【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第338回

2017/7/20
 「NO.57」

 J1第18節、浦和×新潟。
 日中、知人のトークイベントに顔を出し、埼スタにはぎりぎりに到着して、報道受付で取材パスをもらったら「NO.57」だった。これはフリー記者の57番めという意味だ。新聞・雑誌、テレビ・ラジオ等の各媒体は社名入りの取材パスがあるから、つまり報道陣は楽勝で100人を突破している。中継クルーも入れたら150人くらい行ってたんじゃないか。日本代表戦級だ。浦和・ペトロヴィッチ監督の去就が注目を集めていた。

 実は浦和は中3日の日程だった。ACLのため未消化だった13節・川崎戦をミッドウィーク(5日)に戦い、1対4で敗れていた。試合後、激した浦和サポーターグループが等々力競技場の外で詰め寄ったらしい。ペトロヴィッチ監督が応じるなかで、つい「新潟戦から連勝スタートできなければ、私がいちばんにこのチームを去る」と進退を口にしたという。これは(一般紙も含め)新聞各紙が報じるところとなった。

 ミシャさんにとっては口は災いのもとというか、いったん口から出たことはあっという間に既成事実化するというような事例だったろう。新潟戦はあたかも「辞任覚悟の一戦」みたいな様相になった。鬼門・埼スタに乗り込む新潟にはいい迷惑だった。別にミシャさんの首なんか獲りたくない。そんなことより何とか勝ち点を拾って、浮上を目指すのみだ。まぁ聞きようによっては「新潟相手に負けるわけない(引き分けもない)」と公言されたに等しく、釈然としないものは残る。が、雑音にかまけている余裕なんかないのだ。

 対浦和戦術。チームタスクの実践。そこに意をこらす。新潟は1週間かけて準備ができた。通常の「4-2-3-1」システムでなく、守備的な「4-5-1」システムを採用する。プレスも3種類(ハイプレス、ミドルプレス、ロープレス)練習し、戦況によって使い分けるイメージだ。この日、首都圏は猛暑に見舞われ、試合開始時のピッチレベルは32℃もあった。鬼プレスには適さないコンディションだ。引いて待ち受けるロープレスが多用されるだろうか。

 出場停止のホニに代わって鈴木武蔵がスタメン起用だ。チアゴ・ガリャルドは週半ばの練習を一日休んでいて、ケガを心配したがどうも風邪だったらしい。病み上がりのこの日は行けるところまでという感じだったろうか。「4-5-1」と中盤を厚くした意図はパスコースを消すことだ。浦和は細かいパスをつないでくる。それをなるべく「5」のどこかに引っかけたい。引っかけて奪ったボールは、チアゴに預ける等して前線に送られる。ざっくりしたところはこんなイメージじゃなかったか。

 試合。入りは良くない。守備のシステムが相手を掴(つか)めていない。準備してきたこと(成岡翔らが「仮想浦和」役を務め、対応を練ってきた)と噛み合わせが違っている。で、どうしたかというと試合中に選手が話し合って「5-4-1」に変更するのだ。呂比須監督は大らかにそれを許容した。こういう自発的な動きが出てくるのは望ましいことだ。自発性こそサッカーの本質だ。萎縮(いしゅく)しても意味がない。どん底を脱するためにチームがまとまってきた。

 で、浦和がなるほどなぁと納得してしまうほどうまく行ってなかった。パスがずれる。意図が合わない。新潟の守備に穴が開いてもどこかでミスしてくれる。こんなちぐはぐな浦和はあんまり見たことがない。どうにかしのいでいるうち、カウンターから先制点を奪う。前半35分だ。山崎亮平のシュートはDFにはね返されたが、それを矢野貴章が拾ってクロス、小泉慶が決めた! やっぱりゴール前に人数をかけるのが大事なんだな。

 で、新潟は次第に守備の対応に慣れてきた。危ないシーンがないわけじゃない(CBコンビはボールを見てるとマークが外れる)んだけど、何とかなりそうな感じがしてきた。落ち着くことだ。相手が来るところを落ち着いて仕留めればいい。山崎亮平が最高の仕事をしている。貴章が競ってくれるのと、山崎ギュンギュンが駆け引きでおさめてくれるのと、2つ行き先があるのがすごくいい。時計が進む。最後はベンチワークかなと思った。チアゴ・ガリャルドがぜんぜん動けなくなっている。

 まぁ、たぶん読者も、チアゴのところを手当てできなかったろうかと思っておいでじゃないか。呂比須監督は会見コメントで「交代する場面、うまくいってるときにチェンジするとバランスが崩れるかもしれない、そう考えていました」と振り返った。判断の難しいところだったかな。後半29分、CKのこぼれ球を大きく横に振られてミドルを打たれ、そのポストの跳ね返りを阿部勇樹に蹴り込まれる。新潟はボールを動かされると弱い。こういう場面こそパスコースを消して、中盤のどこかで引っかけたかった。

 後半34分の逆転弾(得点者、ラファエル・シルバ)はフリーをつくってしまった。しかも「赤いラファ」の恩返しゴールだ。まぁ、終盤はずっと押し込まれていたからいつかは決壊するなという感じではあった。打つ手はなかったかな。新潟は後半の試合運びがナイーブすぎる。失点すると自信を失ってガタガタになってしまう。

 途中まではミシャさんを追い詰めたのだった。浦和の選手らにありありと焦りの色が浮かんでいた。ミシャさんも内心穏やかじゃなかったと思うのだ。新潟は鬼門・埼スタでひと泡吹かせてやる千載一遇のチャンスを逸した。残念無念である。


附記1、というわけでクラブワーストの6連敗&最下位(勝ち点8)でサマーブレイクです。名古屋から磯村亮太選手の移籍も決まり、新戦力を加えてチーム再建です。この前半戦(プラス1試合)はファン、サポーターの期待を大きく裏切りました。反撃しましょう。このまま終わったら新潟の名折れですよ。

2、天皇杯セレッソ戦は延長戦にもつれ込む熱戦でした。延長前半、先手を取ったんだけどなぁ。まさかの逆転負け(2対3)ですよ。ただ呂比須監督は「今までで一番やりたいサッカーができた」とポジティブにとらえておられます。

3、山崎亮平選手は大丈夫でしょうか。浦和戦で負傷交代し、天皇杯セレッソ戦ではウォーミングアップ中にアクシデントが発生したようです。大ごとじゃないといいなぁ。
 

えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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