【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第244回

2015/3/26
 「始まった」

 J1第2節(第1ステージ)、新潟×清水。
 選手入場の際、ゴール裏が掲示した「La FAMILIA」のコレオグラフィー(人文字)に胸が熱くなる。家族。俺たちは家族だと言っている。去年、大雪のため中止→カシマ代替開催となった最終節の悔しさを思い返す。実は今週も試合前日まで新潟は雪だった。チームは思うように練習が組めなかった。が、ホームはここにある。二度と動かしたくない。

 寒空の下、2万人弱の観客がホームに集った。時間かけてこれを倍に増やそう。思えば「家族=ホームの再生」は新潟のサッカーファミリー全員が共有しているテーマだ。とはいえ、スタンドを埋めたどの顔も晴れやかで嬉しそうだったなぁ。すごいことだと思うのだ。2万近い人がこの日が来るのを待ってた。僕はその顔が見たくて試合前、スタジアム通路を歩き回った。サッカーが始まる。皆、顔が輝いている。
 
 カードはオレンジダービー。清水応援席のサンバ隊もめっちゃテンション高い。昨シーズン7月から指揮をとり、チームをJ1残留へと導いた大榎克己監督は、真価を問われる2年めを迎える。レンタルバック中心に選手層がずいぶん若返った。開幕戦は鹿島を3対1で破り、手応えをつかんだと見ていいだろう。ちなみにビッグスワンを大の苦手にしている。09年に勝利して以来、現在5連敗中だそうだ。

 新潟は舞行龍(右ヒザ内側側副じん帯損傷)の代わりに大野和成が入ったほかは開幕戦と同じスタメン。柳下正明監督は一度決めたらブレない。まぁ、U-22代表とのからみで鈴木武蔵や松原健が使いにくい(いたりいなかったりする)タイミングということも関係するのかもしれない。2トップは田中達也とラファエル・シルバ。右サイドは平松宗と小泉慶。僕は平松起用を見てるとヤンツーさんが就任最初の年、武蔵について言ってたことを思い出す。鉄は熱いうちに打て。ルーキーの今、実際にやらせて吸収させることの大切さ。武蔵はあのとき、ケガで遠回りしてしまったんだった。

 サイドの攻防かなぁと考えながらキックオフを迎える。開幕戦の清水はサイドを生かしたショートカウンターで得点していた。コルテースと小泉が勇気を出してどのくらい攻め上がるか。たぶん新潟がボールを持って、清水がカウンターを狙う展開になるだろう。

 その通りになった。短いパスをつないでビルドアップする気持ちよさ。但し、最後が合わない。ラストパスが無人のスペースへ行ったり、あるいはタイミングがズレたり。まぁ、結局スコアレスドローだからこの日は合わないままだったんだけど、どうだろう、僕にはけっこう時間がかかりそうに見えた。「最後の精度が…」というのは監督会見で去年繰り返されてきたフレーズだ。もちろんその課題を克服すべく練習を積んできたのだが、あらためて一朝一夕にはいかないものなんだなぁと思う。

 ビルドアップの部分はレオ・シルバが要(かなめ)になって、非常にスムーズになった。プレスが来てもあわてない。うまくかわしてショートパスをつないでいく。ボールホルダーとフォローの選手の距離感もいい。カンタンには失わなくなった。僕はセンターサークル付近で組み立ててくときのレオの表情が大好きだ。ピクニックに来たみたいな間というか遊びがある。ブラジルのリズムだとそこからいきなりスピードアップして攻め込むイメージだ。新潟は敵陣に入っても「頑張る→頑張る」のリズムかなぁ。

 「ピクニック→スピードアップ」のギアチェンジ感覚を共有してるせいか、合ってるなと思うのはブラジル人トリオが関与したプレーだ。前半、コルテースのクロスにラファがワンテンポ遅らせ後ろで合わせるシュートがあった。あんなの決まっていても不思議はない。

 でも、そういう例外を別とすればほとんどは最後の最後ごめんなさーいだ。寄せがきびしくないときでも余裕がないねぇ。まぁ、こういうのはCKのサインプレーなんかと違って、パターンをつくってもその通りにはならないものだと思う。「ウラへ抜ける」とか「ニアで合わす」とか、大体のイメージはあっても実戦では常に応用問題だ。時間をかけて合わせていくしかないのだろう。

 感心したのは交代で入った山崎亮平だ。ものすごいアグレッシブで新潟向きの選手。今まで新潟にいなかったのが不思議なくらいだ。間違いなく人気が出ますよ。たぶんホーム開幕戦でファン、サポーターのハートをつかんだと思う。ギュンギュン(山崎の愛称)が決めて勝ってたら爆発的に盛り上がったんだけどなぁ。

 結果は0対0。まぁ、無失点で終われたことは良かったとも言える。しかし、点取れそうな感じもなかった。開幕前は日程表を眺めて「アウェー鳥栖→ホーム清水って最高の入りでしょ。もう開幕ダッシュして下さいって言ってるも同然」なんてニヤニヤしてたものだが、まさかこの相性のいい2試合で勝ち点1しか得られないとは。

 まぁ、感想はね、ホームを埋めた「家族」の皆と同じものじゃないかと思うよ。始まったなぁ。得点自体の少ないサッカーは(例えばバスケットボールと比べて)もやもやしてる時間の長い競技だ。だからこそゴールの喜びもひとしおなのだが、平均的にはもやもやしてるんじゃないか。このもやもやはサッカーだなぁと思ったよ。始まった。次は絶対勝とうぜ!


附記1、コルテースが客席をアオッてましたね。つまり、彼は盛り上がれば盛り上がるほど乗ってくタイプなんだと思います。ってことは新潟向きです。

2、僕はこの日トンボ返りして、翌日、BJリーグ・横浜×新潟(横浜国際プール)を観戦しました。23番・佐藤公威選手が気に入ったなぁ。

3、ナビスコ・FC東京戦は早々と先制したものの逆転負けを喫しました。試合内容は僕には公式戦3試合でいちばん良く見えた。やっぱり成岡翔がボランチに入ると落ち着きますね。あと山崎ら先発の機会をもらった選手が90分はもたなかった。早く初勝利が見たいですね。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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