【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第242回

2014/12/18
 「代替開催」

 J1最終節、新潟×柏。
 最後の最後に信じられない展開が待っていた。12月早々、真冬並みの寒波が襲来、列島各地に雪を降らせたのだ。新潟市内も5日から雪になり、試合日の6日朝には32センチの積雪が記録された。知人サポが送って来るビッグスワン周辺の写メを見て、これはカラーボールを使えばどうにかなるレベルじゃないなぁと思う。除雪もピッチだけじゃ済まない。施設内のスタンドやコンコース、階段はもちろん、駐車場や周辺道路も除雪整備したい。ていうか、公共交通は確保できてるのか。施設内の除雪がカンペキでも、肝心のお客さんが来れなきゃしょうがないよ。

 で、僕はどうしたかというと8時池袋発の越後交通バスで新潟へ向かったのだ。十中八九、中止だと思って、それでも乗った。最終節が大雪で中止・順延になったら前代未聞じゃないか。試合がなくてもそこに立ち、出来事を「我がこと」として体感したい。しかし、驚くべき事態だ。先週、メディアシップに行ったときは昼間13℃くらいあって、パーカー着てれば大丈夫だった。たった1週間でこんなに気候が変わるのか。まぁ、新潟市内の感覚では「たったひと晩で」かもわかんないけど。

 関越道に乗る前、練馬の辺りで公式の中止発表が出る。さぁ、それからiPhoneを使って情報収集だ。試合日はいつに設定されるだろう。ひとつのポイントは新潟市の今後の天気。もうひとつは来週火曜日に開催されるJアウォーズとのからみだ。例えば1週間後、13日(土)、天皇杯のウラ開催ということにした場合、チーム成績も個人成績も確定しないまま、アウォーズをやることになる。いや、まぁ、極端な話、指宿洋史が柏戦で30得点して30対0で勝った場合、(圏外から)ぶっちぎりの得点王だ。じゃ、Jアウォーズを延期すればいいようなもんだけど、これは関係者のスケジュール調整が難題になる。少なくとも僕はそんなめんどくさい忘年会の幹事さんやりたくない(忘年会じゃないけど)。

 となると天候次第だが①「明日か明後日、ビッグスワン開催」の可能性が最も高く、つまり僕は新潟へ向かうべきなのだ。が、天候の回復が難しければ②「代替開催」が検討されるだろう。おそらく関東だ。冬型の気圧配置が強まると関東は乾燥した晴天が続く。当てずっぽうだが、第一候補はNACK5かなぁ。大宮ならば新幹線が止まる。柏からも東武線で一本だ。第二候補のグループが埼スタや駒場、熊谷、それから前橋の正田醤油スタジアム。第三グループが(地理的な中間点ではなく)関東全域のどこか。それから大穴が日立柏サッカー場だなぁ。敵地で「ホーム開催」もないもんだけど、日立台は公共の持ち物ではなく、いわば「私物」だ。どこよりも融通がきく。

 関越トンネルを抜けたら本格的な雪景色だったので驚いた。本当に1月2月の光景だ。それが行けども行けどもおんなじ調子なのだ。空が暗い。冬だ冬だ。そのうちに「いったん新潟入りしたレイソルの選手が新幹線で帰った」という情報が入る。ということは②「代替開催」の方向なのか。何となく日立台っぽいなぁという気がしてきた。明日、明後日という直近に迫ったタイミングでJリーグの興行を引き受けてくれる会場があるだろうか。ただ「日立台ホーム開催」は大義名分が立ちにくい。クラブはそこのところをどうアナウンスするだろう。

 万代バスセンターに到着して、とりあえず万代そばのカレーを食べた。それから新潟日報で週明けの連載コラムをどうするか打ち合わせしようかなと思ったら、星龍男・運動部長が出社されてなくて、先にホテルにチェックインすることにした(読みは読みとして、この時点では「明日、ビッグスワン開催」に備える体勢は崩せない)。ホテルの部屋でG大阪の優勝を見届け、夕方から知人サポの飲み会に顔を出す。そこで「埼玉受難の日」(この日、浦和は優勝を逃し、大宮がJ2降格を決めた)について話し込んでる最中、モバアルメールが来て「カシマスタジアムで代替試合」を知る。つまり、一般サポと同じタイミングでええぇぇぇぇ~と叫び声を上げた。

 動きがが確定した。僕は翌日曜日、まっすぐ新横浜スケートセンターへ直行して、第82回全日本アイスホッケー選手権の決勝戦に立ち会う。僕が新潟に来てる間に日光アイスバックスは準決勝を勝ち上がっていた。で、月曜日は午前中に1本コラムを入稿して、カシマへ向かう。J1最終節の「大トリ」だ。しかし、カシマとは思いも寄らぬ試合会場だ。。

