【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第375回

2018/6/21
 「鳥対決?」

 J2第18節、新潟×東京V。
 この日は「ヴェルディ担」のライター、海江田哲朗さんと並んで見た。海江田さんによるとビッグスワンは10年ぶりだという。そんなに長くリーグ戦で当たってなかったのか。ちなみに2008年はホーム&アウェーともにドローだった由。いや、待て待て、確かまだヴェルディには勝たせてもらってなかったはずだ。「歴史的1勝」ってやつを今日は挙げさせていただこう。

 ともに暫定ながら(アルビは甲府戦の日程変更、ヴェルディは岡山戦の雷雨中止→後半28分から再開試合)13位と15位に低迷している。海江田さんと僕は開幕前、高円寺「KITEN」でトークイベントをやって、対戦を楽しみにしていたのだ。まさかこんな順位でぶつかるとは想像していなかった。海江田さんは「ここってバス降りてから入り口までこんなに歩きましたっけ?」「新潟の人はやっぱりいいですねぇ。『風が強いから気をつけてくださいね~』って言われました」と嬉しそう。まぁ、でもホスピタリティと勝負は別だぜ。あんたら帰りはそのバス乗り場までの道をとぼとぼ歩くことになるぜ。

 雑談で面白かったのは、両クラブのエンブレムを見て「これは鳥対決ではないか?」という話になったのだ。白鳥vsコンドル? そうしたらヴェルディの鳥はコンドルじゃないらしい。

 「あれ、コンドルじゃないんですよ。始祖鳥なんですよ。クラブ広報がわりとゲンミツに言うんですよ」
 「始祖鳥って絶滅してるでしょう、エンギ悪くないかなぁ」
 「僕もコンドルでいいんじゃないかって思うんですけど」
 「何でそんな博物館の化石みたいなやつを…」
 「クラブチームの始祖という意味みたいなんですよ」

 まぁ、読売クラブ/ヴェルディが日本のクラブチームの先駆けであるのは確かだ。但し、「絶滅」はぜんぜんしていない。現在に至るも「ランド育ち」のプレーヤーは枚挙にいとまがない。アルビでいえば富澤清太郎、高木善朗、端山豪がそうだ。彼らがどんな感情でヴェルディ戦を迎えたかは想像するしかないけれど(例えば高木善朗は「自分ひとりが戦うわけじゃなく、アルビレックスが戦うわけですから」と気負いはなさそうな口ぶりだった)、少なくとも僕はめっちゃ楽しみである。それにもしかすると、ヴェルディにはうちのサッカーがハマるかもしれない。

 試合。両軍とも自重気味の、スローな入り。どちらもあまり取りにいかない。サッカーのベクトルはわりと似ているんじゃないかな。お互い中を固められて、外回り外回りのサッカー。そんなにプレッシャーがないはずなのにパスミスが目につく。海江田さんが「うわこれ、13位と15位の戦いですね」と苦笑している。

 前半17分、ヴェルディに異変。FWドウグラス・ヴィエイラ負傷交代で、林陵平IN。この日、敵将ロティーナ監督は前節の退席処分の関係でベンチ入りなし、代わってコーチのイバン・バランコ・サンチアゴさんが指揮を執った。海江田さんに言わせると「守備はロティーナ、攻撃はイバン」という役割分担らしい。ていうかロティーナさんはオーガナイザーであって、実際の戦術面はイバンさんが見ている面もあるとのこと。つまり、ロティーナさん不在はあまり影響がないそうだ。ドウグラス・ヴィエイラOUTであわててるかなと思って、単眼鏡を覗いてみたが、イバンさん実に落ち着いている。

 先制点は前半23分だった。戸嶋祥郎が右サイドを持ち上がり、最高のパスを中央の高木善朗に送る。このときのヨシアキが凄かった。右足のアウトでノールックのスルーパスだ。それが走り込んだ加藤大にピタッと合う。マサルの今季初ゴールはビューティフルだった。海江田さんが「うわぁ、ヨシアキ~」と泣きを入れる。わははは、ご覧いただけましたかな。こんな素晴らしい選手を君らは手離したのだよ。そのまま1対0で前半終了。

