【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第378回

2018/7/12
 「代表よりもクラブ」

 J2第21節、新潟×水戸。
 ベスト8が出揃いW杯日程がぽっかり空いた水曜日、やっと落ち着いてDAZNの見逃し配信を見たのだ。先週末は知人のお祝い事で宇都宮ステイだった。新潟ステイなら水戸戦と本間勲引退試合をダブル観戦できたはずではあるが、こちらはお祝い事なので決して「行きたかった」「残念」とは言わない。新郎は日光アイスバックスの元選手で、現在は日光市消防本部の署員である。すんごい地域密着でしょ。貧乏ホッケーチームのいちばん困難な時代(僕も無給の取締役として経営陣に加わった!)、苦楽をともにした仲間だ。披露宴は当時の顔ぶれが久々に集い、同窓会のようだった。たぶん本間勲引退試合の空気とそっくりじゃなかったか。

 といっても水戸戦は大いに気になったのだ。この21節でリーグ戦も折り返しである。アルビは想定外の苦戦を続けている。試合の当日、FMポートで立石勇生さんが言ってて仰天したんだけど、昨年のJ2最終成績を念頭に置くと、アルビが自動昇格を果たすためには今後「19勝2分1敗」程度の勝ち点が必要になるらしい(!)。今季の自動昇格ラインがどのくらいになるかはわからないが、つまりざっくり言って「残り試合全勝」くらいのつもりでいなきゃいけない。

 まぁ、それは確率ゼロではないが、非常識な目標設定だろう。中野幸夫社長の掲げる「1年でのJ1復帰」を実現するためには事実上、プレーオフ圏入りを目指す以外ない。そして(「残り試合全勝」ではないにせよ)成績をV字回復させるしかないのだ。特にホームゲームの勝率を上げたい。とにかくそれが喫緊の課題だ。今季、アルビのホーム勝利はたった1つ、それも3ヶ月以上遠ざかっている。是が非でも水戸を叩いて、後半戦への弾みとしたいのだ。

 だからビッグスワンのサポから届くLINEをチェックしていた。最初の頃は「シャトルバスの列が駅コンコースまで伸びてる」「蒲原祭りの渋滞?」「ムサシの感謝祭?」と呑気だったのだ。ムサシはホームセンターだそうだ。試合が始まって「ターレス!」「ターレス!」「トーレスよりターレス!!」が集中したのは前半19分だろう。ターレスがウラ抜けして先制点を決めたのだ。また(関係ないけど)フェルナンド・トーレスのサガン鳥栖入りは不首尾に終わったらしい。とにかく前半はそんな調子だ。

 それが後半3分に失点すると苦しげなトーンに変わる。「柳の存在価値がわからん」「サチローの邪魔をしている感が」「サチローが全部ボール回収してるし」「後半はノーチャンスでした」「今日の試合は見なくていいです、特に後半は」「見どころ、ないと思います。残念ながら」「ダメすぎてどーにもならない」「ここがダメ、とかじゃなくて、うまくいってるところがない」。こんなこと言われたら見るの怖いじゃないですか。ついW杯の熱戦のほうを優先してしまい(W杯コラムやスカパー出演の仕事の都合もあった)、水戸戦は後回しにしていた。

 意を決してDAZNで試合を見る。連日のW杯漬けで試合映像ばかり見てるから、そのまま同じ感覚で見始めた。と、やっぱりね、当然とはいえテンションや覇気が違う。僕らJリーグファンはずっと「代表よりもクラブ」と胸を張ってきたはずだ。日本代表は大切だけど、自分たちの住む街のクラブはもっと大切だ。どっちに身が入るかといえば断然クラブチームだ。それは以前、心の底からの本音だったと思う。今はどちらかというと建前化している。