 まぁ、この代替開催には色んな意見があるだろう。関東サポだって月曜19時・カシマって仕事休まないと無理でしょう。新潟から向かう場合はそれに加えて、帰りの足の問題がある。クルマで駆けつけるしか方法がないんだね。これはおそらく秋春制をはじめ、様々な議論の際に今後引き合いに出されるケースになる。といって、この時点の僕の関心は現実的なものだ。予定をどう組みどう動いて、異例の「カシマホーム」に対応するか。

 で、話はいったん脱線するけど、翌日、新横浜でアイスバックスはクラブ史上、初タイトルをものにするんだね。全日本選手権はサッカーでいえば天皇杯に相当する。前身の古河電工時代を含めると1962年以来、52大会ぶり5度めだから、半世紀以上空いている。もうね、古手のファンが俺と抱き合って男泣きですよ。さっそく地元紙の下野新聞が「バックス日本一!」って電子版号外を出した。僕は(NHK-BS1の録画中継はフォローしてたけど)見に行けてラッキーだったね。タイトルってこんなにしびれるものなんだ。早く新潟サポにも味わってもらいたい。

 月曜日、昼前には動き出して東京駅からカシマスタジアム行きの高速バスに乗る。現地のプレスルームを使わせてもらって、キックオフ時刻まで原稿を書くことにした。高速バス移動中、iPhoneで今朝書いた新聞コラムの校正作業。チームは昨日、鹿嶋市入りして、アントラーズのクラブハウスや練習場を利用した由。この場をお借りして鹿島アントラーズ、茨城県営カシマサッカースタジアム等々、関係各位にお礼が言いたい。

 そりゃね、元々、無理スジなんだよね。当日、観客数は2千人強だったけど、よく2千人も集まったと思うよ。記録上は「J1最少観客記録」更新スレスレだったらしい。でも、ちゃんとJ公式戦の体裁は整えたからね。これはスタッフ頑張ったでしょう。

 僕は「ホーム」ってものの意味を考えた。カシマスタジアムはJの地域密着の理念からいってどう転んでも「ホーム」ではない。中越地震時の国立代替開催(2004年11月10日、J1セカンドステージ第11節・柏戦)と同じく緊急措置でしかない。が、ここにアルビレックス新潟の意地がある。ちっきしょう、どこへだって行って「ホーム」を成り立たせてやるとクルマに乗り込んだサポの魂がある。無理スジは百も承知で実現に奔走し、また尽力してくれたサッカー人の絆がある。

 こんなのはガラガラだ、こんなのはホームじゃないと言うのはカンタンだ。そりゃそうだよ。だけど、僕はすげぇなぁと思った。「奇跡の最終戦」だよ。Jリーグの運営力は世界ナンバーワンじゃないか。一体、どこの国にたった一日半でスタジアムイベントをセットできるリーグがある? 

 試合は前半は新潟が支配し、後半になって押し返された。こちらは決定機を決めきれず、柏は着実に2得点をマークした。ロスタイム、鈴木大輔が2点めのゴールを決めると、柏ベンチに(退任されるネルシーニョさんを中心に)歓喜の輪ができる。順位上、得失点差で「2点差勝ち」が必要だったのだ。柏は4位浮上、ACL出場権にリーチ(天皇杯決勝でG大阪が勝った場合、出場権を得られる)をかけた。

 新潟は連敗で全日程を終了した。目の前にACLに届こうかというチームがいる。今季、新潟もそれを目標に掲げたけれど安定した成績が残せなかった。ひと言でいって、この試合も得点力に差があった。この差を埋めなければ目標には遠い。だけど、何故かやり切った感はあったなぁ。はるか彼方の「ホーム」で、この上なく難しいシーズンを終えた。


附記1、カシマスタジアムへ来られた方も来られなかった方もおつかれ様でした。本当に今年は意外なことの連続でしたね。Jリーグ全体も「無観客試合」をはじめ大事件が多かった印象です。

2、田中亜土夢選手、200試合出場おめでとうございます。この試合、亜土夢が決めていればってシーンがあったんですけど、エリア内で倒れず、ゴールへ向かうことを選択した闘争心を評価したいですね。

3、今シーズンの散歩道はこれで終わりです。ご愛読ありがとうございました。大晦日、新潟では「アルビ特番」(BSNテレビ)、東京では「笑う本棚大賞」(TBSラジオ)に出演する予定です。よかったら是非! それでは皆さん、メリークリスマス!


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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