【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第389回

2018/9/27
 「ホーム連勝」

 J2第33節、新潟×金沢。
 金・土と札幌取材だった。北海道胆振(いぶり)東部地震の中断後、初めて行われた北海道日本ハムファイターズの節電ナイター(@札幌ドーム)を取材、併せて地下鉄東豊線の元町、栄町等の液状化被害を見てまわる。ご存知の方もおられるだろうが、僕は北海道新聞で16年間、野球コラムの連載を続けている。胆振地方の苫小牧にはアイスホッケー関係の知己が大勢いる。そもそも釧路で少年時代を過ごしたこともあって、北海道はもうひとつの「ホーム」だ。翌・日曜日が父の三回忌で、大きな余震でもあったら飛行機が飛ばないというリスクも考慮したが、こればっかりは行くしかなかった。

 で、金沢戦のキックオフ時はどこにいたかというと、帰りの新千歳空港だった。空港は天井がところどころ剥落し、売店やレストランの閉店が目立っていた。但し、無料Wi-Fiは生きている。で、すぐDAZNにつないだんだけど、これがやたらとクルクルして調子が悪いんだ。まぁ、無料のWi-Fiサービスはそういうこともあるから、切り替えて、次の手としてradikoにつないで、エリアフリー機能でFMポートの「リアルアルビ」生中継を聴こうとした。そうしたらね、驚いたことにエリア外の配信をしてなかったんだよ。権利の関係かな?

 必然的に速報と知人からのLINEが頼りになった。スコア1対1までは搭乗ゲート前のソファでフォローした。で、いいところでフライト時刻だ。1対1ってめちゃめちゃ気になるところでしょ。その時刻から飛んだら羽田に着く前に空中で試合が終わる。着陸して機内モードを解除したら結果が出てるんだよ。

 飛行機が羽田に着いて、機内アナウンスが「ここからはお手持ちの電子機器をお使いいただけます」と告げる。で、スマホを起こしたんだけど、そうしたら何だよ、LINEが「38」って。色んな人が口々に「しおーーーーーーん」「しゃああ、シオン!!」「至恩!」「うっきゃあ、シオン!!」「ユースっ子が輝いた!」「勝った勝った!」「シオンに15番あげる」「新潟のメッシだ」「カウエのランニングが効きましたね! 乾みたいなシュート!」「やりましたね! 武蔵ハット、河原だめ押しゴール、元新潟の選手の活躍を素直に喜べます」「今日もハルオスイング、ムラーリャ伸びてます」「しおん選手がアイシテルニイガタで決めました!」「勝つっていいです!」「まさかのホーム連勝!」「これから祝勝会!!」etc。

 どうやら終盤投入された本間至恩がロスタイム弾を決めたらしい。至恩は(ルヴァン杯で公式戦出場は果たしているけれど)これがリーグ戦デビューのはずだ。着陸したらいきなりお祭り騒ぎが待っていた。ウヒョー! 見てないくせにウヒョー! もう、さっそく見よう見ようということになり、羽田空港のWi-Fi使って動画再生だ。

 カットインしてペナルティエリアの角から打っている。おお、これはFMポートの実況・立石勇生さん言うところの「至恩ゾーン」ではないか。かつてユベントスのスターだったアレッサンドロ・デルピエロが得意とした「デルピエロゾーン」にならったネーミングだ。この角度に持ち込めば絶対決めてくれるってやつ。こんなファインゴールをみんな見たのか。それで本拠地2連勝なのか。ウヒョー! 試合全体は見てないくせにウヒョー!

