【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第374回

2018/6/14
 「戦国時代」

 今週はフリーテーマ回とさせていただきたい。J2に参戦して何が驚いたといって、問答無用で毎週、試合があることだ。噂には聞いていたが、本当だった。インターナショナルマッチウィークやW杯の中断期間がない。で、6月最初の週末は甲府がルヴァン杯予選を勝ち抜いたため、貴重な休みとなった。6勝7敗3分と負け数が先行しているチームも、連戦疲れのサポーターも、リフレッシュして次に備えるいいタイミングではないか? これがJ1なら「W杯中断期間のミニキャンプでチームを立て直して」なんて言ってられるが、下部リーグのチームは戦い続けなければならない。

 僕はW杯をきっかけにサッカーと関わるようになったんだけど、今回、ロシアW杯は初めて(「アルビ推し」「アルビ担」のライターとして)「J2から見上げる」図式になる。旅先のビジネスホテルのちっちゃなテレビで中継を見るリアリティと言おうか。きっと音を小さくしてコソコソ盛り上がるのだろう。それもW杯じゃないのかなと思う。世界じゅうの下部リーグ所属チームのファン、サポーターが同じ経験をする。カップの行方やナショナルチームの勝敗も大事だけど、自分たちには今週の試合があるというわけだ。

 だから大見出しのサッカーニュース、「ハリル解任」も「イニエスタ神戸入り」もどこか遠くの出来事という感じがしている。W杯代表に酒井高徳が入るかどうかがいちばんの関心だったし、イニエスタ神戸入りの年に何でJ2なんだと運命を呪う程度の距離感だ。たぶん読者もそう変わらないんじゃないか。現実感というか、当事者感がぜんぜんない。

 もっともこれは他のクラブのサポーターと話をしてもさほど変わらないのだ。「ハリル解任」→「西野JAPAN」は例えばガンバサポでさえ呆気にとられている。「イニエスタ神戸入り」はヴィッセルサポもホントのことだろうかと感じている。ことはJリーグ民の住む階層じゃなくて、もっと上層階、アッパークラスのほうで決しているようなのだ。サッカー民が馴じんだ「地域密着」とか「Jリーグ百年構想」とかいうのと全く違うパワーバランスが作動し始めている。

 西野JAPANの23人のメンバー発表をご覧になっただろうか。前日、キリンチャレンジカップのガーナ戦(日産スタジアム)を実施し、「前代未聞! 壮行試合にしてメンバー入り最後のチャンス!」みたいな煽りを入れてたけど、W杯代表選考で「前の日、浅野がゴール決めたから岡崎は消して、やっぱ浅野!」とかやってたらそんな国のサッカーはもうおしまいだ。内容が薄く、トンチンカンこの上ない親善試合だった。しかし、ロシアで赫々たる戦果でも挙げないかぎり、西野JAPANを日本で見る機会はあのガーナ戦いっぺんきりなのだ。驚くべき密室性だ。遠くのどこかで選考され、遠くのどこかで練習し、遠くのどこかで試合し、解散するチーム。どうやって当事者感を持てというのか。

 面白かったのはメンバー発表のとき、日本サッカー協会の田嶋会長も、新・代表監督の西野朗さんも緊張でガチガチだったことだ。日頃、あんなに人前に立っておられる方がカメラの放列を浴びて普段通りに話せない。田嶋会長は始終カミカミで「日本から熱いOLを送って」と言っていた。熱い応援とエールが混ざったのだろう。西野監督は23人のメンバー発表でフルネームでなく、名字だけを言った。これはちょっとわかりにくくて「MF遠藤」だと遠藤航だか遠藤保仁だか区別がつかない。その「名字だけ発表方式」が伏線となったのが「GK田舎村」だった。正確に再現すると「ゴールキーパー、川島、東口、田舎村」と西野さんは言ったのだ。これは何かというと、緊張で唇が強ばり、「東口」の最後の母音「い」が残ったまま中村航輔のことを言おうとしてしまったのだ。「い中村」だ。この日、ヤフーのドレンドワードには「熱いOL」と「田舎村」が即ランクインした。言い替えれば、会長や代表監督がガチガチになるほど「ハリル解任」後の重圧が激しいということであり、また一般にとっては他に話題がないほどサプライズのない発表会見だった。

 ただまぁ、その重圧は思うべきである。僕は「ハリル解任」に批判的で、特に技術委員長だった西野さんが監督を引き継ぐのは最悪手という意見だが、「西野JAPAN」の成否が日本サッカーの今後を左右するのは間違いないと思う。「西野JAPAN」も「イニエスタ神戸入り」も失敗すれば日本サッカーが蒙(こうむ)るダメージはハンパない。

