【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第225回

2014/8/21
 「課題」

 J1第19節、神戸×新潟。
 台風11号の接近で西日本は大荒れだった。夏の甲子園は早々と「開幕から2日連続順延」という初の決定を下す。会場のノエビアスタジアム神戸は開閉式の屋根を備えているから心配ないが、交通網は大丈夫かなぁと思う。後で聞いたらサポーターはもちろん、選手らも翌日の帰りが大変だったようだ。台風だから飛行機がストップ。新幹線も一時は止まっていた。で、時期的にお盆ラッシュの最初のピークが重なり、座席の確保が容易じゃないんだね。

 が、屋根を閉じて行われた試合自体は全く荒天の影響がなかった。せいぜい湿度が高いくらい。悪天候のため月曜に順延された広島×鳥栖(エディオンスタジアム広島)と比べたら夢のような話だ。中断明け後、苦労している2チームの戦い。9位神戸は2分2敗で3位から急降下、10位新潟は1勝3敗で黄信号点滅。

 試合は開始早々、イ・ミョンジェがエリア内でペドロ・ジュニオールを倒してしまい、PK献上という大波乱。これをマルキーニョスが外してくれた。まぁ、そこから終始、守戦だったように思う。守田を中心に水際でどうにか跳ね返すシーンが続く。そのまま粘ってスコアレスドローに持ち込むかと思いきや、ロスタイム(後半45分+2)、CKから河本裕之に頭で合わされ決勝点を奪われた。ちょっと心理的にダメージの残る敗戦。神戸は歓喜爆発。この試合を取るか落とすかは天国と地獄の違いだ。

 新潟の攻撃はここ数試合の課題を払拭できなかった。まぁ、ポイントだけを見れば後半の決定機に判断ミスした鈴木武蔵であるとか、あぁ、あそこがうまく行ってたらなぁというシーンはある。が、そういうシーンだけ抜き出しても意味ないと思うなぁ。問題は構造的なものじゃないか。今週も元サッカーマガジン編集長の平澤大輔さんの作成した通称「平澤メモ」を手がかりとして、新潟のサッカーを考えようと思う。戦術的理解があったほうがサッカーはずっと面白い。

 先週は新潟の攻撃に必要なスペースをどこに見出だしていくか、だった。今週はその具体論「サイドのスペースを崩すために」「最終ラインのウラを突くために」なのだ。
 
 
 「逆サイドの広いスペースを突くのに大事なのはサイドバックです。松原も新加入の李明載もともに悪くはない印象ですが、もっと大胆に突っ込まないと相手がビビりません」
 「目の前に広いスペースを持つ幸運に恵まれたサイドバックが、サイドチェンジのパスを受けたときのポイントは『スピード』です。ドリブル突破でもいいし、パス交換で崩してもいいのですが、せっかくサイドでもらっても、次のアクションへ移るまでに『よっこらしょ』とワンテンポ置いてしまうように見えます。その間にせっかくのスペースは埋められてしまいます」
 「パスで崩す場合は、同サイドのボランチとサイドハーフとFWのコンビネーションを生かしたいのですが、どちらのサイドも噛み合いません。私が長く鹿島を見てきたせいもありますが、鹿島のスタイルを参考にできるのではないかと思います。サイドバックにボールが入ると、ボランチがすっと寄せてきてパスコースを一つ確保します。その間にサイドハーフとFWが寄ってきて、縦のスペースに走ったり、いわゆるバイタルに入って横パスを求めたり、もしくは相手のサイドバックとセンターバックの間でスルーパスを狙ったりします(もちろん動きが重ならないようにしています)。その間に中央付近や逆サイドにスペースができますから、もう一人のボランチや逆のサイドハーフ、もう一人のFW、逆のサイドバックがそのスペースを狙います。この一連の流れがアルビには足りないかな、という印象です」(平澤メモ)

