【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第231回

2014/10/2
 「3バック」

 J1第24節、広島×新潟。
 スカパー観戦。新潟は3バックだった。広島の「可変式3-4-2-1」に合わせ、同じフォーメーションのマンマークを採用したのだ。「可変式3-4-2-1」はミハイロ・ペトロビッチ前監督が広島にもたらした戦術で、攻撃時は4バック、守備時は5バックになるというユニークな特徴を持つ。世界的に見ても稀な戦術(UEFAチャンピオンズリーグ等で見たことがない)だと思うのだが、面白いことにJリーグでは2チームが採用している。ペトロビッチ監督が浦和へ移籍したからだ。

 広島は森保一監督が「可変式3-4-2-1」を引き継ぎ、守備意識を高めて、リーグ2連覇の強豪に仕上げた。浦和はペトロビッチ監督のやり方を熟知した広島時代の教え子を補強するなどして「可変式3-4-2-1」をものにし、更に攻撃的に発展させた。で、何が言いたいかというと新潟は24、25節、中2日の連戦で広島、浦和と当たるのだ。おそらく世界に2つしかない「可変式3-4-2-1」のチームと連続で当たる。こんなことってなかなかないでしょう。

 僕らはつづきものとして2戦を見るべきですね。まぁ、J1残留争いを思えば勝ち点計算に意識が向く。また決定力不足を思えば鈴木武蔵の凱旋帰国が待ち遠しい。はぁ? 「可変式3-4-2-1」? それどころじゃありませんよって気分にもなる。僕も先週、自分の「心配機能」の高さについて言及したばかりで、心配することにかけては人後に落ちないつもりだけど、この2戦はサッカー的関心っていうのかな、戦術面に興味津々だった。

 だもんで、負けのショックは大方の読者よりずっと少なかったかな。なるほどなぁ、なんてつぶやいたりして。まぁ、簡単に言うと「年季の入った戦術と急造のそれの差」みたいな話なんだけどね、肝心なとこで人を離して失点食らったものの、一定の効果は上げてたんだよね。この試合は久々に「プレッシングサッカーの新潟」の看板を掲げたね。夏場の冷やし中華みたいに「ハイプレスはじめました」の張り紙かもわかんないけど。まぁ、実際問題、完全には抑えられない。ボロを出すとつけ込まれる。が、やろうとしていることはわかる。

 問題は攻めに転じるところがうまくいかなかったね。指宿洋史に入れても敵に拾われてしまう。ターゲットのボールロストは攻撃のリズムを狂わせるね。あと、この日は田中亜土夢の累積欠場に加え、松原健のご家庭の事情もあって、サイドハーフに小泉慶&川口尚紀(今季初先発!)とフレッシュな顔ぶれが揃った。小泉は前半終了間際に惜しいシーンがあった。あのシーンがいちばん新潟らしい攻めのイメージかもしれないね。

 それからこの日、ついにラファエル・シルバが交代出場を果たした。なかなかボールが入らなくて持ち味は出せなかったけど、リーグ戦終盤へ向けて期待したいところです。指宿が落とす→ラファエル走り込んで決める。「新戦力完結」のゴールがいつ見られるか。とにかく今はゴールがほしい。どんなゴールでも誰のゴールでもね。


 J1第25節、新潟×浦和。
 やっぱりスタジアムで見ると面白さが違うなぁと思う。「3-4-2-1(数え方によっては3-6-1)のマンマーク」は壮観だった。3も4も2も1も、つまりキーパー以外の10人が全員トイメンとやり合っている。白兵戦だ。ほら貝の合図だ。あちこちでバトル勃発。この「人対人」の部分だね。テレビカメラに映らないところでもバトルが起きている。

 新潟はいい入りだった。中2日とは思えないプレッシング。浦和がやりにくそうだ。前半は決定機を再三つくったんだけどね。ひとつも決まらない。いやもう、不思議なくらい決まらないんだ。浦和はしのいでるうち落ち着いてきて、阿部勇樹からのロングパス→右サイド関根貴大→エリアに駆け込んだ興梠慎三(前半22分)の一発で決めてくる。

 「こちらは決定機を外しまくり、相手はきっちり決める」は前節・広島戦同様。スコアの0対2も同じ。柳下正明監督は会見で「ある程度、やられるのは覚悟で、相手を休ませたくないからあの戦い方を選んだ」とコメントしている。つまり、失点上等(?)なのだろう。完璧にマークしきれるとは思わず、したがってミスから失点するのも考慮に入れつつ、相手を休ませないことで相手からもミスを引き出し、得点に結びつけようという狙いだったんじゃないか。

