【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第208回

2014/4/24
「間合い」

 J1第7節、鹿島×新潟。
 勝つような気がしていた。「敵地」の「鹿島戦」は相性が悪くない。しかも、相手は現在、首位チームだ。もう、「首位(上位)撃破」は新潟の持ち芸といっていい(特にシーズン終盤、優勝争いしているところは新潟と当たりたくないだろうと思う)。鹿島は累積でエースストライカーのダヴィを欠いている。代わって初スタメンの新人・赤崎秀平のワントップだが、好調チームは当然ながら戦い方を変えない。ということはオープンゲームになる。ここがミソですね。

 一方、新潟のエース・川又堅碁は代表候補合宿帰り。ザッケローニ監督からアドバイスをもらって、練習試合ではゴールを決めている。新しい刺激をもらって、活躍しそうな雰囲気満点。2トップは今日も鈴木武蔵とのコンビになる。このケンゴ&武蔵(「新潟のアンリ&トレゼゲ」と評する解説者あり!)がグングン良くなっている。関係性や距離感が仕上がってきた。リーグ戦で続いてる「スコアレスドローの壁」を今日こそ打ち破ってくれるんじゃないかな。

 4月中旬のカシマスタジアムは初夏の気候だった。何となくここのアウェー戦は真夏のイメージがある。上層階の記者席は風が強いから念のためと思ってベンチコートを持参したが、結局、腕まくりして着ていた。あ、そうだ、カシマスタジアムに来る度、気になっていて、いつか書こうと思っていたネタがある。読者はカシマ名物「メロンまるごとクリームソーダ」ってご存知ですか。

 いや、あれはびっくりしますよ。最初に見たのはマルシオの「ライダーキック」の鹿島戦かなぁ。上層階席で新潟サポの女性がマスクメロン1個(の上の部分がくりぬいてあって、スプーンだかストローだかが刺さってる!)を持ってるんだ。派手だ。南国ムードだ。僕は一体、何やってるんだと思う。敵地へ来て南国ムードか。だけど、あまりのムードだ。そのムードどこで売ってるんだ?

 だから真夏のアウェーってイメージです。南国ムード。あれはまるごと1個の冷凍メロンの中央をくりぬいて、ソーダを注ぎ、アイスクリームをトッピングした商品なんですね。以来、カシマへ来るとまず周囲の南国ムードを確認する習慣がつきました。今回は初夏の気候だったせいか、見かけなかったなぁ。少し残念な気がした。

 試合。興奮しました。これぞサッカーという、魅力にあふれた試合。僕は鹿島の展開力に惚れ惚れした。まぁ、(特に前半は)つばぜり合いなんですよ。互いに仕掛け、防ぎ、主導権を奪おうと頑張る。僕は新潟もなかなか良かったと思う。このところ一戦一戦、強くなってる気がするな。が、鹿島の巧さは一枚上だった。ピッチを広く使い、崩しにくる。そのバリエーションの豊富さだね。赤崎、カイオといった若手も「鹿島流」にフィットしている。

 スコアが動いたのは前半20分、川又堅碁の技ありゴール! あれは成岡翔の右サイド遠めからふんわりしたクロスを入れるんだよ。この時点で技ありなんだけど、ケンゴがそれにやわらかく反応する。上体の力を抜いて、左足ボレー。成岡とケンゴ、ふたりの「感覚」的なものが伝わって、実に気持ちいい先制点。

 前半31分には鹿島・土居聖真に同点ゴールを決められる。赤崎からボールをもらった山本修斗が深く斬り込み、エリア内の土居に折り返したもの。山本が入り込んだときに、うわ、やられたと思った。だけど、結局ここだけだもんな。一枚上手の相手としっかりやり合えたんだ。新潟は自信持っていいよ。

 で、後半も「どっちが勝ってもおかしくない」(試合後の柳下正明監督コメント)スリリングな展開が続き、決勝点自体は後半29分、鈴木武蔵のクロスをカットしようとした鹿島・青木剛のオウンゴールという、想像外のものになる。勝ち切った。危ないシーンは山ほどあったけど、とにかく勝ち切った。これは大したもんだ。

 僕がこの試合から学んだことは、間合いだなぁ。まぁ、やっぱりMVP級の働きっていうことだとレオ・シルバになるんだけど、間合いの取り方がすごいんだ。後半、逆をとられて5人対2人ってシーンがあったでしょ。完全に数的優位の状況を許してしまった。で、それをレオが難なく奪い返すんだ。あのときもね、カンタンにボールを奪ったように見えるけど、相手からすると急にレオが間合いを詰めてるんだ。

 間合い。相手との距離感。たぶん元々は剣道とか、武術の言葉じゃないかな。僕はこの日、鈴木武蔵を見ていて、やっぱり間合いを思った。武蔵は本当にボールを「おさまる」ようになったでしょう。間合いが良くなってるんだ。自分のリーチならこのくらいの距離感で、この向きだったらおさまるって覚えたよね。あと、自分が行く方向を空けとくようになった。間合いは詰める一方じゃなくて、外したり逃げたりもあるんだよ。これは奥が深いと思う。

 試合後、(何しろ勝つと思っててやっぱり勝ったのだから)単純にうひゃうひゃな部分があったのは否定しない。が、同時にサッカーは面白いと思ったな。何て言えばいいかな、誰でも覚えがあるでしょう、こう、次々に新しい発見があって、見れば見る分だけサッカーのことがわかってく気がした頃の幸福感。今、アルビレックス新潟にはそれがある。


附記1、この試合で鹿島・曽ヶ端準選手がJ1新記録の217試合連続出場を達成されました。おめでとうございます。

2、それにしてもレオの評判が大変なことになってきました。『Jリーグタイム』(NHK‐BS1)では宮澤ミシェルさんの「一家に一台 レオ・シルバ」のフレーズまで飛び出した。もしかしてこれから家電なみに普及するんでしょうか。何ですかねぇ、空想上のイメージは「ルンバ」みたいなロボット掃除機でしょうか。

3、ナビスコ甲府戦は武蔵のロスタイム弾で勝利でしたね。5バック気味に引いて守る相手をとりあえず破った。シーズン序盤の「課題」に答えを出したのが小泉慶、武蔵という若武者だってところも嬉しいですね。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動がさめる前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!

photo


ユニフォームパートナー