【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第358回

2017/12/7
 「3連勝!」

 J1第33節、清水×新潟。
 前半折り返して0対2、降格が決まるってこういうことなんだなぁという感想だった。何もできない。サッカーにならない。監督さんの退任が決まり、主力選手に他からオファーが舞い込むような状況下で、しかもアウェーで、どうモチベーションを保てばいいのか。その点、清水はスタンドもピッチ内もとんでもないテンションだった。この試合に勝てばJ1残留が決まるのだ。出足が違う。プレッシングの嵐。新潟はボールは取られるし、セカンドも拾えないし、ホニへのロングボールだけ。そのロングボールも強風にあおられあっさりゴールラインを割る。見どころゼロ。

 僕は吹きさらしのスタンドに陣取る1200人見当のサポーターを思った。アイスタは高台にあるから風が吹きつける。皆、つらいだろう。前節、J2落ちが決まって落胆し、眠れぬ夜を過ごし、それでもチームを見捨てられないと駆けつけた連中なのだ。最高のサポーターだ。サッカーは生きてくための特別な何かだ。いいとこを見せてやってくれよ。もうこれ以上、傷つけないで欲しい。

 アルビは死んだのか。アルビは終わったのか。終わってることを確認するために1200人は静岡に来たのか。1点が必要だと思った。あいつらが自分の郷里を「希望がない」とか「金がない」とか呪いの言葉で台無しにしてしまわないうちに。1点が必要なんだ。あいつらがこの先ずっと自分の未来を肯定できるように。

 サポリンのバスツアー(通称「所沢バス」)に乗っかって来たからちょっと必要以上に感傷的だったかもしれない。朝の新宿で皆、当たり前のようにバスに乗り込んで来る姿が本当に嬉しかったのだ。皆、サッカーがあるのにサッカーを見ないなんてあり得ないんだ。誰ひとり「消化試合」なんて思っていない。勝ち続けて最下位脱出だ。ルヴァン杯の出場権ゲットだ。

 これは推測だけど、アルビの営業担当にとってルヴァン杯があるかないかは大違いだ。スポンサーセールスで「リーグ公式戦が何試合あって、それプラスJ1チームと当たるルヴァン杯戦がいちばん少ない場合でも何試合あります」と言えるかどうかがかかっている。これまではナビスコ&ルヴァン杯戦は地味なイメージだったけど、来年は「J1とやれる派手な試合」だ。もちろん入場料収入も上乗せされる。出場権を獲りに行かない手はない。

 そうしたらびっくりだ。後半はぜんぜん違う試合になった。清水はどうも前半、飛ばし過ぎたようだった。ガクッとテンションが落ち、足が止まる。コンパクトだった陣形が崩れ、散漫になってくる。アルビは死んではいなかった。ていうかフツーに戦意をキープしていた。面白い展開だ。流れが変わるどころか「逆流」が始まる。どう言えばいいかな、よく「勝ちたい気持ちが強いほうが勝つ」みたいなレトリックがあるじゃないか。コインで言えばあれの裏側。清水は勝ちたい気持ちが強すぎて、ガンガンにやってバテてしまった。あんまり入れ込み過ぎるのもよくないという例。アルビは一定の戦意をキープして、後半盛り返す。さぁ、今季最大の逆転劇のはじまりだ!

 1点目。後半26分だ。J2落ちに沈んだすべてのアルビサポに勇気を与える得点。これは敵のスキを突いたものだった。完全なエアポケット。清水・鎌田翔雅が足をひねって倒れ、何かふわっとしたタイミングだった。GK六反勇治がミスキックをして、酒井宣福がおさめる。で、酒井の縦パスが山崎亮平に入る。いけそうな予感がした。山崎が斜めにクロスを入れ、それをホニがズドーン! 1点差になったことでアイスタの雰囲気が一変する。

 2点目はエクセレントとしか言いようがない。山崎ギュンギュンが二見宏志に倒され、後半40分、好位置のFKを得る。これを加藤大がイメージ通りに決めてみせるのだ。中村俊輔ばりの超絶技巧。加藤大は四の五の言わずこれを極めて欲しい。こんなものを持ってるのに自信を失っていたなんてあり得ない。

 3点目は交代投入の「FW・矢野貴章」が効いた。ホニが右サイドをドリブルで駆け上がり、いったん貴章にあずける。貴章はワンツーでホニへ返さず、右外でフリーになっていた酒井宣福に渡す。宣福はこれを切り返して左足でニアを狙った。僕は最後、貴章が頭でコースを変えたのかと思ったんだけど、スローで見るとそのままゴールインしていた。同44分、大逆転! アイスタは静まり返り、新潟ゴール裏だけが大騒ぎしている。

 清水はいい迷惑だった。天国から地獄だ。2点リードのまま勝ち切っていたら、ホーム最終戦でJ1残留を決めていたところだ。それがこの逆転負けで最終節までもつれることになった。この日、大宮降格が決定して、残り1チーム、清水か甲府のどちらかが落ちる。

 アルビは何と4年ぶりの3連勝である。いつ勝つの? 今でしょ。今じゃちょっと遅いんだけどなぁ。2月の終わりに開幕して9月まで勝ち点12しか挙げられなかったチームが、10月以降の5試合で勝ち点13ゲットってどうかしている。どうかしてるけど帰りのサポバスは皆、上機嫌だった。乾杯につぐ乾杯でウヒョウヒョになっていた。


附記1、来季監督に鈴木政一氏(日体大)内定のリリースが出ました。ここを早く決めないと何も見えて来ないですからね。面白い人選です。Jリーグの指揮は久し振りですね。どんなチームをつくってくれるのか大いに楽しみです。

2、成岡翔選手の退団、本間勲選手の引退と寂しいニュースが矢継ぎ早に発表されましたね。ひとつの時代の終わりを感じます。最終節、お別れする機会があるといいですよね。

3、祝・浦和ACL優勝! ラファおめでとう。祝・グレミオ、コパ・リベルタドーレス優勝! コルテースおめでとう。

4、先週、告知が中途半端でしたが、サポカンにハズれた方、12月3日は北書店で僕のトークショーがあります。今年は元サカマガ編集長、平澤大輔さんをゲストに迎え、戦術的にもシーズンを回顧する感じかなぁと思います。13時開始、場所は中央区医学町の北書店です。詳しくは「えのきど 北書店 2017」で検索してみてください。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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