【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第250回

2015/5/7
 「連敗は連続して負けること」

 J1第7節(第1ステージ)、G大阪×新潟。
 前節とは見違えるほどいいサッカーをした。絶好調のガンバ(リーグ戦4連勝、ACLを含む公式戦6連勝中!)に遜色ないどころか充分、勝ち目のあった試合。結果は2対1で敗れているから大きなことは言えないが、前途に希望を感じさせた。相手は連戦でお疲れ気味とはいえ、昨年3冠のガンバだよ。(勝敗は別にして)ここ数年のガンバ戦でいちばん面白くなかったですか?

 この試合が好印象なのは「奪って勝負にいく」自分らのスタイルを貫いたところ。指揮官もチームもブレなかった。球際でファイトし、徹底してやり合う。これが見たかった姿だ。前回、思うところを書かせてもらった鈴木武蔵(交代出場)も戦っていた。もちろん、ハイライトシーンは得点(後半22分、レオ・シルバ)にからんだヒールパスだろうが、僕の心に残ったのはDFとの競り合いを怖れず、頭から飛び込んでいった闘志だ。

 しかし、決めるべきときに決められず、凡ミスで失点しているようでは勝機を逃す。このところの悪い連鎖が今節も断ち切れなかった。GK守田達弥の不注意から先に失点(FKを捕球後、背後に潜んだ宇佐美貴史にまったく気づかず、ボールを放した瞬間、かっさらわれ、決められた。その後は外国人選手(レオvsパトリック)の個の力で双方、1点もぎ取る展開だったから、返す返すも宇佐美に一杯食わされたのが悔やまれる。

 報道によれば宇佐美は「1回ヒガシくんがやられてるんで、それで勉強してました」とコメントしている。自軍のGK東口順昭が第5節・清水戦(12日)で大前元紀にこれをやられていたのだ。一杯食った守田もその映像は頭にあったらしい。ところがフィードに頭が行って、向かい風に気をとられてしまった。屈辱的な失点だ。守田はよくそこから後半の42分間、気持ちを作り直して耐えたと思う。ガンバゴール裏からずっと「守田、後ろ後ろ!」とからかわれていた。

 決め切れなかった最大の得点機は山崎亮平がクロスバーに弾かれたシーン。ラファエルのパスを受けてカンペキに抜け出していたから、あれはのけぞったなぁ。まぁ、決定力はガンバが上だったということでしょう。

 だけど試合後、TVインタビューの柳下正明監督は「個の力」も「決定力」も言わない。
 「出来は良くなかったね。だってガンバも動いてないのに、こっちも動かなかった。スペースはあるんだから、ガンバが動かないならこっちが動いて使おうということだったんだけど、動きのないゲームになってしまった。ガンバのペースだった」
 負けたのはアクションが足りなかったという総括なんだよ。面白いね、ヤンツーさんの目には「いいサッカーをした」とは映っていない。


 J1第8節(第1ステージ)、新潟×FC東京。
 中2日のホームゲーム。FC東京の「中3日のアウェー」とどっちが有利だろうか。昭和の日の祝日は初夏を思わせる快晴。連戦疲れに加え、暑さが大敵だ。フィッカデンティ監督2年めのFC東京は「ウノゼロ(1対0)上等!」の守りの固いチームだ。とにかく1点取ったら完封勝ちしてしまう。ガマン比べになると思うんだね。ガマン比べは集中力が切れたほうが負けだ。新潟はこのところポカによる失点が続いているけれど、最もそれが許されない相手だと思う。

 実はこの日、「史上最大の入り待ち」大作戦が再現された。サポーターらは正午にはビッグスワン正門前に集結、約1千人の歌声でチームバスを出迎えている。2012年の入り待ちを知ってる選手は数少なくなった。あれから色々あったなぁ。今、勝てずにもがいているチームを再び、サポーターが押そうとしている。バス車内の目撃談が伝わってきた。柳下正明監督は笑顔で手を振ってくれたらしい。レオ・シルバはオレンジ色のスマホで撮影。守田達弥は真剣な表情で見入っていた。あの光景を見て奮い立たない人間はサッカーやめたほうがいい。

