【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第247回

2015/4/16
 「花冷え」

 J1第4節(第1ステージ)、川崎×新潟。
 花冷えというのだろう。首都圏は桜が満開の時期だったが、天気予報によるとキックオフの頃は気温10℃ちょっとらしい。それは2時間外にいたらけっこう寒いぞと思ってベンチコートを持参した。風が出たら体感気温はひとケタになる。地下鉄はスプリングコートの人ばっかりで、重装備がちょっと気恥ずかしかった(車内は暑くてベンチコートは網棚に上げていた)けれど、試合中は持ってきてよかったとしみじみ思った。

 メインスタンドの新装成った等々力競技場。僕はプレシーズンマッチで来てないから立派になっててびっくりだ。川崎フロンターレの選手が「カンプ・ノウっぽい」とコメントしている記事を見たが、これはピッチから見上げて気分がアガるだろう(もっとも記者席は当のメインスタンドにあり、こちら側からは景色に変化がない)。花冷えも選手らには最適のコンディションじゃないか。好ゲームを期待しよう。

 川崎と新潟は00年代にJ1昇格を果たした「ほぼ同級生」の間柄なのだが、面白い相性をしていて、等々力では川崎が強く、ビッグスワンでは新潟が強い。まぁ、逆になってるよりはずっとマシだが、それにしても内弁慶すぎる。果たしてこの試合でもジンクスは生きてるのか。ちなみに川崎は今季ホーム未勝利だ。まさか新装・等々力ではジンクスもいったん御破算になってたりして、などと今思えば甘いことを考えていた。

 試合の入りは素晴らしかった。新潟はCBに舞行龍が復帰、大野和成とコンビを組む。また川口尚紀が右SBでスタメン出場、やる気がみなぎっていた。序盤は新潟がプレスに行き、川崎のリズムを殺していた。リーグ1のボール奪取率はダテじゃない。奪ってショートカウンターの形を何度も作る。決定機にはなかなか至らないが積極性は買いだ。

 が、ひとつのミスから流れが変わる。前半22分、舞行龍のクリアボールが川崎・杉本健勇(移籍後、初スタメン)の顔に当たり、そのままかっさらわれ、手痛い失点を喫する。復帰戦の舞行龍にとってはアンラッキーだった。あれは足元のある舞行龍ならではの出来事で(単純にサイドラインに蹴り出すDFだったら起こり得ない)、チャンスを演出するナイスフィードと表裏一体でもある。ともあれあれだけプレスに行ってた新潟が先手を取れず、逆にプレスを受けて失点した。

 そうしたら見る見る新潟が元気をなくした。見た目は攻めがもたついた感じになる。あれは「ミスの後、怖がってしまった」(柳下正明監督・会見コメントより)のかなぁ。川崎がやけに自信たっぷりに見えだし、時間が進むにつれ、それがゆるぎないものに変わっていった。僕は不思議だと思ったなぁ。五分と五分で渡り合っていたものが急に違って見える。いや、勢いで勝(まさ)ってたくらいのものが姿を変えてしまう。で、最終的には一体、何で俺はさっきまで勝てそうだなんて思ってたんだろうと首をひねるところに行き着く。

 後半13分、レナトが4人抜きのドリブル突破から圧巻のゴールを決めてくる。開いた口がふさがらない。凄まじかった。止まった状態からトップスピードに乗るまでの加速ギアの変化! あれは敵ながら今、Jリーグで見られる最高級の超絶ゴールだ。むしろすごいの見ちゃったなぁと感心していた。

 だから本当のところは「新潟が元気をなくした」以上に見てるほうが元気なかったかも知れないんだ。同26分、森谷賢太郎(初スタメン)からのスルーパスに抜け出した大久保嘉人のファインゴールを見せられたときはため息が出た。同38分、ラファエルがカウンターで斬り込み、一矢報いてるからチームは少なくとも戦意喪失してない。が、同42分、またも大久保にやられた。今度はもうため息も出ない。4対1の大敗だ。身も心も凍るような花冷えの一夜。

 川崎は強い勝ち方をした。3トップが全員得点し、初スタメンが仕事をして文句ないだろう。日本代表・ハリルホジッチ監督が視察に訪れていて、メディアも「大久保猛アピール」と見出しが作りやすい。まぁ、こっちは負けのショックでついタレントが違う、チームの完成度が違うと泣き言を並べたくなる。そりゃね、大久保やレナトや中村憲剛がいれば強力だと思いますよ。だけど、そんなこと思うんだったら川崎フロンターレ応援したほうが早いからなぁ。

 タレントの差、完成度の差でかたづけてたらそこで思考停止だ。僕は敵方から出たコメントに注目する。「点差ほど差がなかった試合」(川崎・風間八宏監督)が、いつの間にか「あんなに空く場所がたくさん出てくるんだったら、そこにボールを入れてひっくり返せばいい…オセロみたいな感じだった」(同・中村憲剛)と完全に見切られている。

 収穫は川口尚紀じゃないか。迫力があった。戦っていた。右SBは松原健、小泉慶とライバル目白押しだが、この日見せた気持ちはきっと次につながる。世間は「大久保猛アピール」で仕方ないよ。僕らはこの日の尚紀を覚えておこう。


附記1、ラファエル23歳のバースデーゴールも覚えておきましょう。後半やられた試合だったんで、つい印象が軽くなるけど並のプレーじゃないです。

2、この日は向ヶ丘遊園の実家に寄って、久々に両親と焼肉に行きました。(去年、脳梗塞をやった)母もすっかり元気になり、めっちゃカルビ食べてました。あと土地柄、仕方ないんですけど、隣りのテーブルで川崎サポが祝杯上げてました。川崎的には「三好康児のデビュー戦を覚えておこう」でもあったようです。

3、そうしたらミッドウィーク(4月8日)のナビスコ鳥栖戦、山崎亮平の移籍初ゴールで見事勝利しましたね。ギュンギュン最高ですね。開幕戦の借りを返し、川崎戦のモヤモヤをふっ飛ばす勝利でした。寒の戻りでお客さん少なかったけど、見に行った方は「勝ち組」ですよ。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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