、ちょっとタイミングが遅くなりました。加藤大選手、ご入籍おめでとうございます。より一層の飛躍を祈念します。

4、僕が通ってる台東区の歯医者で最近、歯科衛生士さんが交代して、話してたら南魚沼市出身の女性でした。「じゃ、小玉屋行った?」と浦佐駅前のローカルファミレスの話を振ったら、この人は何者だろうという目で見られましたね。何か同級生が小玉屋の近くでレストランを始めたそうです。って何人くらいに伝わる話なのか。まだアルビの試合は見たことないそうです。 

 
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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