【第13回】貴章さんと新太の組み合わせは、新潟の大きな武器になる

2018/8/14
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みんなが自分の良さを出そうとしていたFC東京戦

今回は2試合、勝利したゲームを振り返ることができるのが嬉しいですね! まずは9日に開催されたルヴァン杯のFC東京戦。新潟のグループステージ突破のためにも勝利を目指したい試合でしたが、ここまで出場機会が限られた選手たちが、自分の良さを本当に出そうとしていたな、と感じました。

たとえば豪です。ボールを持ったら、体を当てられながらも、ボディバランスの良さを活かしてスルスルッと抜けてシュートを放つ場面がありました。高いポテンシャルをなかなか発揮できていなかったですが、この試合はそういった豪らしさがすごく見えて、同期入団としては本当に嬉しかった。途中で足がつっていたのは、「久しぶりだからしょうがないかな」と思いましたが(笑)。大学時代からずっと感じていた豪の上手さを、もっと見たいですね。

いいキッカーがいるだけで、相手への脅威は増す

先制点はCKから貴章さんが押し込みました。その前にもCKからチャンスがありましたが、この試合はFC東京の守備があまり良くなく、セットプレーが新潟のストロングになっていました。善朗くんというキックに特長がある選手と、大武くんや柳のように高さのある選手もいることが上手く噛み合っていました。

いいキッカーがいる。それだけで、格段に相手に与える脅威は増します。FKもそうですが、相手に「ファウルしたくない、外に出したくない」と思わせるだけで、攻撃陣にとっては優位な状態になります。改めて、プレースキックで違いを出せる選手は、チームにとって貴重な存在ですね。

タイミングで試合をどう運ぶかを明確にできたら

FC東京もJ1で上位のチームですから、試合は簡単には進みませんでした。どちらも4-4-2でスタートしましたが、新潟はどちらかと言うとメネゲウが下がって4-5-1のような形になり、中盤で人数をかけてフリーな状況を作っては、背後への貴章さんの抜け出しや、追い越す泰基を使えていました。ただ、東京がそれに慣れ、対応をし始めてからは、力勝負で新潟が押し負けてしまった印象はあります。

後半の途中からは東京が前線の選手を入れ替え、前の圧力をかけてきたことも、一度は逆転されたことに関係したのではないかと思います。優位を作ってきた展開から相手が慣れ、対応してきたタイミング。相手が前の圧力をかけようと選手を投入してきタイミング。難しいことですが、それぞれで全員がどう試合を運ぶかを明確にできたら、もう少し差を作りながらゲームを進められたんじゃないかと感じました。

守備だけじゃなく、攻撃でも表現した大武くん

でも、そこからの再逆転は、全員が勝利を求めて戦ったからこそだと思います。同点ゴールはCKで善朗くんから大武くんのヘディング。この試合、大武くんは一番の特長であるヘディングの強さを出せていたんですよね。守備のタスクだけじゃなく、攻撃でも表現ができたのは、大きなアピールになったんじゃないかと思います。

今後の公式戦でも、もっと大きな選手がいたり、放り込んでくるチームが出てくるかもしれない。そういう時に、大武くんがいる意味。「自分はできるんだ」ということを、証明した試合にもなったんじゃないでしょうか。

川口のゴールは気持ちの強さがプレーに表れた

そして川口。すごいシュートでした。奪った瞬間に前へ出て行く、推進力が川口の一番の武器です。あいつには怒られるかもしれませんが、守備がいい選手ではない…と言うか、そこを売りにしている選手ではないと思います。でも、真似をしたくてもできない推進力を出せば、どんなに相手に脅威で、チームを助けられるか。

奪った瞬間に、迷うことなくゴールを目指していました。ちょっと前なら、サイドに開いたり、あるいは下げていたかもしれません。でも、ホームで勝たなければいけない状態で、「自分がどうにかしなければ」と川口は思っていたと思うし、気持ちの強さがプレーにも表れていました。90分戦ってのアディショナルタイムに、あれだけ長い距離を走って、得点まで決められる。あんなシュートは今まで見たことないですけれど(笑)、ずっとやってきて、あいつの良さを知っている人間だからこそ、「もっとやれる」と思います。どんどん要求したいですね。