 という感じでウヒョーウヒョー言いながら帰宅したのだ。これはアルビサポを惹きつけてやまない「悪魔の法則」の発動である。もし、自分の見に行かない試合が最高の勝利だったらどうしよう。みんなが興奮して、LINEを「38」件も送りつけて来たり、後々、飲み屋談義であの試合の至恩のゴールが…、と語り草になったらどうしよう。その日に限ってそんな幸福な瞬間をスタジアムで味わえなかったらどうしよう。皆勤賞ペースで参戦を続けるサポは、これが怖いばっかりにペースを落とせないという。僕も金沢戦はホーム&アウェーの「ダブル」を達成するんじゃないかなぁと内心思っていた。「えのきどさん、金沢戦ダブルを見てないんですかぁ」と言われるような気がしていた。でも、まさかそんな劇的な試合になるなんて。

 翌日、恵比寿の松泉寺から帰って、黒ネクタイや礼服をかたづけると、さっそくDAZNの見逃し配信をチェックだ。これは今季のベストバウトじゃないか。前半から両軍バチバチ火花を散らしている。まともにやり合うタイマンサッカーだ。これは会場で見たかった。さぞやヒートアップしただろう。先制ゴールは広瀬のミドルパスをもらった河田が勝負に行き、敵GKが弾いたところに達也が詰め、そのこぼれ球に渡邊新太が身体ごと突っ込んでったもの。究極に泥くさいけど、盛り上がるやつだ。惜しむらくは直後に失点して、形勢が動かなかった。

 この「バチバチ火花」「タイマンサッカー」に関して、今節の平澤メモは面白い指摘をしている。まぁホームで連勝し、J3降格危機がとりあえず遠のいた今だからやっと考えられることでもあるが(例えばこれで「梶山用兵」にもこだわる必要がなくなったと思う。いちばんコンディションのいいスタメンで、とにかく1勝1分を奪って勝ち点40に乗せればいい)、今季、取り組んだサッカーの継続性ということを言っている。傾聴に値することだと思う。

 「今年のチームは『判断』を求めてきました。しかしうまくいかず、その途上で別の戦い方を選択しました。もし順調にチーム作りが進んでいれば序盤から相手のパワーを吸い込むようにいなしながらこちらのペースに持ち込んで、劇的弾に頼らずとも勝ち点3を手にしていたかもしれません。勝ったことにケチを付けたいのではありません。ちらほら聞こえてくるように、これを『新潟らしさ』と規定するのであれば、それは常にギャンブル(=タイマンサッカー)を仕掛けて勝つか負けるか、という五分の戦いを永遠に続けることを意味します。そこに落ちていくのが、怖い」
 「少しでも勝利の可能性を高めるためにあるのがきっと、サッカーの戦術であり、それこそが醍醐味なはず。前提としての『戦い』が必要なのは当然ですが、それだけに頼るのであれば、ある一定の場所から突き抜けるのは難しい。それを変えようとしたのが今年でした」(平澤大輔氏の金沢戦メモ。丸カッコ内の補足はえのきど)

 本間至恩の決勝ゴールは本当に美しい。18歳の新鋭の躍動はすべての人を酔わせる(だって、僕の目にはピッチに立つ選手のなかでいちばん巧く見えた!)。それからカウエは技術も勝負根性も素晴らしいじゃないか。僕がスワンにいたら居合わせた初対面のサポとハイタッチしたりハグして、そこらをぴょんぴょん飛び回った自信がある。

 ただ平澤さんの言うことはすーっと胸に入ってきた。あと少し勝ち点がゲットできたら、緊急避難モードをいったん解除して、先を見据えた戦い方ができる。是永大輔専務がツイートした「クラブ史上最大の正念場」という来年を思うことができる。どの道を行くかアルビは岐路に立つのだろう。

 まぁ、とにかく今は水戸戦だ。僕はファイトスタイルを変えなくていいと思うよ。ギャンブルかもしれないが、結果の出ている今はこれをしっかりやり切ろう。何といってもまだアラートの警告音が鳴ってる状態だからね。


附記1、だから、金沢戦でゴール裏が掲げた北海道地震への支援断幕は本当に嬉しかったです。とりあえず計画停電の話は消えたんですけど、今、飛行機も宿もガラガラでちょっと影響が長引きそうですね。

2、至恩グッズ欲しい~!

3、アレですね、FMポート中継は久し振りに勝ったんじゃないですか。放送業界って意外とゲンをかつぐから気にしてたと思うなぁ。よかったよかった。


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