【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第233回

2014/10/16
 「奪う→タテに送る」

 J1第27節、新潟×川崎。
 この日は録画観戦だった。日光アイスバックスのホームゲーム業務を終え、アリーナ玄関でファンをお見送りした後(強豪・日本製紙クレインズに快勝して、皆さん上機嫌だった!)、帰りの東武線に乗るや否やいきなり平澤大輔さんから「レオ、25メートルのFK炸裂!」(19:42)のLINEメッセージが入った。続いて「とても綺麗な一発でした!」(19:46)。元サッカーマガジン編集長はすっかり新潟びいきになっている。

 下今市駅で特急スペーシアに乗り換え、座席をリクライニングさせてケータイ速報に見入った。そうしたら速報より早く、平澤LINEの続報「山本渾身のミドル 2-0!」(20:25)。更に「FKからラファエルがバックヘッドでダメ押し! 残り約5分」(20:46)。その間、僕からのリアクションは「すげぇ~~!」(19:43)、「うわー!」(20:59)の無内容な2つきりである。

 21時過ぎて平澤LINEがおごそかに告げる。「試合終了です。3-0の勝利はもちろん今季初。3点取ったのも今季初ですね。パワフルなゲームでした。川崎の自滅もありましたが」(21:08)、「ものすごく走ってました。レオ壮絶! でもそれよりも、個人的には前節からのアトムの献身ぶりに感動しています。武蔵も残りわずかながら出場して凱旋です」(21:11)、「前半は川崎のビッグチャンスがありましたが、なんとかしのいで盛り返しました」(21:12)。そりゃもう、東武浅草駅に到着し次第、ダッシュで帰宅&録画再生ですよ。宮澤ミシェルさん解説のNHK-BS1中継にかじりついたと思ってください。

 面白いのはこういう見方(先に結果を知って驚いている)だと「何でそんなすごいことが起きたのか?」を考えながら見るところですね。普段の試合観戦とは情報処理の順番が違う。「帰納法」と「演繹法」くらい違う。新潟はキックオフから積極的に行くんだよ。プレスも高い位置からかける。そうしたら川崎がそれをうまくいなして自分らのペースに持ち込もうとする。そういうことが可能なチームなんだね。完成度が高い。だもんで前半、「すごいことなどなーんも起きない試合」になる目だって充分あったと思う。

 それが川崎ペースにならなかったのはシンプルにいうとプレスの効果だ。新潟は前後ではさみ込むプレスを徹底した。はさんで奪う→タテに送る。何か久し振りに「去年の強かったチーム」に戻ったようだった。だけど去年とメンバーが変ってるんだよ。ていうか、そもそも舞行龍が練習に遅刻したとかで外れてて、この日は大野和成がCB、小泉慶がSBだ。最前線は今季2度めのコンビ、指宿洋史とラファエル・シルバ。つまり、現実には「去年の強かったチーム」に戻りようがないはずなんだ。

 これは何故だろう。「奪う→タテに送る」意識じゃないか。これがピタッとハマる感覚が久々なのだ。今季、新潟の攻撃にはタテ意識が希薄だった。持ち上がってもヨコに回したり、後ろに下げたり。それが指宿とラファエルが前線に入って皆、タテを意識するようになった。前半38分、ラファエルがファウルをもらったシーンも、レオ・シルバのスルーパスにラファエルが抜け出したタイミングだった。危険を察知した川崎DF・井川祐輔がつぶしに来る。それが「25メートル」の位置のFKを生む。

 レオのFKゴールは芸術品だった。巻いた軌道でゴール右上隅に吸い込まれる。今季、新潟のスーパーゴールとしては開幕戦のホージェル・ガウーショを凌ぐんじゃないか。サポーターは自宅へ戻ってソッコーこのシーンを見返したことと思うが、ついアンデルソン・リマやマルシオ・リシャルデスら歴代名キッカーの超絶FKゴールと比較したと思います。

 後半に入って、川崎は登里享平を入れ、フォーメーションを変えてくる。前線は2トップになり、中村憲剛はボランチの位置に一列下がった。が、新潟はぜんぜんブレない。落ち着いてるのだ。単に先制点を奪って勢いづいてるのとも違って見える。何だろうこの現象は? 同20分、「奪う→タテに送る」意識が追加点を生む。ロングボールが指宿に入り、指宿はDFを背負ってつぶれながら山本康裕に落とす。山本は中央に持ち込んでミドルずどーん! 移籍後初ゴールはロッベン(バイエルン)を連想させる豪快な一発だった。

 もう、この辺からノリノリですよ。「奪う→タテに送る」で松原健も迫力を増した。がんがんアーリークロスを放り込むんだ。意欲満々。伸び盛り。アギーレジャパンに選ばれ、出場機会のないまま(ビッグスワン開催のジャマイカ戦で)メンバー落ちした悔しさも影響してるだろう。燃えろ燃えろマツケン。供給しろ供給しろマツケン。供給大王となって、必ず代表に返り咲けマツケン。

 解説の宮澤ミシェルさんが「(寄せるだけじゃなく)踏み込んだデイフェンス」「楽しんで追ってるように見えるね」とコメントしていた。試合終盤になっても新潟の運動量が落ちない。新潟の秋は収穫の季節なのか。涼しくなれ涼しくなれ気候。収穫しろ収穫しろボール。ひょっとして今年もここから連勝街道が始まるのか。

 同41分、今度はFKからラファエルの移籍初ゴール! 小林裕紀の入れたボールも良かったが、ラファエルのバックヘッドも絶妙。敵DFがごちゃごちゃいるなかにスーッと入って仕事をした。いや~、3点も取っちゃったよ。うわぁ、これは見たかったなぁ。ビッグスワン最高潮じゃんか。

 新潟はスタイルを取り戻した。プレッシングと迅速なトランジション、タテへの展開スピードが速く、相手の陣形が整う前にフィニッシュへつなげる形。いや、これは遅攻への取り組みを融合した新しいスタイルなのか。そこはヤンツーさんに聞いてみたいなぁ。数字上の話をすると、27節終了時点で去年の勝ち点に並んだらしい。もっとも去年はここから6勝1敗なんだけどね。


附記1、舞行龍ジェームズ選手の練習遅刻をNHKの実況が言ってて、すんごい情報公開っぷりだなと感心しました。その影響でSBに入った小泉君頑張ってましたね。大丈夫かなってシーンもあったけど、臆したところは絶対見せないですもんね。並の新人じゃありませんね。

2、山本康裕初ゴール嬉しそうでしたね。コースケは「アイシテルニイガタ」仕様のすね当てが大評判です。今や亜土夢と並んで「走る新潟」の象徴ですよね。

3、ラファエル守備しますね。

4、日本経済新聞の武智幸徳記者がコラム「ピッチの風」でこの試合を取り上げてくれてます。「優勝争ってるのは川崎か新潟か」「新2トップ、これから力を発揮の予感」の小見出しも嬉しい。指宿洋史の代表入りの可能性についてたぶん初めて活字になったんじゃないですか。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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