【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第246回

2015/4/9
 「青アルビ初陣!」

 ナビスコ杯1次リーグ第2節、新潟×広島(A組)。
 新潟駅に着いたらすっかり春だ。いきなり駅南の食堂「いちばん」の日替わりランチでおなかいっぱいになったせいもあって、この日はビッグスワンまで歩くことにした。弁天橋を越え、鳥屋野潟沿いに右に折れ、開志学園を通り過ぎ、スポーツ公園をずんずん行く。最高に気持ちいい。春風に乗って自転車のサポが追い越して行く。
 
 週末開催のナビスコ戦。第1節がアウェーのFC東京戦(味スタ)だったから、ホームのこの試合が今季、クラブ初採用となった「カップ戦ユニホーム」のお披露目である。これがなかなか評判がいい。デザイン的にはブルーツートンのボーダー柄。スタジアム付近まで来たら、ちょいちょいレプリカ着てる人を見かける。みんな動きが早いね。Eゲート前広場の売店では関連グッズも発売されていた。

 柳下正明監督はリーグ戦のスタメンそのままで来た。やっぱりねぇ。試合間隔が空くし、バックアップを試すより同じ顔ぶれで熟成をはかるほうを優先したようだ。僕も今のチームが広島相手にどれくらいやれるか興味津々だった。広島は青山敏弘、水本裕貴、浅野拓磨、野津田岳人ら代表&U-22代表組が不在だ。佐々木翔、茶島雄介、柏好文がスタメンに名を連ねている。

 スタジアムの雰囲気がすごく良かった。サッカー日和、好カード。欲を言えばもっとお客さんに入って欲しいが、ホントに好きな人が集まってるんだなぁという一体感がある。キックオフ前、円陣が解けブルーツートンの選手らが散らばる。ちなみにパンツはオレンジ、ソックスは紺だ。外国のチームみたいだね。で、試合になるとそのブルーツートンが圧倒的にポゼッションを握る。広島は引いて守るからほとんどの時間、敵陣で試合してるような感じだ。ボールを回し、スキをうかがう。崩せるのか。こじ開けて得点が奪えるのか。

 たぶん新潟ゴール裏からは「遠くでサッカーやってる」イメージだったと思う。ピッチ半分しか使ってないんだけど、その半分が遠いほうの半分だ。僕はこの日、メインスタンドのアウェー寄りで観戦して、おかげで広島サポの千葉和彦チャントが「♪チバ・チバ・チバカズヒコ(くりかえし)」と『ヒルナンデス』そっくりなことを発見したんだけど、臨場感は満点でしたね。間近でスリリングな攻防を堪能した。味をしめて後半はホーム側へ移動したくらいです。こういう試合展開は予想してたけど、予想以上だった。新潟がゲームを支配し、決定機を積み重ねる。

 が、これは広島のペースじゃないかなと思う。広島は森保一監督になって守備を磨き上げた。基本は引いて守り、前を空ける感覚だ。前を空けるのはカウンターのスペース。守備はプレスをかけず、わりと放っておく。5バックの前に中盤の選手を4人並べ、網を張る。攻める側はどこに行っても人がいる感じで、なかなか入れない。スペースがないのだ。動いてギャップを作ろうとしても、距離感をキープされて形崩れしない。

 で、広島最大の特徴はDFラインからつなごうとするところだ。同じ堅守でもセーフティファーストでクリアする考え方もあれば、広島のようにクリアせず、奪ったらなるべくつなごうとする考え方もある。組み立てやフィード優先の広島方式は早い話、後ろの選手のスキルや練度に拠るところが大きい。だもんでハーフタイム、知人と顔を合わせ最初に出た台詞が「広島慣れてるね~」だった。

 広島慣れてる。もう、場慣れとかケンカ慣れみたいなものに近い。あわてないんだね。押し込まれても最後の最後、水際で何とかする。で、奪ったらつなごうとする。見ていてこれが慣れの問題だとするなら(代表組の)青山、水本がいない状況で何か変わるかなとも思った。選手のスキルや練度に拠るということは、逆に不慣れやうっかりで手痛い目にだって遭ってきたはずだ。うちは広島をこじ開けたら自信になるだろう。フィニッシュの精度だって結局は場慣れ、ケンカ慣れの類だ。やり続けて自信をつけていくしかない。

 しかし、後半もゴールは割れなかった。シュート数は倍(12本)だ。両サイドバックも守備の負担がないからじゃんじゃん上がれた。勝てる試合だったし、1次リーグ突破のためには勝たなきゃいけない試合だった。それでも終わってみればスコアレスドローだ。

 これは「新潟が支配した」とするか「広島ペース」とするか、本当に難しい試合だと思う。どっちに取っても間違いじゃない。ちなみに翌日の新潟日報スポーツ面は「新潟 悔しいドロー」「運動量、積極攻撃で圧倒」とポジティブな解釈だ。実際、チャンスは新潟のほうが多かった(クロスバーやポスト直撃!)んだから、勝ち点3を逃がした「悔しいドロー」ではある。

 一方、僕の「広島ペース」案に賛成してくれたのは、試合後、飲み会で合流した元『サッカーマガジン』編集長・平澤大輔さん、元『ストライカー』編集長・井上和男さんのお二人だった。僕は旧「サッカー三誌」の二つの編集長が新潟在住ってすごいことだと思うのだが、終了後、フツーにそのメンバーでアルビ目線の居酒屋トークができちゃってる事実にちょっと感動した。

 平澤さんは「田中達也のポジショニングが絶妙でした。で、(バックと中盤の)2ラインの間をフラフラ漂う達也を見つけたら、フツーならボールが入ったところでつぶしに行きます。でも、行かない。ボールを触らせておくわけです。そして、動じない。最終ラインに5人もいるとお互いの距離が近く、単独で破ろうと狙ってきた相手は少なくとも2人で対応可能です。だからあわててつぶしにいかず、放っておいても網の目に入ってきてくれる、それを待っているだけです。定置網ディフェンス!」。井上さんは「新潟はボールを持たされてました。余裕を持って対応されてましたね。広島の守りは今、Jでいちばんでしょう」。

 スコアレスドローだから、ゴールシーンのないつまらない試合だったかというとそんなことはない。居酒屋談義はすんごい盛り上がった。まぁ、両チームが噛みあって、スイングする名勝負もあれば、お互い頑固で一歩も譲らない、平行線みたいな名勝負もあるって話だ。ただどこかスパーリングっぽい感触ではあった。このカードはリーグ戦2試合がまるまる残ってる。


附記1、しかし、面白いもので「さっかりん」で広島サポのブログを読むと案外、否定的な解釈だったりするんですよね。「最後まで集中を切らさず粘れたけれど、逆に言うとそれだけ」みたいな書き方だったり。だからこういうのはどっちサイドにも一定数、「期待値が高いあまり、採点が辛いサポ」を生むのかもしれませんね。

2、試合後の居酒屋には平澤大輔さん、井上和男さんのほか、新潟日報の目黒淳さん&星達雄さんの新旧・運動部長、それから取材を終えた大中祐二さんが一同に会しました。話を聞きながら、これメディアシップでやったら人が集まるのにと思いましたよ。

3、代表&U-22代表はいい感じでしたね。ハリルホジッチ監督面白い! あと川又堅碁が活躍して嬉しかった。マレーシア集中開催のリオ五輪予選は鈴木武蔵、松原健が頑張ってました。日程的にも暑さの面でも過酷でしたね。ベトナム代表監督が三浦俊也さんだったのもよかった。ベトナム戦がダントツで見応えありました。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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