 ハーフタイム、海江田さんと「同じ問題を抱えてる感じがするな~」という話になる。アルビも他人のことは言えないけど、ヴェルディもろくにシュートを打ってない。原輝綺のサイドを狙ってきて、けっこう危ないシーンをつくられるんだけど、シュートまで至らない。僕はドウグラス・ヴィエイラOUTの影響なのかなぁと思った。願わくばこの凪いだ、迫力ない感じのまま90分が終わってほしい。

 が、甘かった。いきなり後半8分、ワンツーを重ねた技巧的な崩しから渡辺晧太の同点弾を食らう。渡辺晧太は海江田さんに「面白いから見といてください。スーパーボールみたいですよ」と言われてた選手だ。サイズは小さいけど、確かに身体にバネがある。それからビヨヨーンと飛び出してくる感じもある。「ランド育ち」の新鋭だ。なるほど、いい選手だ。

 で、そこからアルビが精彩を欠いていくんだよ。失点して萎縮・落胆してしまうという風なメンタルの問題かもしれない。バテてしまって足が止まったのかもしれない。もうひとつ戦術的な説明としては、チームの肝を抑えられた。ボランチの磯村亮太が徹底的に狙われた。ボールの取りどころにされた。あそこを抑えられるともう推進力が生まれない。奪われてショートカウンターを食らうんじゃないかという疑心暗鬼が生じる。

 決勝点は後半18分、林陵平にDFラインのギャップを突かれたもの。「わははは、ナイスゴール!」と海江田さんの機嫌がよくなる。くー、いくら親しいからって一緒に見るんじゃなかった。何とか追いつこうとするのだが、終盤、ソン・ジュフンが負傷で10人で戦わざるを得ず、結局、無情の笛を聴くことになった。

 だけど、ヴェルディは研究してきたんだなぁという跡があった。チーム戦術として見事に攻略された感じがする。全体としては「うまい将棋を指されちゃった」というイメージか。スペイン人のイバンコーチは将棋なんか知らないだろうけど。もうちょっと守れるチームになりたいなぁ。守れないとこの逆転負けするパターンが続きそうだ。何のことはない、帰りは僕がバス乗り場までとぼとぼ歩く羽目になった。味スタで必ず借りを返そう。


附記1、今週になって聖籠の練習が一部非公開になったようですね。これは何かありますね。今まで大分戦くらいしかやってないという対敵戦術の落とし込みか。セットプレーの工夫か。新システムの試運転か。あるいは選手の抜擢か。鈴木政一監督は「相手の特徴を理解したなかで、どう攻撃や守備をするかのイメージを共有していきたい」と報道陣を煙に巻くコメントでした。つまり、ナイショということです。福岡戦でそのヴェールがはがされるんだと思います。

2、6月12日付の新潟日報運動面で木村康彦強化部長の「監督交代/『考えていない』」の記事が出ましたね。要約すれば「監督は続投方針、夏の補強は考えている」です。僕は木村さんにリクエストがあります。クラブとしての考え方を地域やサポーターへ向けてアナウンスしてほしいのです。たぶんこの役は中野社長や鈴木監督より木村部長が向いている。僕は木村さんの熱さを信用している。率直に語れば必ず伝わります。チームのミッションは「1年でJ1復帰」なのか「時間をかけて本当に強いチームをつくる」なのか。クラブはどんな構想を描いているのか。インタビューでもステートメントでもいいと思います。皆、フロントからの発信を待っていると思うんです。

3、ソン・ジュフンは全治3週間の重症(じん帯損傷)でしたね。つらいなぁ。一日も早い恢復をお祈りします。

4、W杯開幕ですね~。僕は19日夜、コロンビア戦のスカパー「おやじ会」出演が決まっています。この番組は大会中、何度か出ることになりそうです。あとgooニュースのスポーツページにW杯コラムの短期集中連載をすることになりました。よかったらぜひご覧ください。


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