【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第376回

2018/6/28
「歓喜と失望」

 J2第19節、福岡×新潟。
 W杯ロシア大会が始まってサッカー好きの生活リズムはめちゃくちゃである。未明3時(日本時間)からの好カード、スペイン×ポルトガルを見て、寝ないでそのまま空港へ向かったサポもいる。僕は久留米に前泊して櫛原中学のミニ同窓会を楽しんだんだけど、解散して5分後にはホテルでモロッコ×イランを見ていた。ただスペイン×ポルトガルの前に寝落ちしたらしい。クリロナの顔を見た覚えがないのだ。

 W杯期間中の試合は10年以上していない。これは否が応でも自分らがJ2なんだと思い知らされる経験だ。レベスタは快晴&猛暑。対戦相手の福岡は10勝3敗5分(勝ち点35)の首位でこの試合を迎えていた。アルビとの勝ち点差は実に14だ。

 この試合はDFが不安要素だった。ソン・ジュフン(ケガ)と原輝綺(体調不良)の欠場で広瀬健太&渡邊泰基が先発。しかも前半のうちに広瀬が負傷し、大武峻が入ったのだ。もちろん誰が出ても同じようにやれるのが理想だが、実際は呼吸が違ってくるはずだ。これまで判で押したように「ファーストディフェンダーの判断、オフの選手のポジショニング」で失点してきたチームに変数が加わる。

 と思ったら危なげなく守れていた。陣形がコンパクトに保たれ、選手の距離感もいい。聞いたら初の非公開練習で取り組んだ点は、まさにそこだったらしい。FWがプレスをかける位置を下げ、守備ゾーンの設定をし直した。コンパクトな陣形を保つと、トランジション(攻守の切り替え)でショートカウンターを発動させやすい。

 それにしても福岡のファウルが多くて、やたらとFKをもらう試合だった。福岡の一部の選手(とスタンドの雰囲気)はちょっと主審に対し感情的になっていた。新潟と戦うのでなく、審判と戦っているような心理状態だ。あれだけFKをもらったらいつか決まるだろう。後半30分、安田理大の「ワールドクラス」と評したいFKゴール炸裂! 蹴った方向は新潟応援席へ向かってだから、サポーターはボールが揺れる様(揺れながら飛んできた!)まではっきり目撃した。

 その上、ロスタイムに河田篤秀のダメ押しゴールが決まるんだけど、この試合は守り勝ちだったと思う。要点がどこにあったかというと「(非公開練習で)意識づけた守備戦術をやり切って勝った」に尽きる。やったことの成果が出るのはいいことだ。これを続けていこう。

 
 J2第17節、新潟×甲府。
 それがさっぱり続かなかった。甲府のルヴァン杯勝ち抜けのため、棚上げになっていた17節だ。福岡戦の勝利から中3日、その間一体何があったのかというくらいにチームがバラバラだった。スコアは1対5。これは「サンドニの悲劇」とか「ミネイロンの惨劇」とか呼ばれるクラスだ。名付けるなら「恥辱の川中島ダービー」だろうか。過去、これほど酷い川中島ダービーはなかった。

 簡単に言うと守れないのだ。前節とは打って変わって守備がザルだった。まぁ5失点してザルじゃないなんてことはあり得ないから、僕は単に「馬から落馬した」みたいなことを言ってるだけかも知れないが、信じられないくらいあっさり失点するのだ。セットプレーの守り方に穴がある。流れのなかのプレーも侵入をたやすく許し過ぎる。アルビは守れないと試合にならない。

 僕は先週、聖籠で非公開練習を実施されたと聞いて「守備の整理とセットプレー」だろうなと想像した。即効性があるのはそれだ。ある程度は想像が当たったかなと思う。が、甲府戦が物語っているのは、その整理されたはずの守備も中3日経ったらザルになってしまうという現実だ。せっかくいいきっかけを掴みかけてもやり方を変えてしまう。不思議なオーガナイズだ。

 酷評を許していただければこの日のアルビはプロの名に値しなかった。雨のなか、8千人もの観客に見てもらっていたのだ。闘わないならピッチを去ればいい。どうしてサポーターは雨に濡れて金を払ってまで、戦意喪失した選手を眺めなければならないのか? チームが闘わないのになぜサポーターは闘わなきゃならない?

 ホームで1勝6敗3分は責任問題である。これはいくら地域密着型クラブのお題目があろうと観客が減る。絶句したのは試合後の選手コメントで「福岡に勝って慢心した」という言葉が複数から聞かれたことだ。間違わないでほしい。これはコメントが不適切だとか不謹慎だとか言ってるのじゃない。コメントが出たことのほうがまだ救いがある。複数から同じ内容が出たということはたぶん真実なのだ。そして暫定14位で「慢心」してしまうチームが情けなくてポロポロ泣けてくる。

 最後に甲府に賛辞を送りたい。今季途中、上野展裕監督を迎えたヴァンフォーレは見事に息をふき返していた。感じ入ったのは吉田達磨・前監督が根づかせたスタイルを上野さんがしっかりブラッシュアップしていたことだ。小塚和季が本当に生き生きしていた。甲府は「アルビがやりたくて、出来なかったサッカー」をものにしたのだ。


附記1、今週は日本じゅうにサッカーの話題があふれました。W杯ロシア大会、コロンビア戦の金星は語り継がれるものになるでしょう。面白いのは西野朗監督のアトランタ五輪「マイアミの奇跡」にちなんで「サランスクの奇跡」と表現しているメディアがあるんだけど、モルドヴィア共和国の首都サランスクがいまひとつ知名度に欠けるため、誰も地名が出てこないことですね。大体、ロシア国土のどこにあるかよくわからないもんなぁ。

2、僕はスカパー東京メディアセンターでコロンビア戦を見ました。ご一緒したのが渡邉一平さんと中西永輔さんですよ。お二人の解説&叱咤激励を聞きながら試合を見るという「逆えのチケ」状態です。点が入るとスタッフや八塚浩アナも入り乱れてハイタッチ&バンザイです。あ、番組出演時はさりげなくアルビウォッチをして、アピールしときました。

3、甲府戦はコロンビア戦金星の翌日でした。本当ならW杯の熱気をアルビに結びつけたいところですね。サッカーって面白いんだなと思ったライト層が地元のプロチームに目を向ける図式です。この導線をぜひ作りたいんだけど、甲府戦みたいな試合は逆効果ですよね。残念だけど「W杯とアルビはぜんぜん別物」というイメージを世間に広めることになる。


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