【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第245回

2015/4/2
 「今季初勝利」

 J1第3節(第1ステージ)、新潟×柏。
 前半終了の時点ではやっぱり今週もこの感じかと歯ぎしりしていた。チャンスは作ってる。前半もラファエル・シルバや山本康裕に決定機があった。が、決めきれない。僕は後出しジャンケンみたいな原稿が嫌いだから正直に書くけど、まずいと思った。下手したら「内容は悪くない」なんて言ってるうちにトンネルに入る。結果が欲しい。結果が伴わないとうまく行くものも行かなくなる。

 ビッグスワンは春の陽気だった。僕は上層階の記者席で元『週刊サッカーマガジン』編集長、平澤大輔さんと並んで見ていた。平澤さんはラファエルが去年とはぜんぜん違うと驚いていた。まさに10番、万能型だ。「次のオフ、サポーターはレオ・シルバに加えてラファエルの引き抜きを心配することになりそうですね」。それは半分嬉しく、半分困るような予言だ。それほどいい選手ってだけならいいんだけど。とはいえ実際には、まだ結果が出せてない。スコアは0対0、春の陽気のスタジアムは満員にはほど遠い(18193人)。

 ちょっと脱線。読者は他サポに「新潟はホントにいい外国人見つけてくる」的なことを言われた経験ありますよね。あれってどうしてます? 「新潟のスカウト網、まじスゲェ!」みたいなやつ。まぁ、現に実績としてスゲェのは確かなんですけど。何かこう褒めてもらっても自分は何もやってないし、何やってるかも詳しく知らないし、「いやぁ…」なんて言って頭かくしかない感じになりませんか。あれは自分が褒められてるんじゃないんですけど、くすぐったいですね。うまい返しが思いつかない。脱線終わり。

 つまり、ハーフタイムの時点で僕はその後、3点取れるなんて1ミリも考えてなかったわけだ。むしろ、柏のサッカーについて平澤さんにレクチャーを受け、感心していた。吉田達磨・新監督の可変式システム(状況に応じ、4バックが3バックになったりする)は面白かった。既にACLも戦って公式戦6試合負けなし、チームの呼吸ができている。工藤壮人、クリスティアーノの前線に危険な匂いがぷんぷんした。

 後半5分、先に失点した。武富孝介がエリア内でドリブルで粘り、どフリーのクリスティアーノに渡した。そりゃもう、クリスティアーノが難なく決めたが、その後ろにもレイソルは1枚余ってた。

 が、それで試合が動き出したんだと思う。後半10分、ラファがもらったPKをレオ・シルバが決めて同点。さらに同14分、中盤の混み合ったところでラファが奪って、浮き球で山本康裕を使う。あの混み合ったところからよく見えていたもんだ。コースケは敵DFのウラへ抜け、殊勲の逆転弾!

 再び脱線。この試合、コースケのスプリントは特筆ものだった。結果に結びついたのはこの逆転ゴールひとつだったが、何度も何度も動き直し、素晴らしいスプリントを繰り返していた。コースケが動き出してるのに皆、もっと気がついてくれたらなぁ。そこで提案。ピッチ上の選手も、スタンドのサポーターも、もっとコースケを見るべし。コースケを使えば点取れると思う。あとスタジアム観戦の醍醐味は、コースケのスプリントみたいなプレーが見られるところだ。TVはどうしてもボールホルダー中心になるでしょ。あんなにスプリントを繰り返してるってTVじゃわからない。注目して、視界の端で意識してください。で、不発に終わったらスタンドから「今、コースケ行ってたじゃん」って空気を出してください。脱線終わり。

 3点目は小泉慶のスルーパスから、ラファがDFウラへ抜けてねじ込む。ラファは全得点に関与する大活躍だった。ただ4点目を奪って、もっと楽に勝ってもいい試合じゃなかったろうか。後半26分、1点差まで詰め寄られ(得点者・輪湖直樹)、うわ、残りまだ20分くらいあるよ~、とハラハラしたものだ。同36分、茨田陽生が2枚目のイエローで退場してくれたのが本当にラッキーだった。数的優位を得て、そこから試合終了まではだいぶ安心して見ていられた。

