【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第243回

2015/3/19
 「黒星スタート」

 J1開幕節(第1ステージ)、鳥栖×新潟。
 原稿に「第1ステージ」と書くのは『週刊サッカーマガジン』の連載以来だ。調べたら11シーズンぶりのことらしい。23年目のJリーグは収益やステイタス向上を目指して、久し振りにJ1の2ステージ制実施に踏み切った。まずは「第1ステージ」の全17節だ。開幕
ダッシュが重要なのは言うまでもない。

 僕は久留米に前泊して開幕を迎えた。実は中学生くらいの頃、久留米(鳥栖からJR鹿児島線で2駅!)に住んでいたことがあり、筑後平野には土地勘がある。鳥栖には当時、県境を越えて自転車で出かけたものだった。だから後年「鳥栖フューチャーズ」(サガン鳥栖の実質的な前身)の存在を知ったときはすごく懐かしかったのだ。

 JR久留米駅前の来福軒で腹ごしらえ(久留米ラーメンと焼きめし)してたら、アルビサポがひとりやって来てカウンターに座る。と、周囲で「新潟…」と声が上がった。気づかなかったが店内にけっこう鳥栖サポがいたのだ。これはなるほどなぁと感心した。以前なら福岡県久留米市のサッカーファンは(同じ筑後地方とはいえ)佐賀県鳥栖市のチームにコミットしにくかったろう。それが今は変化してきたようだ。

 今やサガン鳥栖はJ1の上位チームだ。森下仁志・新監督はハードワークのチームスタイルを引き継ぐと明言している。このオフは日本代表の豊田陽平、韓国代表キム・ミヌに移籍の噂があったが、結局、戦力流出は安田理大だけに留められた。そりゃ久留米からも見に行きますよ。またベアスタが交通アクセスも見やすさも、日本トップ級のスタジアムと来てる。

 新潟のスタメンが発表になってびっくり仰天した。思ってたのとぜんぜん違う。田中達也とラファエル・シルバの2トップはそれでも納得だが(ちなみに僕の予想は指宿洋史とラファエル)右サイドがすごかった。サイドハーフに大卒ルーキー・平松宗、サイドバックに2年目の小泉慶(同じく僕の予想は成岡翔と松原健)。柳下正明監督、開幕早々、大胆起用のサプライズを仕掛けてきた。これは「奇策」という表現でいいのか、それともヤンツーさん一流の「闘魂注入」(例えば2012年シーズン途中、新監督に就任するや、清水戦・前半26分でキム・ジンス電撃交代→初勝利)か。

 曇天&強風の試合。新潟は前半、風下に立つ。試合の入りはなかなか良かった。目を引いたのはレオ・シルバ、コルテース、ラファエルの3人がわかり合って動いてたこと。新潟のお家芸っぽいストロングポイント「ブラジル人トリオ」の復活を思わせた。特にラファが素晴らしかった。前半13分、DFのウラへ抜けてあっさり先制ゴール! 理想的な形だった。今年のラファはかなり働いてくれそうだ。

 そうしたら直後、(同じくラファのシュートで)ゴールポストを叩くシーンがあり、あれが入ってたらどうだったかなぁと思うのだった。鳥栖戦はリーグ戦4連勝中と相性が良く、先制してペースを握ってしまうのが勝ちパターンだった。ポンポンと2点奪えばあとは守りを固めてカウンター狙いでいい。

 試合の流れが変わったのは前半22分、舞行龍の負傷交代からだ。ピッチに座り込んで、手でバッテンを出したときは衝撃を受けた。ピッチを離れた舞行龍にも、代わりに入った当の大野和成にも不運だったのは同27分、エリア内でファウルをとられたことだ。ロングボールの折り返しに豊田が飛び込んできて、大野が倒してしまった。豊田が落ち着いてPKを決めて同点。エースの同点ゴールにベアスタの雰囲気が一気に盛り上がる。

 ガラッと鳥栖ペースの試合になった。ロングボール主体。豊田ありきの戦術だ。試合後、ヤンツーさんがコメントしたように芝が長めに刈られて、つまりパススピードが出ない、ボールが回しにくい(鳥栖側から考えるとボールを奪いやすい)ピッチだったことも大きい。

 ハーフタイム明け、記者席に両監督のコメントシートが届いて、1行目が同じセンテンスなので笑ってしまった。森下さんが「セカンドボールで負けないこと」、ヤンツーさんが「正しいポジションを取って、セカンドボールを拾おう」。スコアは1対1。泥臭くセカンドを拾ったほうが勝ちだ。闘志むき出しでやり合ってもらおう。後半は風上だし、ロッカーで気合い入れられてるだろう。

 けどね、気持ちの面はともかく、サッカー的には後半、尻すぼみだったな。鳥栖の寄せが早くてミス連発。余裕のないサッカーだった。後半5分、池田圭に逆転ゴールを奪われ、追いかける展開のはずがこう、何だかそういう風に見えないのだ。何だろうな、元気がなかった。あれはヤンツーさんの言う「鳥栖がやりたいことをやらせてしまった」ということなのか。

 もちろん開幕戦1試合だけで何も判断できないけれど、僕はちょっとショックだった。この試合はわかっててやられた感が強い。何もできなかったもんなぁ。これは鳥栖が相手じゃなかったら違っただろうか。いや、日程が発表になったときは、分のいい鳥栖アウェーからスタートで喜んだもんな。まさに捕らぬ狸の皮算用ってやつだ。当たり前だけど色々思ってたのと違うね。それが実戦のリアリティーかな。


附記1、まぁ、思い通りに物事が運べば誰も苦労しませんよね。次節、ホーム開幕に期待しましょう。ポジティブに考えればあれだけ内容が悪くても、セットプレーでしか失点してない。こっちの持ち味が出せればチャンスあります。あと心配だった舞行龍選手の右ヒザですが、どうやら軽傷で済みそうですね。

2、平松選手のデビュー戦に立ち会ったわけですけど、チーム全体的に悪かったから評価が難しいですね。まぁ、しかし、平松を狙ってフィードって光景が新鮮でした。開幕戦の独特のムードのなかピッチに立てたことは一生の財産でしょう。でっかく育ってほしいですね。

3、U-22代表の親善試合・ミャンマー戦は鈴木武蔵選手が大活躍でしたね。特に松原健→武蔵のゴールにしびれました。

4、しかし、今週の新潟が何と雪ですねぇ。チーム練習に支障ないのかな。土曜日は万全の寒さ対策でビッグスワンに向かおうと思います。こないだ太宰府天満宮の梅を楽しんだばかりなんですけどねぇ。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動がさめる前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!

photo



ユニフォームパートナー