【第12回】意識している人間に、最後はボールが転がってくる

2018/8/14
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意図が見えた金沢戦立ち上がりのプレー

ゴールデンウィークの連戦となりましたが、新潟は連敗のトンネルを脱け出し、金沢に臨みましたね。金沢戦は大事なゲームでしたが、僕は立ち上がり、新潟の狙いとするところが出たプレーがあったと感じました。

前半2分くらいで、イソくんが自陣の深いところで奪ってから、背後に抜け出そうとしたカワくんに左足でボールを送った場面があったんです。結果的にカワくんに付いていた相手DFにカットされるんですが、イソくんは奪った時にまず見る場所。カワくんは狙いを持って走り込むスペース。相互が意識して、相手にとっては嫌な部分を突こうとしていました。金沢DFは、嫌な入りのワンプレーだったんじゃないかと思います。

僕が『狙っているのかな?』と感じたのは、相手CB裏のちょっとサイド寄りのスペース。サイドバックの後ろではなく、ペナルティエリアの角ぐらいでしょうか。そこで前を向ければ一番ですし、起点を作れれば、45度くらいで相手が守備をしづらい攻撃になります。後述しますが、2点目はそこからのクロスに飛び込んだ形になりました。

ターレス、ズミさんの技術と能力が合わさった先制点

先制点はセットプレーから。ターレスのゴールは、日本人ならヘディングで合わせた場所から、ゴールに飛ばせる強さがなかなか出ないですよね(笑)。彼の強さ、ポテンシャルの高さを、またも見せられました。それとズミさんのキックも素晴らしくて、フワリと上げつつ、スッと抜けるような攻撃の選手が一番合わせやすいボール。双方の技術と能力の高さが合致した得点でした。

ゴールの場面もそうですが、ターレスはすごく落下地点に入るのが上手です。あの体の強さもあって、競りに行ってもはじき飛ばされるし、相手DFとしてはファウルも覚悟したプレーをするしかない。僕たちはファウルをもらうこともできるし、ターレスが競り勝てば、そこから攻撃をスタートできる。彼が真ん中、最前列で体を張れるのは、チームの強みになると改めて感じました。

新太とカワくん、ゴール前で鋭さを出せる2人

29分の追加点はカワくん。でも、その前に新太が何回かセカンドボールを奪ったり、失ったボールを奪い返したりしたプレーもピックアップしたいと思います。この試合は新太がセカンドボール、ルーズボールへの意識が高くて、何度も回収をしていました。それによって、新潟は攻撃を途中で終えて守備に回る展開が少なく、連続できていた。ひとつのポイントだったと思います。

ゴールは新太とカワくん、ゴール前での鋭さを出せる2人が入っていたことも見逃せません。まず新太が狙い、それに相手が対応して動いたスペースに、カワくんが入り込んだ。DFとしては怖い2人をゴール前に入れてクロス対応をしなければいけないのは、それだけでもストレスだし、新潟はこういう形を何度も作れればと思いました。それにしてもカワくんはすごい体勢からねじ込みました(笑)。FWの嗅覚が感じられる得点だったと思います。

残念ながら、カワくんはその後にケガを負うアクシデントがありました。正直、チームとして痛いのは確か。でも、他の選手からしたら、「一発見せてやるチャンス」と感じたんじゃないかと思います。金沢戦に関しては問題ではなかったと思いますし、今後もいい意味でモチベーションとして、チームの奮起に期待したいところです。

金沢に流れが向いた60分過ぎ

後半、反撃を仕掛けた金沢でしたが、早々のPKをムラーリャが止めてくれたのも意味のあるプレーでした。結果的にはその後同点に追いつかれはしましたが、流れが傾きそうになったところを、彼が一度ストップしてくれました。PKは手足の長いムラーリャが、相手には相当プレッシャーになったはず。その存在感は、今後も大きいですよね。

金沢に流れが向いたのは、60分過ぎくらいから。カワくんに代わって達さんが入り、持ち前の間に立つプレーでリズムを作ることはできていたと思いますが、そのスペースを誰が突くかが少しずつ薄れ、背後を狙えなくなっていきました。これは前半からの新潟の狙いに、相手が警戒したこともあると思います。金沢DFの前で回させられるプレーが増えましたし、逆に相手は背後や裏に勇気をもって出てきて、押し込まれる展開が増えました。

相手よりも先んじるために

DF的な心理からすると、2分のプレーにも表れているように新潟が裏を狙ってきて、「嫌だな」と感じたんじゃないでしょうか。ラインを下げてスペースを消すことで、たしかに手前は空いてきたと思います。ただ、「空いているから」と手前ばかりでやっていると、出たボールに強く行ける守備の圧力は強くなります。

選手たちは分かっていると思いますが、そうなった時に、もう一度裏を狙えるプレーがあれば。局面での判断もそうですが、結局は「いまDFはどこでボールを奪いたいのか」を共有しながら攻めていかないと、先んじることは難しい。FWも見ていれば気付けることだと思うので、出し手の選手にどんどん共有していいと思います。その意味では、新潟は守備対応もそうですが、狙いを明確にできないまま試合を進めてしまったための2失点だったんじゃないかとも感じました。

失点は、オウンゴールは不運もありますが、2失点目は劣勢だからこそ、誰を見なければいけないかをハッキリさせないといけません。まだまだ甘さが出てしまうのが、新潟の課題だと率直に認識しないといけないと思います。