 苦しげという表現を使えば、みんなが苦しげだ。監督もフロントも、選手も、サポもこんなつもりじゃなかった。いちばん苦しいのは現場だと思う。ぜんぜん思うようにならないのだ。水戸戦は(前節から取り組み始めた)「4-1-4-1」システムを続行したのである。町田戦では押し込まれ過ぎて何だかわからなかった。継続して取り組むことで、早くチームに落とし込みたい。それが「柳の存在価値がわからん」というLINEメッセージである。言っておくが発信者のサポは、柳育崇というサッカー選手の価値を云々したのじゃない。「4-1-4-1」システムのアンカー「1」としての柳だ。早い話、システムが機能してないじゃないかと言っている。

 で、苦しげということなら当の柳も苦しげなのだ。うまくいかない。誰かが「犯人」で、そのせいで苦しいというわけじゃないのだ。ハイライト映像で得点シーンや前半の決定機を見れば、けっこう動きがあってダイナミックなものに見える。が、全体にはものすごく低調だ。「自分ら、うまくいってないんです」とピッチ上で表明しているような感じがする。

 負けずにすんだのは「(戸嶋)サチローが全部ボール回収してるし」という点と、もう一つ、GKアレックス・ムラーリャのファインセーブのおかげだと思う。やっぱり勝負どころの集中力がすごい。試合展開としては水戸が思惑通りにことを運んだのだ。で、(有難いことに)決定力が足りなかった。水戸・長谷部茂利監督の談話は勝ちを逃したというニュアンスである。アレックスの頑張りがなければ果たしてどうなっていたか。

 6月が終わり、J2リーグは日程を半分消化した。アルビは21戦7勝9敗5分(勝ち点26)の15位だ。プレーオフ圏にも、降格圏にも勝ち点10差ほどの位置である。まぁ、今季からはプレーオフに勝ち残っても入れ替え戦が待っているから、6位にすべり込んだとしてもイバラの道だが、けんめいにそこを目指すしかない。上を向かないと人が離れていく。上を向かないと覇気がなくなる。

 僕はアルビに「代表よりもクラブ」を思い出させてもらいたい。その責任があるだろう。これは無茶を言ってるだろうか。水戸戦翌日の本間勲引退試合の観客動員を見よ。Jリーグ公式戦と変わらない。スタジアムにいたサポーターは皆、「代表よりもクラブ」と本当は胸を張りたい。アルビレックス新潟に愛情と誇りを持っている。それを無にしちゃいけない。

 サッカーの楽しさを思い出させてもらいたい。苦しげなものは続かないと思う。「フットボールをプレーする」のプレーは遊ぶという意味だ。無茶を言ってるだろうか。スタジアムにいるサポーターは皆、サッカーは最高だと本当は胸を張りたい。サッカーに愛情と誇りを持っているのだ。それを無にしちゃいけない。


附記1、日本代表のロシアW杯の冒険が終わりました。急ごしらえの「西野JAPAN」に関し色々言いたいことはありますけど、現場は本当に頑張ったと思います。ナイスファイト&おつかれ様でした。結果で一喜一憂するのでなく、今回の一連のプロセスを経験化・教訓化して、日本サッカーの財産にしたいですね。

2、4日未明にスカパーおやじ会で山口素弘さんと共演しました。一般にはフジテレビのポーランド戦解説でボルゴグラードへ行ってた印象でしょうが、僕にとっては日曜日、本間勲引退試合のピッチに立った「素さん」です。同窓会みたいですごくいい雰囲気だったとのこと。「新潟は(横浜フリューゲルス撤退で傷ついた自分に)サッカーの楽しさを思い出させてくれた場所」ということでした。何かね、今回は昔住んでいた辺りを歩いてみたそうですよ。

3、その素さんが横浜FC時代、監督業の手本とされてたのが反町康治さんだったそうです。まぁ、「ミーティング長い、終わらない」と苦笑されてましたけど、相手チーム分析のきめ細かさが素晴らしかった由。次節は反町さん率いる松本山雅戦ですね。アルビをどう分析し、攻略してくるでしょうか。怖いような、楽しみなような‥。


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