 試合後の会見で柳下正明監督は「(内容はこれまでも良かった)今日は3点取れたから勝てた」という言い方をした。そして失点については「(2失点目は不要としても)サッカーはどんな試合でも1失点くらいはするものだと考えてる」と語った。非常に明快ではないか。ヤンツーさんのサッカーとは主導権を握り、多少、失点してもより多く得点するスタイルなのだ。つまり、バロメーターは得点である。

 この試合は選手の持ち味が出て、チームとしてこれからもっと良くなる期待を抱かせる、実にポジティブなものだった。やってるサッカーは絶対、去年より面白い。例えばね、エンドライン付近まで持ち込んでマイナスの折り返しをして、そこへ人が飛び込んでくるみたいな形を何度も見たね。最初のPKもそれでもらったようなもんだ。すごく可能性を感じるね。

 まぁ、チームっていうのは実戦を重ねるなかで作りあげていくものだと思う。今週末、広島とやってどうなるだろう。柏は吉田監督のポリシーもあって、1点先制した後もDFラインを下げないサッカーをした。新潟としてはおかげで「ウラへ抜ける」得点を重ねることができたともいえる。ナビスコ広島戦は試合間隔が空くからスタメンがどうなるか読めないけれど、メンバーがどうなろうと「実戦を重ねるなかで作りあげていく」は最重要だ。一戦ごとに形になっている。続けていこうよ。


附記1、週明け、平澤メモが届きました。全体は長いので、いちばんワクワクした項目をひとつご再録します。タイトルは「ラファ、覚醒!!!」。
 
「お見事でした。運動量、スピード、スペースを見つける目とスペースを有効活用する選手、キープ力とパスセンス、ゴールへの推進力と迫力、などなど、ついに覚醒したなと思わせる活躍でした。サッカーマガジン的に採点するとしたら、少なくとも8はつけちゃいますね(10点満点で6が平均)。いや、もっと高くてもいいかな。最初から最後まで、チャンスのほとんどに絡んでいますから、相手にとっては本当に嫌だったと思います。
 個人的に『すげえ』と思ったのは、実はそうした攻撃面ではなく、守備に割くパワーでした。昨年見させていただいた時から、攻撃のセンスというかリズムには感銘を受けていました。なかなかフィットしなかったということで、その本領までは見ることはできなかったので、『おあずけ』を食っていたようなものですから、その分、今季一番楽しみにしていた選手です。ですから、この覚醒ぶりに驚くというよりも、おお、やっときたかい、という感じです。
 逆に守備意識の高さとそこにかけるパワーには驚かされました。攻めから守りに切り替わる瞬間にどれだけ早く反応してもう一度マイボールにできるかがチーム力を図る大きなポイントとなりますが、その権化ともいうべき亜土夢はもういない(いない、という事実は、スタジアムで試合を見てやっと実感できました)。となると、今季その役目は誰が果たすのだろうと思っていたら、ラファでした。
 そこが『まさか』でした。その役割はプレースタイルからして田中達也かスタミナ満点の山本か新加入の山崎あたりが担うのだろうと勝手に予想していたのですが、ラファだとは! もちろん、全員がこの役割を果たせればさらに堅固なチームに仕上がっていくのでしょうが、『切り替え隊長』とも言うべきリーダーにラファが就任したという事実は、今季のチームにとって非常に大きいと思うのです。
 攻めだけの人でもなく守りだけの人でもない。ラファ、化けますね、きっと!」

2、あの寒かった(しかも新潟酒の陣とカチ合った)ホーム開幕戦より観客数が少なかったのがショックでしたね。相手のレイソルだって工藤を始め、華のあるメンバーが揃ってたのになぁ。新潟市内は夕方になって小雨がパラついたでしょ。試合中は陽気が続いて、試合終わって天気が崩れるのってめっちゃツイてますよ。初勝利を天が祝福してくれちゃったみたいな感じです。それだけにもっとお客さん入って欲しかった。

3、コースケのゴールの後、(2日前に長男が生まれた田中達也のために)ゆりかごダンスができて良かったですね。しかも、GK守田以外の全員参加。笑ったのは試合後、マイクを向けられたコースケが「達也さんが自分からやろうって言って…」と内幕を語ったところでした。アルビはいいチームですね。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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