ルヴァンでのチャレンジには価値がある

明日16日は、グループステージ突破をかけた横浜F・マリノス戦。マリノスはタレントもそろっていますし、間違いなく難しい試合にはなると思います。でも、新潟の選手たちも、この東京戦から、みんながいいパフォーマンスを発揮できている。モチベーションは高いものがあると思いますし、維持したままチームの良さを出せれば、可能性は十分にあると思います。

繰り返しですが、今季の新潟にとっては、リーグでのJ1昇格が大きな目標であるのは間違いありません。でも、たとえ日程がタイトになろうと、ルヴァンでひとつでも上に行けるチャレンジには価値がある。明日の試合で戦う選手たちを注目して、ぜひ応援していただければと思います。

千葉は負傷交代でゲームプランが崩れたように感じた

J2リーグ・千葉戦です。まず、千葉は前節の大宮戦から、布陣を3バックから4バックに変更してきました。大宮戦では勝利こそしたものの、何度も相手にチャンスを作られたこともあり、守備時の修正を行う意図があったのかもしれません。逆に新潟としては、3バックの相手にあまりいい試合をできていなかったので、「厄介だな」と思っていたのですが。

さらに千葉にとって不運だったのは、試合直後に10町田選手が負傷交代したこと。貴重な交代枠の1つを早々に使ってしまい、準備してきたゲームプランが崩れてしまったように感じます。実際、後半の中盤以降のゲームの運び方には、このアクシデントが少なからず影響を与えていたのでは、という印象を受けました。

一方、新潟はメンバーに変更はありませんでしたが、新太とズミさんのポジションを変えて挑みました。2試合連続ゴールを記録している新太は前への推進力やゴール前での鋭さがあります。ズミさんはボールに触りながらリズムを作ったり、FWにボールが入った時のタイミング良いサポートがあります。両者の良さを活かしつつ、新太をよりゴールに近い場所でプレーさせる配置だったのではないかと感じました。

ボールを前に運ぶ2つの方法

さて、僕はボールを前に運んでいく方法は、大きく分けて2つ存在すると思うんです。ひとつは当たり前かもしれませんが、自分たちでボールを保持しながら前へ進んでいくもの。もうひとつは、相手陣内にフィードしたボールのセカンドボールを、マイボールにするもの。前半、この2つを上手く活用しながら、試合を優位に進められていたのは千葉だったと思います。

DFライン背後のスペースにランニングしてくる千葉の選手にフィードを送られることで、新潟はDFラインだけではなく、全体が下がらざるを得ない状況を作られてしまいました。千葉としては、背後に落ちたボールを自分たちで収められれば最高ですが、新潟に触られてもそこからプレスをかけることで、いい状態でパスをしたり、はね返すことが難しい状況に持ち込めます。

千葉側の視点で続けると、新潟に一発で背後を狙われる心配が少なかったので、セカンドボール回収を目的とする選手は前のスペースにパワーをもって潰しに行けました。その結果、新潟の選手よりもいい状態でボールを回収するプレーに力を注げ、マイボールになる回数を増やしたり、新潟を押し込んだ状態でボールを運ぶことが可能になったのではないかと思います。

失点場面は修正できなかったツケを払ったもの

失点場面の直前は、それが如実に表れていましたが、加えて失点時は新潟にとっての右サイドで、2対1の状況を作れていたのに、突破を許してしまった非常にもったいない場面でもありました。前半は何度か右サイドで突破を許す場面があり、それを修正することができなかったツケを、払う形になってしまいました。

サイドハーフ、サイドバックの選手がどう連携してボールを奪うか、クロスを上げさせないか。連動した守備が徹底できれば、局面での主導権を握れるはず。まぁ、そういうスキを突くから、ゴールやチャンスが生まれるんですが…(笑)。2人のCBとの競り合いを避け、安田さんとの勝負を選んだ9ラリベイ選手、CBを越えた質の高いクロスを上げた13為田選手の狙いが一致したゴールだったと思います。

貴章さん投入によってもたらされた新潟の反撃

後半の序盤まで、千葉に試合を優位に進められていた新潟でしたが、貴章さんの出場によって流れが一変しました。ボールを運ぶ方法を前述しましたが、貴章さんはDFラインの背後に抜け出すことで、チームに前へ運ばせることのできる、新潟において数少ない選手だと僕は思います。

