【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第240回

2014/12/4
 「緊急特派員」

 J1第32節、FC東京×新潟。
 3週間の中断が明け、J1もいよいよラストスパートだ。残り3節、アルビレックス新潟は首都圏勢との3連戦が残った。柳下正明監督の「続投」も決まり、来季につなげる戦いをしたいところだ。東京はアルビサポを歓迎するかのようなポカポカ陽気になった。出かける準備をしながらNHK-FM(『世界の快適音楽セレクション』ゴンチチ)を聴いてたら、知り合いサポから続々LINEメッセージが入る。みんな開幕戦級にウキウキだ。やっぱり、中断期間つまんなかったよね。

 但し、僕は混み合った東武線に乗って日光へ出かけた。ので、LINEにはいちいち「今日は味スタ行けないんよ」とか言い訳がましい返信をしてた。そりゃね、僕だって味スタがうらやましかったですよ。秋の3連休、観光ハイシーズンの日光へ行くのはちょっと気合いが必要だ。道路もめっちゃ渋滞するしなぁ。まぁ、行けば行ったでアイスホッケーは面白いんだけど、移動の気楽さ気軽さがぜんぜん違います。

 で、味スタからこの日、いちばん熱心にLINEメッセージを寄こした「緊急特派員」が誰だったかというと、驚くなかれ、元『週刊サッカーマガジン』編集長・平澤大輔さんだ。びっくりした。ベースボールマガジン社新潟支社へ単身赴任になったのを機に、僕としては試合に誘ったりサポを紹介したりして、少しずつ少しずつ味方に引き入れてたんだけど、ついに週末、帰京したときもアルビ観戦するようになったか。

 ちょっと時系列に再録しますね。笑うよ。
 「味スタです! 都合により、一般スタンド席ですが」
 「チャンスはアルビのほうが多いですね。小泉が右サイドバック、川口が左サイドバックなのは驚きました」
 「ゴールシーンはとても綺麗でした」
 「レオ!レオ!レオ!」
 「FKぶちこみました」
 「そして追加点!」
 「山本!」
 「後半は危なげなかったですね。東京はメンツはいいんですけどねぇ」
 これさ、世間では実況っていいますよね。アイスバックスと試合時間が重なってるから、僕のほうはろくに返してないんだ。アイスリンクでブルブルッとiPhoneが震える度、もう僕はおかしくてニヤニヤしちゃってた。平澤さん、これは完全にこっち陣営でしょう。

 アイスバックスが先に勝利して、アルビレックスが続けて勝利した。で、色んな業務を終えて常宿のペンションに引き上げ、NHK『サタデースポーツ』を楽しみにしてたら解説の早野宏史さんが「ガンバ大阪というよりガマン大阪でしたね」と言った直後に地震警報が入った。長野県北部が震度6弱、新潟県上越地方が震度5弱、マグニチュードは6.8と推定される由。うわ、大きな地震だ。何人か仲良くなった上越サポの顔が浮かんで、大丈夫かなぁと心配になった。ちなみに栃木県日光市はぜんぜん揺れませんでした。ずっと地震情報を見てて、試合映像にありついたのは日付が変わってフジテレビ『すぽると!』でしたね。

 で、一夜明けて日曜日、またも平澤通信のラッシュが朝イチで始まる。開口一番、地震なんかなかったかのようなさわやかなあいさつだ。時系列で再録しよう。
 「おはようございます。あまりにも気持ちのいい試合だったので、メモを書かずにはいられませんでした。久々の送付となりますが、PCに送りましたので、よろしければご覧ください!」
 「もっと書きたいことはあったのですが、取り急ぎ絞り込んで書きました(笑)」
 
 うわ、すごいぞ平澤さんと思って、「今夜、帰宅して録画見るのが楽しみです」と返信する。やんわり、オレまだ見てないですよと平澤を落ち着かせにかかったのだ。
 「私はMXテレビの録画を見ました。実況も解説も東京側からの目線ですから、逆に新鮮というか」
 「すっかり新潟目線で物事を考える頭になっていることを、またも実感しました!」
 「これまでサッカーの見方は、あくまで公平が基本でした。もちろん、担当チームやお気に入りの選手に肩入れしても、それと同じ熱量で公平さをキープすることが必要でした」
 「でも、いまはそんなの関係ないですからね(笑)。リミッターはとっくに切っています!」
 読者よ、僕らは得難い仲間を持つことができた。仕事を離れてこんなに熱くなってくれる人はなかなかいないと思うよ。

