【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第343回

2017/8/24
 「ファイト」

 J1第22節、大宮×新潟。
 タイムアップの笛が鳴って頭ぐらんぐらんした。負けたんだ。しばらく呆然とNACK5スタジアムの光景を見つめていた。これは頑張った試合だ。チームとしては非常によく戦った。守備戦術に問題があり、危なっかしいシーンが続出したが、全体として0対1の接戦になったのは選手個々の奮闘のたまものだ。運が良ければ勝つチャンスだってあった。とにかくナイスファイトと言いたい。

 守備戦術の問題は90分を通してずっと付きまとった。試合の入りはいつものように新潟ペースだ。が、そのうちに防戦一方になってくる。こう、何というかボランチと最終ラインがむき出しというのか、えらい無防備な状態に見えるのだ。ずっと押し込まれる。元サッカーマガジンの平澤大輔さんが記者席にいて、このもどかしい感じについて明快な言葉をくれた。「ファーストディフェンダーが機能していない」。(本来、敵ボランチを見るべき)タンキとガリャルドがまともに守備をしていないのだ。すると、後ろは常に奔走してる感じになる。後手後手だ。大宮がまたうまく入り込んでいた。

 今節だけでなく、新潟の守備に関わる後手後手感は「ファーストディフェンダー」はどう仕事して、後ろはどうそれに連動するか、のチームとしての取り決めが甘いことが原因である。早急に改善してほしい。

 しかし、にも関わらずチームは本当によく闘っていた。無防備の丸裸なんだけど、個別具体で跳ね返すのだ。さすがにこの6ポイントマッチは勝たなきゃならない。すごい集中力だった。何しろ丸裸だからひとつ気を抜いたらやられてしまう。見ていてずっと生きた心地がしないんだけど、変なスリル感に興奮もしていた。ワンチャンくれ。新潟がやってるのはダメサッカーだけど、ワンチャンスあれば勝負には勝てるかもしれない。大宮だってそんなに良くはない。神様たのむよ。
 
 セットプレーかなと思ったのだ。得点が生まれそうな予感があった。大宮はCKをじゃんじゃん与えてくれる。呂比須体制になってセットプレーへ向ける意欲は格段に向上した。もう、ここまで来たらダメサッカーだろうが勝ちゃいいんだ。

 が、現実はまったく逆で、負けてしまった。僕はこの試合はクリアミスとかプレゼントパスみたいな凡ミスでなく、アヤがあって負けたと思う。それは具体的には選手交代だ。後半27分、磯村亮太に代えてホニ投入。このとき、ポジションの指示が徹底していなかった。呂比須監督に猛省を促したい。会見で呂比須さんは「ちゃんと選手に伝えた」と明言されているが、選手らのコメントを突き合わせていくと混乱が生じている。呂比須さんのイメージは矢野貴章右SB、小泉慶ボランチ、ホニ右MFであった。が、貴章本人でさえ自分が右SBに入ることを知らなかった。

 失点はその直後に起きている。しかも交代は相手ボールのタイミングだ。いっぺん取り止めることもできた。これまでの試合でも交代の直後、磯村がピッチサイドの呂比須さんのところへわざわざ出向き、どういう布陣にするのか確認するシーンがあった。これはコミニュケーションが取れてないと考えざるを得ない。後半28分、大宮・江坂任のゴールはまさに交代後の混乱のなかで起きたのだ。

 「交代してポジションがどうなるのか、というのはあった。指示もうまく伝わって来なかった。相手ボールが続いていたし、そこに集中するしかなかったので、ポジションを変わるタイミングもなくやられてしまった。結果論だが、相手のスローイングが続くなかでの交代だったが、マイボールになってからの交代であれば、というのはある」(矢野貴章コメント)

 「みんなに迷いがあった。だからこそ、ここは集中しなければならないと思っていたが、変な間ができてしまった。誰がどこに入るかわからず、そういうときこそ危険だとわかっていたが…」(富澤清太郎コメント)

 このコミニュケーション不全に関してなのだが、僕はもしかすると呂比須さんの日本語の問題もあるんじゃないかと思う。取材をしていて、呂比須さんにこちらの質問の意図が伝わってないのかなぁと感じることがあるのだ。これは他の記者さんからも聞いている。もちろん呂比須さんの日本語は流ちょうで日常会話では何ひとつ不足はない。が、職業上の伝達事項は、ひょっとしたらモトハルさん(渡邉基治通訳兼アシスタントコーチ)を介したほうがいいかもしれない。まぁそんなの杞憂であってほしいが、この大一番の勝負どころで、伝達ミスの混乱から失点食らってたんじゃ話にならないのだ。

 6ポイントマッチで敗れたことは大きなダメージだ。痛すぎる。本当に苦しくなった。じゃ、闘うことをやめるのか。これがお相撲ならね、残り休場で全部不戦敗ってことだってあるだろう。フットボーラーは闘うしかないんだ。凹んでたって何もいいことない。修正すべき点を修正し、次のファイトへ向かうだけ。


附記1、この間、人の動きがありましたね。鳥栖から小川佳純、富山貴光両選手が加わり、平松宗選手が長崎へ、西村竜馬選手が山形へ、鈴木武蔵選手が松本へ移籍することになりました。但し、5人とも期限付き移籍です。

2、甲子園の日本文理vs仙台育英は週末のベガルタ戦の前哨戦みたいでしたね。ビッグスワンで日本文理のかたき討ちをしましょう。思えば日本文理が準優勝した09年、当コラムの連載が始まったんですよ。

3、大宮戦の後はショックすぎて(夏風邪もあって)ちょっと寝込みました。本文中、呂比須さんを叩いてるように読めるかもしれませんが、直さなきゃ前へ進めないこともあります。以前、湘南ベルマーレ遠藤さちえさんのエピソードで紹介した通り、僕は呂比須さんの人間性には全幅の信頼を置いています。むっちゃ勝ちたいですね。

4、仙台戦の19日、『アルビSTADIUMスペシャル 緊急特番!奇跡を起こせ!俺たちのアルビ!』(NSTテレビ、14時~)という番組に出ることになりました。松木安太郎さん、内田潤さんらと共演です。よかったらご覧ください。

 
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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