この試合でも、出し手がフリーであれば、貴章さんは背後のスペースに何度も走っていました。相手DFにとって、後半から貴章さんが出てきてそういうプレーをされるのは相当キツいですよ。時間が経過するほど体力の消耗も重なり、終盤、千葉の守備陣は明らかに足が止まりました。

新潟の1点目は、一度ボールを奪われましたが、祥郎が素早い切り替えから、ボールを奪い返して攻撃につなげました。祥郎はこれ以外にも、彼の良さである素早い切り替えやアグレッシブな守備で、チームを助けてくれていました。そして得点は新太のいいトラップからの迷いのないひと振り。ゴール前で迷いなく足を触れているのは、調子がいい証拠でもあると思います。どこからでもシュートを本気で狙ってくるFWは、やっぱり嫌なものです。

早川的、貴章さん分析

もう少し、貴章さんの話をさせてください(笑)。ボールを前に運べる動き出しができる、と言いましたが、「結局どういうところがストロングポイントか?」と考えると、要は相手の守備バランスを崩せる、ということなんですよね。

僕なりに分析すると、それはDFラインの背後に抜けることと、クロスに入っていく際の位置取りの良さの2つに起因しているんじゃないかと。貴章さんをずっと見ていると、CB間にポジションを取って、ボールの出るタイミングでスッと抜け出したり、半円を描くようなダイナミックな動き出しから裏のスペースを狙ったり。常に相手DFの脅威となるような動き出しをしているんですよね。

これはクロスに入る時もで、1人のDFにくっついている時間が少ないし、DF間の「ここ」というタイミングで動き出す。それによって、貴章さんには2人のDFの意識が向けられます。「貴章さんに背中を取られているDF」と、「貴章さんに前へ入られてしまったDF」です。

貴章さんと新太の組み合わせは、新潟の大きな武器になる

守備側としては中途半端な位置にいる187cmのFWにボールが入ることは、失点に直結する危険なプレーを許すことと同然なんですよね。2点目の安田さんのクロスに、貴章さんはCB間に入っています。それによって、左CBの5増嶋選手は、貴章さんと、その後ろの新太も同時に見なくてはいけない状況になりました。

クロスの軌道から、増嶋選手は貴章さんに合わせたと思ったのでしょう、一瞬貴章さんの方に動いているんです。その一瞬のスキを、3試合連続ゴール中の絶好調男が見逃すはずがないですよね。新太はゴール前に落ちたボールにダイビングヘッドで反応して、自身2点目となる逆転ゴールを記録しました。そのダイナミックなプレーに注目しがちですが、貴章さんの位置取りがあったからこそだと僕は確信しています! 貴章さんと新太という組み合わせは、今後新潟の大きな武器になるのでは、と期待せずにいられません。

流れを感じ取り、応援で届けてもらえたら

最後に。フクアリにも本当に多くのサポーターのみなさんに足を運んでいただきました。ありがとうございます! いつも大きな応援が聞こえますが、1点目が入ってからは、さらに大きな応援、熱が映像を見ていても伝わってきたんですよ! 『ここから何かが起きそうだな!』。そんなワクワク感を持ちながら、僕はDAZNで観戦をしていました。でも、それを一番感じられていたのは、実は選手だったんじゃないかな、と思うんです。

以前のコラムでも、応援によってサポーターの皆さんから選手へ気持ちを伝えられるのが、新潟の良さだと書きました。それにプラスして、今回のように試合の流れを敏感に感じ取り、「いまは前へ行く時だ!」と思ったら、それをぜひ選手に応援という形で届けてもらえたらと思うんです。

選手と同じように試合を戦っているサポーターの皆さんだからこそ、流れを感じ取れると僕は思います。そして、そういう流れを感じ、メッセージを伝えてゴールが生まれた時は、最高に気持ちいいんじゃないかな、と。密集したアウェイだけでなく、ビッグスワンでも全体が共有して、伝え合いながら一緒に戦っていく。僕のコラムも、そういう体験がしやすくなるために、よりチームの良さが伝わるような努力をしていきます。



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