【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第249回

2015/4/30
 「黄信号」

 J1第6節(第1ステージ)、新潟×神戸。
 と、書いたけれど本当は「J1第6節、山形×松本」が正しいのかもしれない。実は同時刻キックオフのNDソフトスタジアムにいた。これは7年目の当連載で初めてじゃないかな。(自らスタッフを務める)アイスホッケーならともかく、別のJリーグ会場でサッカーを見ているパターン。知人からのLINE速報をチラ見したりして、頭のなかで2試合が並行して進む感じが面白かった。仕事で山形へ行ったついでに、たまには「アルビと関係ないJ1」がどんなか見たいなと思ったのだ。

 山形サポも松本山雅サポもこの試合を「序盤戦の天王山」と位置づけていた。昇格組の両チームはともに今季の主題が明確で、早い話、J1残留にフォーカスされている。僕がNDソフトスタジアムで感じたのはそのすがすがしさだ。主題に向けて皆が一丸となっている。僕は新潟には身びいきもあるし、今季の補強はかなり頑張ったと思うから、高い目標を掲げてほしい。が、現時点での順位を客観的に見れば残留争いペースだ。ここから中2日、中3日の連戦が始まり、あっという間に(上位から)置いていかれる可能性もある。

 だから「山形×松本」は新潟にとっても重要な試合に充分なり得る。真剣に見た。共通して言えるのは守備がいいことだ。骨惜しみせず、ひたむきにプレスをかけ続ける。それから苦しい場面、全員で粘る。のんきに構えてはいられないぞと思った、まぁ、正直言ってボール奪取のスキルは新潟に一日の長がある。が、最近の新潟にはポカがある。「堅守の新潟」は看板倒れになりつつある。「堅守の新潟」をずっと見てきたサポは、守備がスキルだけじゃないことを知ってるはずだ。守備は魂を入れないと。平たく言うと集中力だなぁ。「山形×松本」はそれが素晴らしかった。

 で、知人から入るLINEメッセージがなかなかの振幅だった。いちばんていねいに経過を知らせてくれたのが(元サッカーマガジン編集長の)平澤大輔さん。「ラファ!」「マイケルがオウンゴール…」「山本!」「追いつかれました」「引き分けで終了です。伝わって来ない後半でした」。あらすじはおぼろげにわかるでしょ。

 他にも知り合いのサポから前半の時点で「アルビ強すぎ~?」というのが来て、おお、よかったよかったと思ってたら、しばらくして別サポから「レオ、かなり痛めてます。後半交代かなぁ」という心配なのが来て、最終的には「ダメだ~、レオがいなくなったら機能停止、神戸に勝てなくてどこに勝つんだ…」というのが来た。神戸は好調だから「どこに勝つんだ…」はスワンでの相性の話だな。とにかく皆、意気消沈してる。NDソフトスタジアムも0対0のドローだったけど、スワンはちょっと種類の違うドローらしい。

 これはいけないとダッシュで帰京、夜、自宅でスカパー・オン・デマンドの録画配信を視聴する。なるほど、これは難しい試合だった。前半は新潟が圧倒しているのだ。神戸は前へ運びたいんだけど必ずボールを奪われ、波状攻撃を受ける繰り返し。絶好調ラファエルの先制ゴール、スプリントの結実・山本康裕の2点目、ともに素晴らしかった。ただオウンゴールの失点があり、スコアは2対1で折り返すことになる。

 オウンゴールの失点シーン。敵CKが舞行龍の腰に当たってゴールに吸い込まれている。前半は「相手にサッカーをさせない」くらいにずっと押し込んでたから、これはもう流れも何もない。だしぬけの交通事故だ。では事故を防ぐためにどうすべきか検討していくと、まず指摘すべきはGK守田達弥の判断ミスだなぁ。飛び出しておいて触れない。今季、守田はどうにも不安定に見える。この壁を乗り越えて本物に成長してほしいのだ。一流のGKは好不調の波を感じさせない。舞行龍は不運といえば不運なのだが、こう「不運な失点」が続くのはどうなんだろう(但し、CKでマークする相手を見て、目が切れないのは理解できる)。

 で、肝心の後半だ。神戸のネルシーニョ監督はいきなり2枚替えで来る。増川隆洋に買えて北本久仁衛(DFの雨漏り補修)、石津大介に替えてフェフージン(前線の活性化)。これが敵将ながらお見事と言うほかなかった。今年から神戸の指揮を執って、既にチームを掌握している。神戸は見違えるように守備が安定し、また新潟DFラインをかき回しはじめる。後半15分、とうとう同点弾を食らった(得点者・高橋峻希)。

 決定的に流れが変わったのはレオ・シルバの負傷交代だ。新潟は前半と同じチームとは思えないほど元気なくなる。柳下正明監督も流れを引き戻すべく後半20分、交代カードを切った。こちらも2枚替え。レオに代わった小泉慶が森岡亮太のマークにつき、成岡翔に代わった鈴木武蔵が斬り込み隊長を任される。そしたら斬り込み隊長がさっぱり斬り込まないんだなぁ。迫力ゼロ。当コラムのバックナンバーを確認すればわかるけど、僕は武蔵を買ってる。チームの顔になれる選手だと思う。が、こんなフワッとしたサッカーをしていちゃダメだ。期待外れもいいところ。

 昔言ったことのあることをもういっぺん言うよ。田中達也の姿から学べ。後半35分、山崎亮平に代わって入った田中達也はとにかくガムシャラに戦っていた。動きの質も素晴らしいし、交代投入された役割もわかっている。学ぶべきポイントは沢山あるよ。でも、いちばん大事なことは戦う気持ちだ。サッカー選手は闘争心だ。

 黄信号点滅。いかにネルシーニョさんの狙いがばっちりハマったとはいえ、そのままなすすべなくズルズルってどうしたもんだろう。「内容は悪くない(けど勝てない)」が「内容物足りない(勝てない)」に移行しつつあるんじゃないか。尻つぼみの試合は印象がよくないよ。


附記1、ミッドウィーク開催のナビスコ甲府戦(22日、中銀)も2対2のドローでした。開始早々の失点に頭くらくらしました。ちょっと失点多いです。鹿島戦後のTVインタビューで「前節・川崎戦4失点から立て直しましたね」と水を向けられたヤンツーさんが「相手が違う」と一蹴したのを覚えてるけど、今季は複数失点ゲームのほうが多いです。残念ながら相手がどこであれ。

2、その甲府戦の収穫は川口尚紀の公式戦初ゴールに尽きますね。川口選手、おめでとうございます!

3、一方、松原健選手の右ひざはそんなに悪かったんですね。報道を見て驚きました。手術の成功と一日も早い回復を祈ります。

4、今回、天童の有名店「水車生そば」に行ったんですが、店内の山形サポがけっこうラーメン(らしきもの)を注文してて驚きました。これは「鳥中華」といって、元々はまかないだった人気メニューだそうです。何と麺はラーメンで、スープはそばつゆベースなんだなぁ。7月のアウェー山形戦の際は要チェックです。上越サポは是非、直江津の塚田そばと比較してください。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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