【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第237回

2014/11/13
「だからやめられない」

 J1第31節、新潟×鹿島。
 「サッカーは、やはり難しいと感じた。だからやめられないというのもある。ひとつふたつのプレーでリズムを相手に渡してしまった。それがサッカーは怖いと感じたところ」(柳下正明監督)。監督会見がね、なかなか良かったんですよ。開口一番、こういうコメントです。つまり、勝てる試合だった。勝てる手応えのあった試合をほんのちょっとのきっかけで失った。サッカーは奥が深い。そういうことですね。
 
 一般的には「悔しさをにじませたコメント」ってことになるんだと思います。報道は事柄をわかりやすく要約するから、当該コメントも敗戦の弁以上には扱われない。だけど、よく見るとニュアンスが面白いでしょ。悔しがってると同時に面白がってる(あるいはしびれてる?)フシがある。これだからサッカーはやめられないよ。一生かけて追い求める値打ちのあるものだよ。そんなニュアンスです。

 僕は俄然「だからやめられない」に注目しました。会見場の後ろの席からヤンツーさんの表情を見た。僕はヤンツーさんは(期せずして?)二重の態度表明をしてくれたも同然だなぁと思った。「やめられない」のは何かというと一義的には「難しいサッカー」だ。が、同時に「アルビレックス新潟でのチャレンジ」でもある。来季へ向け情熱の炎が燃えている。そういう風に受け取れましたよ。

 鹿島戦はそれだけサッカー的に面白かったと言えます。まぁ、100人のサポに「勝ち点1を取った甲府戦と勝ち点0の鹿島戦、どっちが面白かった?」と聞いたら、99人が「鹿島戦!」と即答するようなもんだと思います。ちなみに残りの1人は「だけど勝ち点のほうが大事だ」じゃないか。目まぐるしく攻守の変転するアグレッシブな内容。球際の競り合いがきびしく、また雨でピッチが走るからイングランド風味もあった。

 ザーザー降りの前半は新潟が圧倒してたでしょ。舞行龍のクロスバー直撃弾、指宿洋史のヘッド、山本康裕がファーに飛び込んだシーン。得点の匂いがぷんぷんする。何だかわからないが、エリアにガンガン斬り込んでいける。レオ・シルバがするするっと持ち込んでシュート→鹿島GK・曽ヶ端準がかろうじて弾いたシーンなんかその典型だ。あ、こりゃ勝てるなと思った。

 先制点は鈴木武蔵。松原健のアーリークロスを指宿がさばいて、それを受けた武蔵が斜めに切れ込みながらシュート(前半43分)。3人とも実にいい感覚だった。練習で培ったものだと思うが、おお、こんなことがサラッとできるんだという感じ。武蔵は過去最大級にストライカーらしい振舞いを見せた。これを続けていくこと。もがきながら彼は何かを掴みつつある。

 後半はだいぶ天候も持ち直して、小雨程度でしたね。開始早々、松原がスペースにパス出し、武蔵がファーでウラへ抜ける決定機(超惜しい!)。これを見てトニーニョ・セレーゾ監督が豊川雄太→カイオ、赤崎秀平→中村充孝の2枚替えをしてくる。流れが変わった。特にカイオが厄介極まりない。この人がもし帰化したら「魁皇」だろうか。そんな小ネタ言ってるゆとりありませんよ。スピードがすごい。

 同17分、セットプレーから失点。小笠原満男のFKは素晴らしかったが、フリーの中村充孝が余裕を持ってインサイドで合わせたのは問題だなぁ。いったん消える動きをして、ファーで仕事をしてるんだけど、あれをつぶせなかったらこういう接戦はモノにできない。すんごい鹿島っぽいゴールじゃん。わかっててやられた感じが悔し過ぎますね。

 だけど試合はどっちに転がるかわからない、面白い状態だったんです。まぁ、どっちが優勢かと言ったら鹿島に傾きかけている。でも、突破されてる分、カウンターのチャンスもある。レオだなぁ、後半、いちばんフィーリングがあったのは。カットインして遠めから放ったシュートも、それから(2失点めの直前!)オーバーラップしてわずかに外したシュートも、どっちも決まらないほうがおかしい程だった。

 が、決勝点は鹿島のものだった。レオの惜しいシュートの余韻がサポにまだ残ってるくらいのタイミング。こういう一瞬のスキを突くのが鹿島の持ち味だ。後半41分、西大伍キレキレのナイスゴール。いやぁ、西はこんなの持ってましたか~。

 で、話は冒頭に戻る。勝ってもおかしくない試合に新潟は敗れ、一方、しぶとく勝ち点3を拾った鹿島は優勝戦線に踏みとどまる。明暗くっきりだ。「潟る」と「鹿島る」を絵に描いたような結末。その差をヤンツーさんは「ひとつふたつのプレー」がもたらしたものだと語る。ちょっとしたことだ。ちょっとしたことが奥が深いのだ。

 ただ試合スタッツのコーナーキック数は記憶に留めたい。シュート数は「新潟11、鹿島12」で大差ないんですよ。コーナーキックは「新潟8、鹿島3」です。いかに押し込んで、キワキワのとこで鹿島がクリアしてたか。勝ちたかったですよ。だからサッカーはやめられないんです。


附記1、松原健選手、アギーレジャパン再招集ですね。やったぜ。今度こそ出番が欲しいなぁ。これで3週間の中断期間も楽しみができました。

2、鹿島戦の日は久々に朝倉さん(千葉県在住サポ)のクルマに乗っけてもらったんですけど、後部座席に先客がいて『サポーターをめぐる冒険』著者の中村慎太郎さんでした。初対面が朝倉車の後部座席ですよ。で、乗り込んでいきなり僕は居眠りですよ。でたらめだなぁ。

3、松本山雅がJ1昇格を決め、新しく「敵将・反町康治監督」をビッグスワンに迎えられるのは素晴らしいことですね。松本市に移住したライター・北尾トロさんの話では、地元の弾けっぷりがもうハンパないみたいです。2011年天皇杯の借りを返しましょう。

4、その一方、カターレ富山はJ3降格です。守田達弥選手は胸中複雑ですね。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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