意識している人間に、最後はボールが転がってくる

決勝点は新太のゴールでした。感じたのは、「セカンドをずっと意識している人間のところに、最終的にはボールがこぼれてくる」ことです。それを徹底しているから、新太は試合に出る権利があったし、試合で続けたから、最後に転がってきた。セカンドへの意識の表れ、切り替えがあってこそで、彼らしいプレーだと感じました。

ああいうゴールをユース時代から見ています。なぜかボールが転がってくる(笑)。「ごっつぁんゴール」と言われるかもしれませんが、色々な予測や、入るタイミングなど、理由があるんですよね。いまはサイドハーフですが、ストライカーとしての質や鋭さは、磨きがかけられている。すごく嬉しかったですね。

なかなか会う機会がなかったので、新太には今日、大分戦のも含めて「ナイスゴールだったな」と話しました。でも、「まだまだやってやりますよ!」という顔をしていましたね(笑)。チームが苦しい時に、新しいヒーローが出てくるのは明るい材料です。それは絶対に必要なことだと思うので、新太にかぎらず、どんどん新しいヒーローが出て、競争が生まれてくればと思います。

大分の充実した強さを感じた

アウェイ連勝をしてのホーム大分戦。サポーターの皆さんも期待をしてくださったと思いますし、19,000人以上が来場されていました。正直、勝ちたかったです。なかなかホームで勝てていなくて、払しょくしたかったゲームでもありました。

でも、いま首位を走っている大分の充実さも、よく感じました。新潟戦は、先発が5人入れ替わったとのことでしたが、チームがどういうプレー、どういうことを心がけながらやらなければいけないかが徹底されていました。おそらく、誰が出てもそん色ないと思いますし、出た選手の特徴が積み重なったことによる結果、順位ではないでしょうか。現時点では、チームとしての成熟度は相手が上だと認めるしかないと思います。

サイドからの失点、対応を共有しよう

失点はサイドから。1失点目もそうですが、カンペーさんがサイドに引きずり出されて、中がジュフン、プラス誰か、という場面が何度かありました。京都戦でも挙げましたが、CBが守るべきポジションでクロスを迎えられない時は、ピンチになる可能性があります。そういう場面は当然90分ではあり得ますが、その穴を誰が埋め、どう対応しなければいけないかは明確にしないといけません。

チームとしてもそうですが、「危ないと思ったら、まずどこを優先するか」という個人戦術に近い部分もあると感じます。その危機察知能力は、もっと全体が意識を高く持てば解決できるところがある。失点も、一度は守るべきポジションに入ったのに、出てしまったプレーが見られました。ちょっとした甘さ、認識のズレが結果的に失点につながっていきます。「やられるところじゃないのに、やられている失点」が多いのは、試合中ももちろん、練習からどういう対応をすべきか、話し合って共有するべきだと思います。

右サイドの攻撃、突破が新潟の武器に増えた

一方、新潟のゴールは輝綺のプレーが光りました。何試合か、サイドバックの彼を見ていますが、行くタイミング、どこを狙うべきかがすごく分かっている選手だと感じています。ワンツーからの背後の取り方も非常に上手で、いま新潟は右サイドの攻撃、突破がひとつの武器になっている。相手選手のクロス対応での軽率なミスがありましたが、しっかり新太が決めてくれた。いい突破から得点までつながって、武器がひとつ増えたんじゃないかと思います。

金沢戦もそうですが、達さんによってテンポが生まれ、右サイドからは輝綺、左サイドからは安田さん。クロスも上がり、入る人間も増えてきたと思います。後半もズミさんのヘディングがポストをたたいた場面がありましたね。さらに、もうひとつ隠し玉があれば、この武器がもっと活きるんじゃないでしょうか。貴章さんが落として、マサルくんが狙ったシュートもありましたが、マサルくんはロングシュートも上手い。状況を打開するのに「これ」、という答えがすぐに見つかるほど簡単じゃない。選手たちは必死でがんばっていますが、あと少しを埋めるために、ひとつだけに固執せず、突破口を見出していけたらと思います。

前を向いて歩こう

サポーターの皆さん。アウェイの金沢戦は4,000人、ゴールデンウィーク最終日のビッグスワン大分戦には、19,000人以上の皆さんが来てくださいました。大分戦ではコレオグラフィも作ってくださいましたね。「新潟の為に」。サポーターの皆さんは、新潟のためにできる最大限のサポートをしてくれていると思います。そういう中で勝ちを披露できなかったのは、もちろんチームに責任があると思います。

でも、だからと言って、サポートをやめてほしくないんです。もちろん申し訳ない気持ちはあります。でも、選手は下を向くんじゃなく、前を向いて。サポーターの皆さんはネガティブな気持ちを募らせるばかりより、勝利のためにサポート、応援する気持ちを。両方がいいモチベーションと気持ちを出し合いたい。

サポーターの応援には感謝しかありません。ひとつひとつの試合で、結果によっては感情を露わにする権利が皆さんにはあると思います。でも、最終的には全員がいいモチベーション、準備をして、最高の状態で臨むことができれば、勝敗やその先にあるものの可能性だったり、スタジアムの雰囲気も変わってくるかもしれない。僕のコラムタイトルじゃないですが、「前を向いて歩こう」です。

もちろん、負の部分はありますが、「良くしていくんだ」という思いを全員が強く持ってやっていけたら、アルビレックスというクラブは前進ができる。何より、いま「そうしよう」という選手が出てきていると思います。そういう姿勢を応援していただけたらと思います。明日のFC東京戦も、週末の千葉戦も、ぜひよろしくお願いします。



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