 
 ホントにねぇ。僕もイ・ミョンジェ、松原健はもっとばんばん上がって勝負してもらいたい。そして「ワンテンポ置く」は実に正確な指摘だと思います。名前は挙がらなかったが川口尚紀にも「いっぺん持ち替える」悪癖があって、そこで攻撃全体がノッキングを起こしてしまうだなぁ。

 「最終ラインのウラを突くのはFWだけの仕事ではなく、攻撃的MFやときにはサイドバックが追い越す必要があります。しかし、MFは足元でもらって足元にさばくことに喜びを感じているようで、そこからの思い切った縦や斜めへの中距離ダッシュが見られません。もしくはそれにトライしていても、ボールを持っている選手は近くの人の足元に出そうとするので、ウラに抜けた選手は無駄走りをしただけに見えてしまいます」
 「最終ラインのウラを突くにはさまざまな方法がありますが、川崎Fが見事なまでのお手本を見せてくれました。彼らもボールを回しながら中央にボールを運びます(その方法は横パス主体でもくさびを入れながら相手のギャップを作るのでも、どんな形でもありです)。そしてそこで一度、バックパスをするんです。これがスイッチになります。その瞬間、FWもサイドハーフも次に何が起こるのか分かっているので、ウラのスペースを狙って飛び出します。バックパスを受けるのは中村憲剛です。この時点で中村には複数のパスコースが与えられているので、その中から一番おいしいウラのスペースへと送り込むのです。しかも、得意のインサイドパスでダイレクトでタテにズバッと。惚れ惚れしますね(笑)。これと同じことをアルビでするとしたら、パスの出し手は小林がいいかもしれません」
 「ウラを崩すという点では、田中達也が出し手にも受け手にもなれるので、その存在は絶大です。しかし残念なことに、それを感じて同調できる選手が少ない(成岡と小林ぐらい?)のが悔しいところです。もしかしたら、小泉あたりが感じ合えるかもしれませんが…」
 「岡本と鈴木の2トップの組み合わせは、現状ではやはり効果的ではないような気がします。川又&鈴木の時と同じで、同じタイミングで同じスペースを狙って走り込んでしまうので、効果が半減します。その点、田中達也と組むと縦の関係を作れますから、岡本なり鈴木なりがまず前線でかき回しながら、田中達也が時間差で1列下がったところでもらってさばけるし、もしくは岡本や鈴木をおとりにして田中達也がゴール前に入り込む動きが見られました。成岡あたりはそこにパスを入れるのは得意だと思うのですが」(同)


 (くどいけれど)確認しておきたいのは「平澤メモ」が、決して夏休みの計算ドリルの正解っぽいもんじゃないってことです。あくまで参考にしてサッカーを考えましょうねという趣旨。計算ドリルと違って大人になってから出会う問題には、多様なアプローチ&多様な解があるのがフツーですよね。