 ということは広島戦、浦和戦それぞれ2失点は選手を責められない。僕らもそこは織り込んで見たほうがいい。となると問題はやはり無得点試合というところだね。「再三の好機に決めていれば」「最後の部分の精度が足りない」といったおなじみのフレーズをまた繰り返すしかないのか。

 僕は広島戦より浦和戦のほうが(中2日で疲れもあるはずなのに)ずっと積極的にやれてた感じがした。これは何故なのかなと考えていたら、会見でヤンツーさん本人が「広島と浦和は似ているようで違う」と解説してくれたのだった。「浦和は前へ奪いにくる」のだ。広島は先制したら9人の強固なブロックを固めて、がっちり守り、そこからカウンターで追加点を狙うイメージが強い。浦和は先制しても仕掛けてくるからバトルが続くのだ。新潟としてはチャンスがある。

 が、結果は同じく無得点だった。広島戦に続いて、「同じやり方をすれば我々のほうが一歩上回れる」(ペトロビッチ監督会見コメント)という当たり前の現実を突きつけられただけだったのか。「3-4-2-1のマンマーク」は徹底されていて、ちょっと意味不明な場面も見受けられた。阿部勇樹、鈴木啓太が最終ラインに回収されると、担当したレオ・シルバ、小林裕紀がそのままついていって、最終的には1トップの指宿洋史より前で余っていた。「新潟の選手はマジメすぎる」でかたづけられない気がする。第一、レオも小林も補強で引いてきた選手だ。「新潟の選手はマジメすぎる」を補ってもらうべき存在じゃないですか。

 僕は成岡翔の不在が痛いなぁと思った。もちろん成岡の得点感覚も今、必要だけど、もうひとつ経験の部分だね。成岡は先月だったかな、「新潟の選手は柳下監督に言われたことだけやりすぎる」ってコメントしてるでしょ。応用がきかないよって趣旨。言うことをきかないんじゃなくて、自分なりに咀嚼(そしゃく)して実行する。そういうのを身をもって示せるのは成岡をおいていない。

 もしかすると(これは聞いてまわったわけじゃないから、あくまでもしかするとですけど)、チームはちょっと窮屈な状態かもわかんないな。皆、過剰に「監督の注文通りやらなかったら使ってもらえない」と思っちゃってないかなぁ。ヤンツーさんは基準をハッキリ示す監督さんで、選手からするとわかりやすいんだけどね。「川又ショック」が尾を引いて、タスクに縛られてる感じじゃないといいんだけど。

 試合後、会見で真っ先に質問した。3バックは今後も続けていくのか? 広島、浦和戦の対敵戦術として特別に採用したのか、それとも今後、新潟の新しいフォーメーションになるのか。そうしたらヤンツーさんの答えは「それはわからない」だった。まぁ、名古屋戦も控えてるし、そんなことは明言しないね。ただ手応えはあったんだと思うな。そんな表情に見えました。


附記1、次節・名古屋戦は今季最大のドラマじゃないですか。「ヤンツーvsケンゴ東海の大決戦」って怪獣映画ですかね、これじゃ。「赤い川又堅碁」は移籍後、絶好調です。永井謙佑とのコンビは「化学変化をもたらした」(西野朗監督)と評されている。いやぁ、楽しみだなぁ。順位もだいたい同じ。新潟としてもここは勝ちに行くでしょう。

2、ゲリラ豪雨の仙台戦から一転、浦和戦の祝日(秋分の日)は快晴に恵まれましたね。僕はちょっと早く着いて、ココイチへ寄って、テーブル席で「まかないチーズカレー」食べながらピクニック気分でした。敬和学園高校器楽部・ジャズホーネッツの演奏がなかなかよかった。あ、あとココイチでレオ・シルバ選手のスーベニアカップ(徳島戦のクレジットあり)をゲットしました。さっそく家で朝食時に使ってます。

3、湘南ベルマーレが史上最速でJ1昇格を決めました。いやぁ、秋分の日ですよ。素晴らしいなぁ。さっそく広報の遠藤さちえさんにお祝いメッセージを送りました。いっぺん平塚へ取材に行こうと思ってるうち、日が経っちゃいました。藤田征也が大活躍らしいですね。あらためておめでとうございます!


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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