 僕が悲しむのは、そんな重大局面をサッカー民が当事者感なく見つめるしかないことだ。多くのサッカー民は「成功しろ」とも「コケろ」ともつかない、ただ見るだけの微妙な立場に置かれている。そこには主体性も参加性もない。主体性も参加性もない単なる一消費者のポジションに置かれているのだ。

 おそらく日本サッカーは「スポーツマネジメントの新時代」を迎えたのだ。護送船団方式でJクラブを増やし、普及・啓蒙をはかる「平準化」の時代が終わり、ビッグクラブを意図してつくり出す「多様化」「格差是認」の時代が始まる。イニエスタの年俸は破格の32億円超といわれる。多くのクラブにはそんな原資自体がない。それはJ1チームの年間総予算クラスなのだ。(相対的にJリーグより人件費のかかる)プロ野球のチーム推定年俸でも「ソフトバンク全員」「巨人全員」「阪神全員」にしか負けていない。後の9球団はチーム全員で束になってもイニエスタ一人に負けてしまう。

 が、もしその金額を出せるのであればひょっとしたら十分モトの取れる金額かもしれないのだ。イニエスタのもたらすステイタス、宣伝効果を考えよう。チケットやグッズの売れ行き、放映権料、広告収入。それから「イニエスタと一緒にやりたい」という有望選手の獲得があい次ぐのかもしれない。「欧州リーグでやりたい」と言ってた層が、欧州ではイニエスタとプレーできないのだ。これら全部をコミコミで考えてみよう。算盤が合うかもしれないよ。もちろん優勝を飾って、傾斜分配金のDAZNマネーをかっさらうのだって視野に入ってるだろう。

 もちろんアルビは原資を持たないインデペンデントなクラブだ。バルサの胸スポンサーを務めるようなビッグな後ろ盾(バルサはずっと胸スポンサーなしでやってきた特別なクラブだ。やっとロゴが入ったと思ったら公共性のあるユニセフだったくらいだ。そこに「Rakuten」(楽天)が入ることのインパクトを思ってほしい。報道では「4年契約で年間64億円」とされているが、金額に換算できない価値がある。もちろんその金額が出せるのであれば、の話だが)もない。単に「成績不振でJ2に降格した」というだけの話でなく、パラダイムチェンジに乗り遅れたというか、そもそも乗れないというか、きびしいものがある。

 が、マネーや権力の集中するナショナルチームやビッグクラブでなくても、知恵を使って生き残る方法がある。今、わかりやすいのはコンサドーレ札幌やVファーレン長崎の個性的なマネジメント戦略だ。かつてアルビは「地方クラブの成功例」と賞賛され、お手本とされてきたが、いつの間にか守勢にまわってしまった。

 僕は元気を出してほしいのだ。元気がないのがいちばんよくない。戦国時代なんだ。しょぼくれてたら沈んでいくだけだ。インデペンデントなクラブの強みは何か。フットワークだ。情熱と知恵だ。いつか書いたことをもういっぺん書かせてほしい。新潟負けんな。

 新潟負けんな。こういうときはおとなしくしてたら消えてくだけだよ。毎回、何か新しいことを仕掛けよう。僕は國井拓也広報が岐阜戦の前にNHK朝ドラ『半分青い。』ポスターにひっかけて、戸嶋祥郎でパロディやったのを絶賛した(わざわざLINEでベタ褒め)んだけど、お金使わないちょっとしたことでいいと思うのだ。それでサポーターが笑って、クラブやチームを好きになれば大成功だ。そういうのがいつか思いも寄らない展開に結びつく。

 アイデアは出せば出すほど出てくるようになる。積み重ねるうち、大きな仕掛けもできるようになる。習慣みたいなものなんだ。生き残ろう。フロントだけじゃなく、サポーターも新しいことを始めよう。そして、新しいことを始めた人を応援しよう。


附記1、天皇杯2回戦・高知ユナイテッドSC戦はPK戦までもつれ込むきつい試合でしたね。危うくやられるところでした。例年、高知キャンプのプレシーズンマッチ等でお世話になってるクラブですね。四国唯一の「Jリーグ空白県」にあって、夢につき進む高知ユナイテッドに幸あれ、です。

2、今年は高知でプレシーズンマッチやって、ビッグスワンで天皇杯を戦かったから「四国コンプリート」ですね。4県すべてのクラブとホーム&アウェーでやることになります。

3、10日(日)は東京V戦ですね。前節の退席処分でロティーナ監督が指揮されないようですけど、高木善朗には大活躍してほしいなぁ。あと、この試合ね、僕の原稿ではお馴じみの、元サカマガ平澤大輔さんが人生初のラジオ解説に挑みますよ。FM-PORTの生中継です。平澤さんめっちゃ燃えてて、3日は「横浜FC×東京V」(ニッパツ)を下見に行ってきた。フットワークと情熱と知恵ですね。もういっぺん書かせてください。新潟負けんな。


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