 「『パスコースを間断なく作り続けること』について、ポイントは(A)角度と(B)位置だと感じました」
 「(A)については、これも川崎Fとの比較になるのですが、川崎Fはボールホルダーを頂点に基本的な三角形をしっかり作っている印象があります。あくまで印象論ですが、理想的な三角形とは『正三角形』だと思っています。一つの角が60度。視野がきっちりと確保できて次へのパスコースを作りやすいからです。ですので、安心して渡せる。そうすると、しっかりとゲームをコントロールしているという印象を相手や見ている人に与えることができます」
 「もちろん相手があることですから常に60度は難しいにしても、アルビの場合は妙に鋭角だったり、逆にルーズに180度に近かったりすることが多い印象です。パスを1本出すだけならば角度はどんなものでも構わないのですが、何本も続けてパスをつないで崩しきるためには、60度に近づけながら、というのが理想なのではないかと感じました」
 「また角度が悪い状態は、相手選手にとっては助かります。パスコースが限定しやすくなるからで、いわゆる『コースを切る』ことが容易になり、プレスをかけやすくなってそのままショートカウンターが効く、という構図になると思われます」
 「(B)位置については、パスを受けようとする場所取りのことです。敵将の風間八宏監督が面白いことを言っていました。『ボールを保持するのは楽に戦うためで、選手がそれを分かっている』と。先ほどの角度はもちろんですが、受ける場所を間違ってしまうと楽に戦えなくなります。川崎Fはそれができるから、楽に戦えている。アルビの場合は相手が捕まえやすい場所、つまり相手が足を伸ばせば触れるところでもらっています。別の言い方をすれば、相手の視野のど真ん中でもらっている。しかし、川崎Fは相手が捕まえにくい場所、相手が足を伸ばしても触れないところでもらっている。先ほどと同じ言い方をすれば、相手の視野から隠れるように(もしくは視野の中にいても見えにくいところ)でもらっている。難しいようですが、その差はほんの1メートルか1.5メートル程度の違いだと思うのです。守備側が嫌がるのは、自分と別の味方の間で受けられてしまって、どちらが取りに行くのか一瞬でも躊躇してしまうような状況です。理論的には、この位置取りと角度を守り続ければ、パスで相手を崩すことができる、ということになるでしょうか。そう簡単に行かないのがまた、サッカーの楽しさですが(笑)」
 「技術力が高ければ、角度ともらう場所がルーズになったとしても切り抜けられますが、アルビのようなこれからのチームは愚直に正しい角度とポジションを意識し続ける必要があるのではないか、と思いました」
 「これがうまくはまれば『曲線的』というか『幾何学模様的』な攻撃ができると思うんです。この2戦のアルビからは攻撃はすべて『直線的』なイメージを覚えました。パサーがいて受け手がいて、そこにまっすぐパスを出して、うまく行けばチャンスになるんだけど……という感じで。でも、先ほどの鹿島の例をもう一度引けば、パスコースをたくさん作って、縦パス、横パス、ドリブルを織り交ぜていくことで、パスのスピードやテンポに変化をつけることができると思うのです」(同)

 
 柳下正明監督の談話も新聞記事も、大概「フィニッシュの精度」「クロスの精度」を言揚げする。まぁ、シンプルに表現するとそうなるからだ。けれど実際にはフィニッシュやラストパスの前の段階で色々あるんだけどなぁという部分をショートカットしている。「平澤メモ」のおかげでその一端が浮かび上がったのじゃないか。

 僕はショートカウンターかポゼッションか? という議論には与(くみ)しないつもりだ。というのはバランスだと思うから。どちらか一方というのは相手のあるサッカーで現実的ではない。

 但し、どこを目指しているかは重要だと思う。現在、新潟が志向しているサッカーはまだまだ未完成なものだ。結果に一喜一憂してもしょうがないかもしれないね。今はひとつひとつ積み上げていくしかないのかな。


附記1、この一週間でチームに大きな動きがありました。まず、スイス、FCルガーノからラファエル・シルバ選手の加入内定、それからお盆直前になって本間勲選手の期限付き移籍(栃木SC)、川又堅碁選手の完全移籍(名古屋)が発表された。ファン、サポーターも気持ちが整理できなくて大変だったと思うけど、アレですね、栗原広報なんかお盆休みがふっ飛んだ状態ですよね。

2、だけど率直に言って選手が入れ替わり過ぎですね。2年前のサポーターズCDを引っぱりだしてみたんですけど、今、残ってる選手は田中亜土夢だけですよ。ファン、サポーターは生身の人間だから、あんまり入れ替わると感情が追いついていかない。観客動員に影響しないといいですよね。

3、昨日、川又堅碁選手から電話をもらいました。わざわざ栗原広報に問い合わせてきたらしい。栗原さんから確認のレンラクもらってびっくりしたなぁ。「これまで応援していただいてありがとうございました、決まった以上、切り替えて死ぬ気でがんばります」とのこと。「死なない程度にがんばれ」と返しときました。「苦しかったと思うけど、無駄になる経験なんてないから」なんちゃって、我ながらすごい年長者っぽかったですね。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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