【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第346回

2017/9/14
 「ラジオの夜」

 9月1日の夜、TBSラジオ『荻上チキのSession-22』(新潟ではBSNラジオでネット)に出演したのだ。特集テーマは「人気低迷!? 日本サッカーに今、何が必要なのか?」というものだった。担当ディレクターからは日本代表がロシアW杯出場を決めた今こそ、日本サッカーを取り巻く様々な問題を考えたいという企画説明を受けた。出演は番組パーソナリティーの荻上チキさん、南部広美さんのほか、フリーアナウンサーの倉敷保雄さん、サッカージャーナリストの小澤一郎さんだった。

 僕は同番組にはプロ野球回のゲストとして何度も呼ばれてるが、サッカーは初めてだった。プロ野球は居酒屋トークが大人気で、聴取率週間の恒例企画になっている。番組中、リスナーからも「サッカーはいつも『これでいいのか!?』と眉間にシワを寄せる話ばかりで、プロ野球がうらやましかった。えのきどさん、サッカーの楽しさを語ってください」というメールが来たが、確かに雰囲気が違う。なるほど、サッカーは日本代表でも、Jでも深刻なトーンで論じるのが定型化しているかもしれない。

 番組は前半、日本代表のオーストラリア戦を戦術的に総括した。あの試合は間違いなく「ハリルホジッチ監督のベストゲームだった」(小澤一郎さん)、「オーストラリアはパスサッカーに取り組んでいて、日本はそれで助かった面がある。以前のようにフィジカルを生かして来られたほうがやりにくかったと思う」(倉敷保雄さん)から始まって示唆に富むコメントがお二方から続出。またハルルホジッチ解任を意図したメディアの動きにも言及した。興味のある方はradikoのタイムフリー機能(これはモバアルに本稿がアップされる9月7日がぎりぎり)、もしくはTBSラジオクラウドでお聴きください。

 で、番組後半が「今、何が必要なのか!?」だったのだが、「何もかもが問題だと思いますよ」(スタジオ前室で、倉敷さん)というくらいだからもちろん本番中に収まりきらなかった。倉敷さんはCS中継の勃興期から現在の動画配信の現場まで、サッカー番組の最前線で仕事をしてきた方だから、そこに一つ問題意識の核を持っている。僕は日頃から「サッカー番組をつくる側も、見る側も、日韓W杯の頃より競技理解度もエネルギーも落ちてしまった」と聞かされている。当コラムでは番組に入らなかった部分を僕なりに補おうと思う。

 僕はDAZNの現場を知らないのだ。が、複数の出演者に聞いたところでは(過渡期ということなのか)時間もマンパワーも色々と足りてないらしい。コスト意識が先に立って、仕込みや下調べが雑になってるという。アルビに関係のある話をすると、スカパー時代は例えば「解説・水沼貴史、実況・八塚浩」のコンビが落下傘よろしく東京からやって来た。DAZNはコスト重視のため現地主義を採り、基本的にTeNY一択になるようだ。また(同様にコストカットのため)海外スポーツや下部リーグ等、「実況なし」も採用される。

 僕がラジオ番組中、倉敷さん小澤さんに投げようとして、今一つ不発に終わった問いがある。サッカーはコア層と一般が乖離(かいり)してしまったのだ。専門局を視聴するファンと、盛り上がるときは代表で騒ごうという一般が二極分化してしまった。で、統計的にはコア層は高齢化の一途をたどっている。新しいファン層へ向けたアプローチはプロ野球や大相撲のほうが意欲的だったりする。

 おそらく倉敷さんも小澤さんもずっとコア層のサッカーファンへ向け、一種、啓蒙するような仕事を続けて来られたと思うのだ。特に海外サッカーのリアルについて教えられることが多かった。倉敷さんの実況、小澤さんの解説や記事に触れるたび、僕はこう、サッカーを見る解像度が上がったような気がする。本当に目が良くなったような錯覚に陥るのだ。

 が、ときにそれは情報のタコツボ化の内側であがいているような孤軍奮闘ではなかったろうか。倉敷さんは『Foot!』(J-sports)のMCを降板されたが、あれだけの長きにわたって、あれだけの情報量を伝え、それでも尚、顔を合わせると「このままじゃダメなんです」といらだちを表明する。「面白いことをしていた人がみんないなくなってしまった」と現場を嘆く。サッカーは「マニアック」な「サブカルチャー」の世界に幽閉され、外への広がりをなくしてしまった。海外サッカーもJリーグも一般の目には触れない。

 僕は南アW杯のときに見かけた「コア層と一般の乖離」の例をラジオで紹介した。この大会でスカパーはイビツァ・オシムさんの自宅にカメラを持ち込み、スタジオと随時つなぐという強力企画を実施していた。スタジオを仕切っていたのは倉敷さんだ。で、日本代表敗退の夜、番組はオシムさんの言葉を無言で噛みしめるような雰囲気になった。僕はスカパー的な文脈でそれを「名番組」だと思った。テレビなのに負けを噛みしめる時間が静かに流れる。

 と、後日、雑誌(学研の『TVライフ』誌)に掲載された放送作家・高須光聖さんの連載コラムがそれを「お通夜みたいな番組。何でこんなものを見せられているのか、見ていて腹が立った」と酷評しているのを発見した。高須さんといえばご存知の通り、ダウンタウンの番組なんかを手がけてきた才人だ。僕はずっと大好きで信用している。つまり、これは「非・スカパー的な文脈」からの意見なのだ。「外」と言ってもいい。「一般」と言ってもいい。テレビ的に「地上波の感覚」でもいい。

 「ロシアW杯出場決定の夜、渋谷にDJポリスが出現した」みたいな報道だけを見ると、サッカーは依然として盛り上がってるようだ。が、TBSラジオの特集テーマは「人気低迷!? 日本サッカーに今、何が必要なのか?」と、低迷が前提になっている。CS波→動画配信の流れはサッカーを「一般」から遠ざけてしまった。Jリーグは注目度を上げ、プレステージを高めるのを目的として2015年、2016年の2年間、「2シーズン制」や「チャンピオンシップ」を復活させたはずだが、結局、DAZNマネーが入ったら元戻りだ。

 僕はサッカーには外へ向かう力、新しい人に届く力がもっと必要だと思う。倉敷さんはユーチューブのオーストラリア戦・裏実況(フットボールチャンネルTV)をやって、新しい手応えをつかんだそうだ。小澤さんはスペインサッカーを書くだけでなく、常日頃、スペインの文化や国自体を好きになってもらうように努めているという。たぶん無数のサッカー好きが各々の持ち場でこうした営為を積み重ねていくしかないのだろう。お二人と別れ、タクシーに乗ってからもずっと考えを巡らせていたのだ。


附記1、日本代表のW杯出場も6大会連続になりますね。これは快挙です。「コア層と一般の乖離」とか何とか言っても、土台にあるのはその快挙です。僕の世代は出場回数ゼロの時代を知ってますからね。その奮闘の歴史に敬意を持っています。

2、倉敷保雄さんはJリーグサポの弱点として「相手に関心を持たない」を挙げていましたね。自分のチームしか興味なくて、そこだけを見ている。サッカーは相手あっての競技なのに相手のチームスタイル、相手選手の個性、戦術の噛み合わせを考えない。もっと自分のチームだけじゃなくて、サッカーを好きになってほしいと力説されてました。

3、週末は広島戦ですね。僕は翌日曜日のサテライト広島戦込みのフルコースです。2連勝を希望します。今月は父の一周忌があったり、アイスホッケーがかぶったりでしばらく見れなくなっちゃうんですよ。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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