【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第337回

2017/7/13
 「5連敗」

 J1第17節、新潟×磐田。
 この日は別件の取材で首都圏を動けなくなり、NHK-BS1のテレビ観戦だった。乃木坂46のオープニング映像が終わって、現地映像が矢野貴章のアップで始まる。雨は上がっていた。気温24℃、湿度67%とのこと。早いものでこの試合でシーズン折り返しだ。好調磐田(3連勝中!)は前々泊で新潟入りしたと聞いている。「呂比須vs名波」のフランスW杯日本代表対決はサッカーファンにとって格別の興趣でもある。

 スタメンで驚いたのは富澤清太郎の不在だった。前日、新潟日報に西村竜馬の記事が出ていて、ソン・ジュフンの代わりに入るのかなと思っていたらそうじゃなかった。カンペーさんは何らかのコンディション不良だろう(リザーブにも入らない)。ジュフン&竜馬の若きCBコンビに頑張ってもらうことになる。

 まず最初に書いておきたいこと。NHK-BS中継に映し出されたデンカビッグスワンの光景は依然として素晴らしかった。当日は2万2千人強という観客数で、往時の4万人には遠く及ばない。その2万2千人だってフロントの営業努力あっての数字だ。放っておいたら2万人を下回ったと思う。この日も空席の多さを嘆くLINEが知人サポから届いた。だけどね、皆、当たり前すぎて忘れてるんだよ。こんなに人の集まるスタジアム、他にあんまりない。(アウェー動員も含め)ファン、サポーターの多さは今でも立派にアルビレックス新潟のストロングポイントだ。

 この日の試合は前節・鹿島戦のポジティブな部分を反映できるか否かにかかっていた。勝敗以前のところで今のアルビにはトライしたことへの自信というか、ステップアップの実感みたいなものが必要だ。もちろんその手応えが結果にも結びついて勝ち点3ゲットというのが理想だ(だって最下位だ!)。あの内容を再現できれば好ゲームになるんじゃないかと思っていた。

 で、実際どうだったかというと内容良くなかった。より正確に言うと良い内容の時間が短かった。あれぇ、おっかしいなという感じだ。何で一度うまくいったことが続かないんだろうか。まぁ敵には日本サッカーの至宝・中村俊輔がいて、そりゃ展開力も段違いなんだけど、それでも歯が立たないわけじゃない。戦術的にはどう解析できるだろう。元サカマガ編集長、平澤大輔さんの指摘を見よう。

 「鹿島戦で手に入れたポジティブな要素をわざわざ手放すもったいなさといったら…。鹿島戦でボールの流れが良かったのは、加藤が生き生きとボールに触っていたからだと思います。かゆいところに手が届くポジショニングが冴えていました。しかし、磐田戦では別人のように引っ込み思案というか、なかなか顔が見えませんでした。代わりに小泉が高い位置に出てセカンドボールを拾ったり展開のパスを散らしていました」(平澤メモ)

 まぁ加藤大ひとりのせいではないと思うが、重要なカギではあった。中盤が薄かった。というか、あちこち薄いのだ。フォローや連動性がなくて、個々がほったらかし。で、ほったらかされたボールホルダーがいっぱいいっぱいでつなごうとする。つないで運んでも常に苦しい。余裕がないのだ。一方、磐田は困ったら中村俊輔にあずけられる。と、ひと呼吸つくってくれる。チームが落ち着き、それが構成力、展開力の差につながっていく。

 もちろん加藤大に対し「中村俊輔になれ!」というのは無理がある。大の良さを出してくれればいいのだ。適切な距離で動き回り、プレスにサポートに奔走すること。それがチームにサッカーをさせていたと思う。鹿島戦は大が率先してやり、チーム全体がそれに続いた感じだったんじゃないかな。何で翌週、こんなスカスカなサッカーになってしまうのか。

 先制失点はクリアミスがらみだった。敵CKのこぼれ球を西村竜馬がクリアミス(ほぼ空振りというのか、ゴルフでいうダフった状態になり、アダイウトンにプレゼントパス)、そこからサイドで中村俊輔に持たれ、フリーになった高橋祥平にシュートを打たれたもの(前半40分、記録はオウンゴール)。残念だが、チームに「またか」という感じができてしまった。これは竜馬にも、欠場した富澤にも不幸なことだった。

 後半9分の失点は加藤大が下がりながらクリアしたのが中途半端になり、櫻内渚に決められたもの。これも「クリアミス」と言えるが、櫻内のシュートのほうを誉めるべきだろう。いずれにせよ見事に攻略されている。かつて看板だった「堅守」は見る影もない。今は終盤戦まで持ちこたえられないのだ。

 2点先制してしまえば磐田は引いて守ればいい。新潟はブラジル人がイライラをつのらせるだけで、攻めが全く形を成さない。ホニとガリャルドは規律が必要に見えた。言葉の通じる呂比須監督からセルフィッシュな態度を戒めてもらいたい。これは後半戦、すごく大事なポイントになる。

 結局、新潟はシュート1本で試合を終えた。開始早々、矢野貴章がサイドをえぐり、ホニがオーバーヘッドをかましたあの1本だけだ。これでは勝てないよ。シーズン折り返してチームは最下位に沈んだままだ。勝ち点はわずか8。クラブワーストの5連敗というおまけまでついてしまった。


附記1、「ああ嫌だ嫌だ嫌だ。どうしたなら人の声も聞こえない、物の音もしない、静かな、自分の心も何もぼうつとして、物思いのない処(ところ)へ行かれるであらう。つまらぬ、くだらぬ、面白くない、情けない悲しい心細い中に、何時(いつ)まで私は止められてゐるのかしら。これが一生か、一生がこれか、ああ嫌だ嫌だ」(『にごりえ』)と明治の女流作家、樋口一葉さんも書いておられます。応援してるJリーグチームが最下位なんだと思います。暗に「これがサッカーか、サッカーがこれか」とお怒りなんだと思います。

2、一葉さん、顔を上げましょう。

3、次節・浦和戦は敵将ミシャさんが「新潟戦に勝って、そこから連勝がスタートできなければ私がまず最初に出ていく」と進退を(バスを止めて猛抗議したサポに)明言したようですね。
 

えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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