 日曜夜、アイスバックスが連勝し、ご機嫌で帰宅した僕を待っていたのは更にご機嫌なFC東京戦のHDD(ハードディスクドライブ)だった。こりゃ完勝だ。最初こそあっさりやられて(前半7分、得点者・河野広貴)、もう何か味スタ4万入ってるし、ヤバいなぁって感じだったけど、すぐにペースを奪い返した。落ち着いて見えたなぁ。あ、そうそう、サイドバックが川口尚紀と小泉慶だった。どうも松原健は代表に呼ばれたとき、練習でケガしたらしい。で、川口&小泉がかなり安定感あったんだ。これは中断期間、対敵戦術に時間かけたせいかな。みんな自信持ってやってるんだよ。

では、お待ちかね、平澤メモ抜粋。
【「お尻」の勝利】
 会心の勝利でしたね。7分に先制されながら、前半のうちに同点に追いつき、レオのFK、山本のダメ押しで決着。中断期間に重ねてきた崩しの練習の成果が出た、というところでしょうか。
 FC東京サポに囲まれた「メインS上層」のシートに座っていた私が感じていたのは「これはお尻の勝利だ!」ということでした。
 先制されたとき、小林裕紀が思い切り河野広貴に腕で突き飛ばされていましたが(完全にファウルですね)、それ以外はフィジカルで負けたシーンが思い出せないんです。
 新潟が逆転してからは特に、ですが、東京はとにかくまっすぐにゴールに向かってきました。アルビは受け身になるケースが増えます。ところがアルビの選手たちは、東京の選手とボールの間に自分のお尻をクイッと食い込ませ、難なくボールを奪い取ってしまうのです。東京の選手たちがひ弱に見えました。アルビの選手がみんな、レオ・シルバのようでした。
 終盤、何度かゴール前に迫られましたが、アルビの選手たちはそこでもまったく焦らずに、お尻をクイッ。これでボールはアルビのものです。中断期間に疲れを抜いてフレッシュな状態になり、フィジカルをもう一度、組み立て直したのではないか、と思える、充実の「お尻」でした。

【MVPは亜土夢!】
 この人の偉大さを再認識しました。やっぱりレプリカを買うときは背番号10にしよう、と思います。
 アルビの象徴としての豊富な運動量や諦めない気持ちをどの試合でもどの時間帯でも出す姿勢は、もう当たり前。この日は加えて、攻撃センスをこれでもかと発揮しました。
 その最高の形が、まず同点弾のシーン。ボール受けた瞬間に中央の狭いところを縦に割って入るドリブルには、鳥肌が立ちました。確かにそれまでは、サイドからのクロスやショートパスで攻撃を作ったものの、リズムの変化は少なかった。そこへ、電光石火の中央突破! 続けて、DFが3人もいて狭かったスペースを冷静に見つけて右にスルーパス、受けた指宿がていねいに逆サイドへ流しこむというきれいなゴールになりました。
 そして、3点目。亜土夢が中央で受けた瞬間に、ラファエル・シルバがすっと左から右へ流れます。そこへ出してもおそらくゴールになったのではないかと思うぐらい、いい動きだったのですが、このダッシュのおかげでゴールのど真ん中に小さなスペースが生まれます。それを亜土夢は見逃さなかった。優しいスルーパスでした。一度は相手に先に触られますが、走りこんでいた山本がプッシュ! 試合の趨勢はこれで決まりましたね。

【守りのスピードスター】
 センターバックに入った大野は、大井とともにエドゥと武藤を見張りました。特に、同じくスピード自慢の武藤とのマッチアップは見ていて楽しかった!
 以前にこのメモで、左サイドバックに入った大野を褒めちぎった私としては、そのポテンシャルの高さをさらに感じて、勝手に鼻高々。ますます「大野くん推し」になりました(笑)。

 今週は平澤特派員のおかげで充実した内容になりましたね。普段より長くなったけど、読みごたえはバッチリでしょう。個人的には平澤さんにアルビを見てもらえたのは、今シーズンの収穫だな。


附記1、で、11月24日(3連休最終日)、新宿フィオーリに集合した関東サポの面々がめっちゃご機嫌でしたね。おかげでトークイベントも盛り上がりました。勝ち試合って人間をこんなに幸せにするのか。最終的には店内モニターでFC東京戦の録画また見てました。

2、平澤さんは「新潟目線で物事を考える頭」について思うところあるようです。今年、アルウィンに松本山雅の試合を見に行ったとき、(概念上の「東京」を経由せず)クルマで山を越えて「信越」を体感しながら向かったらしいんだが、ぜんぜんJリーグの見え方が変わることに気づいた由。

4、今週29日はメディアシップのPV企画ですね。久々に目黒淳さん(新潟日報社論説編集委員。というより「奇跡の残留」のとき、僕と泣きながらハグした元・運動部長のほうが通りがいいかもしれません)とアルビを語るのが楽しみです。何か知り合いが「落選」したって連絡くれて、そういうケースもあるんだとびっくりしました。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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