【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第241回

2014/12/11
 「逆参戦」

 J1第33節、横浜FM×新潟。
 不思議な体験をした。キツネにつままれたような気分だった。上野から上越新幹線に乗り込んで「?」と思う。違和感がある。最初、違和感の正体が何だかわからなかった。自由席はけっこう混んでいて、旅行客は皆、声を弾ませている。11月最後の土曜日。週が明けて12月に入るといきなり寒波来襲らしいが、この土日は小春日和だ。

 あぁ、そうかと思った。車内にサポーターがいない。顔見知りの関東サポもいなければ相手サポもいない。うーん、こんな新幹線は珍しいなぁ。車内にサッカー感がない。子供の頃、夏休みの登校日、通学路で誰とも会わなくて日にちを間違えたかと不安になったのを思い出した。今日は間違いなく第33節・横浜FM戦だよなぁ。それは間違いないはずだけど、ただ会場がビッグスワンじゃなく日産スタジアムなんだ。
 
 逆向き。たぶん新潟サポは上りの新幹線でこっちへ向かってるところだ。下りに乗ってるのは僕だけじゃないか。こういうのは「逆参戦」といえばいいのか。浅草から横浜なんて京浜急行を使えばすぐなんだけどな。

 僕が一体、何をやってるのかというとこの日は生観戦をあきらめ、新潟日報メディアシップのロビーホールでトークショー&パブリックビューイングなのだった。だから新幹線は逆向き。なかなかすごいことだと思う。首都圏に住んでて、首都圏で試合があるにもかかわらず首都圏を離れ、かつその試合を語る経験(!)。

 「本紙でコラムを連載中のコラムニスト、えのきどいちろうさんのトークショー(新潟日報社主催)が29日、新潟市中央区の新潟日報メディアシップで行われた。えのきどさんはサッカーJ1アルビレックス新潟の今季の戦いぶりを熱く語り、約300人のサポーターと興奮を分かち合った。
 トークショーは、同日の新潟-横浜M戦のパブリックビューイングを盛り上げようと、試合前に行われた。
 えのきどさんは、主力選手が複数抜けた今季前半を『難しい年だと思った』と振り返った。しかし、指宿洋史選手の加入で攻撃パターンが増えたことなどに触れ、『今は点が取れるチーム』と期待を込めた。サポーターはうなずいたり、笑ったりしながら聞き入っていた。
 新潟市西蒲区の調理師宮崎英子さん(62)は『選手の特徴やチームプレーの説明がサッカーの素人でも分かりやすかった。大好きになりました』と満足そうだった」(「えのきどさんトークにサポら興奮」、11月30日付新潟日報・社会面より)

 引用したのは翌日の記事だ。ほらね、新聞に出てるんだから本当の話でしょ。個人的には宮崎英子さんに「大好きになりました」と言っていただけて、ちょっと嬉しい。面識はないですけど、宮崎さん、素敵なコメントありがとうございます。「今は点が取れるチーム」って予想コメントは外れちゃったなぁ。0対1の惜敗。波状攻撃の時間帯に得点できたらもっと派手なスコアになったかな。

 しかし、メディアシップのイベントは想像の何倍も面白かった。最初、司会の水島知子さん、新潟日報社・論説編集委員の目黒淳さんの3人で出ていって雰囲気を盛り上げ、しかるが後にメインの横浜FM戦だ。これがね、かなり臨場感あった。あれはやっぱりひな壇状になってる勝利なんだろうな。試合中、一体感があった。前半、スカパーの実況アナが「レオ・シルバは来年、一体何色のユニホームを着てるのかという興味があります」と言ったとき、いっせいにカチンと来た感じがすんごい良かった。もちろん僕はハーフタイム、マイクを引っ掴んで「ホームはオレンジで、アウェーは白です」と断言し、拍手をもらった。

 後半13分、伊藤翔のゴールはアンラッキーとしか言いようがない。ボールがゴールネットに吸い込まれて、皆、「あぁ~」と悲鳴を上げた。そして、再生VTRでレオ・シルバのクリアボールがプレゼントパスになったのを確認して、もう一度、「あぁ~」だ。レオがやっちゃったならしょうがない。さすがのレオも神様じゃない。ツイてない日だってあるさ。切り替え切り替え! 基本的には新潟ペースの試合じゃんか。

 まぁ、結果を見れば横浜FMの意地ってことだろうね。ひとつは退任される樋口靖洋監督への思い、もうひとつは去年、6万人動員して優勝を逃したのと全く同一カードの「ホーム最終戦」なんだなぁ。試合終盤、中村俊輔が痛みどめを打って出てきた(両足首の状態がよくない由)のも去年のドラマを想起させた。最終節、ピッチに倒れ、泣いていた姿は忘れようがない。名プレーヤーの失意。スポーツの残酷な美しさがそこにあった。

 あれから横浜FMも新潟も色々あった。一年経つのが何と早いことか。そして、たった一年でこんなに感情の振れ幅があるのか。ホントは3年くらい経っていて、3年分の振れ幅ですよと言われても納得しかねないものがある。しかしね、Jリーグの日程作る人はすごいことするなぁ。わざわざ一年後、この試合を組んだんだよ。

 新潟はついにゴールを割ることができず、一年前の敵討ちに逢った。面白い試合だったけどなぁ。試合後、会場の皆さんに「僕らは前だけ向いて行きましょう」と語りかけたのだった。いよいよシーズンの大詰めだ。悔いのない戦いをしよう。勝って終わるのと負けて終わるのはぜんぜん違うよ。


附記1、当日、メディアシップへお越ししただいた皆さん、ありがとうございました。皆でひな壇に座って(いい場面では立ちあがって!)試合を見て、コーナーキックのとき、手拍子打ったりしたのは楽しい思い出です。それから応募いただいたのに落選された方はすいませんでした。来年は「遠方アウェー」の試合で是非、実現したいと思います。ちなみに帰りの新幹線もサポが乗ってなくて変な感じでしたよ~。

2、アギーレさん、大丈夫かなぁ。

3、ホントに急に季節が変りました。ニュース映像で新潟が映るとびゅうびゅう風が吹いて嵐みたいですね。ちなみに最終節、柏戦の土曜日は雪マークが出てます。まぁ、泣いても笑っても今年最後の試合、僕もダウン着込んで駆けつけますよ。田中亜土夢選手は200試合出場になりそうですね。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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