 試合。戦術的には両軍、攻守の切り替え重視のサッカーなんだけど、守りの発想が違う。FC東京はラインコントロールを大切にする。本当にきめ細かく、ていねいに動かしていた。で、奪ったら前めの3枚くらいが動き出している。カウンターを磨き上げている。また武藤嘉紀という、それに最適なタレントを擁してもいる。

 新潟は奪ってから(ロングボールではなく)人数をかけて攻め上がりたいイメージだ。中盤の距離感も近い。だから最悪なのはボールロストすることで、後ろの選手からしたら不安だし、疲れるしでたまったもんじゃない。ガンバ戦で気持ちを見せた鈴木武蔵(だからこそのスタメン獲得)は、この日に関してはボールロストが多過ぎた。

 FC東京は省エネ戦法だったのだろうか。試合トータルでもほとんどシュートがなかった。新潟は中2日とは思えない頑張りを続ける。決定機はぜんぜんこちらのほうが多い。少なくともラファエル・シルバに2、3回、山崎&小泉に1回、決まってもおかしくないチャンスがあった。決めるときに決めていれば…。決めるときに決めていれば…。またも繰り返された「決めるとき決めていれば…」の呪い。

 僕は(古町新明宮から?)神主さん呼んで「決めるとき決めていれば供養」をお願いしたい気持ちですよ。成就しなかった無数の「決めるとき決めていれば」が不憫でならない。何なら「決めるとき決めていれば塚」を建立したい。後世の人が鳥屋野潟公園の辺りを整備していて、偶然、塚を発見、「あぁ、決めるとき決められなかったんだなぁ」としみじみする。塚からは大量のアヒル人形、数字の書かれた服のミニチュアらしきもの(ヒモ付)が出土したそうな。

 後半42分、セットプレーからの失点だ。太田宏介のFKに林容平が頭で合わせた。GK守田はいったんは防いでいる。ポストに当たった跳ね返りを森重真人に決められた。FC東京はほとんどワンチャンスをものにしたといっていい。

 おそらく直近の3節、神戸もG大阪もFC東京もサポは口を揃えて「新潟は強かった」と言うんじゃないか。僕も「内容は良かった」と思うのだ。だけど、連敗してしまった。連敗とは連続して負けることだ。連続してしょんぼりすることだ。


附記1、上位勢に連敗したことで、GWの松本&山形戦が「大山のぶ代」とまではいかなくても、「中山律子」か「なかやまきんに君」くらいになって来ましたね。

2、鈴木武蔵選手、第一子ご誕生おめでとうございます。息子さんということで、チームメイトの名前のイチ押しは「小次郎」だそうですね。武蔵のゴールとゆりかごダンスが見たかったのは僕だけじゃないでしょう。絶対、アルウィンで決めてください!

3、実は『季刊レポ』誌の執筆陣の皆でCD作ったんですよ。『レポCD A面・B面・赤面!』(WPCR-16250)というコンピレーションアルバムで、各々思い入れのある洋楽ナンバーを選曲し、ブックレットに原稿を書いた。メンバーは北尾トロ、えのきど、角田光代、乙幡啓子、本橋信宏ほか。一応、僕的には「ワーナーからメジャーデビューした」と言い張ってます。で、調子に乗って「レポCDジャパンツアー2015」と称し、日本列島横断ツアーを開催中です。といっても全国2ヶ所で、栃木市の次は新潟市でファイナルなんですけどね(「列島横断」なので、縦断はしない)。

4、北書店(新潟市中央区医学町通 市役所向かい)にて「レポCDジャパンツアー2015 IN新潟」を開催します。これは実態はトークショーだと思いますが、本人は「(レコード)コンサート」のつもりです。また当日は仙台戦翌日のため、前説として、えのきど&元『サッカーマガジン』編集部・佐藤温夏による「仙台戦レビュー」を予定しています。

※5月17日(日)15時~
出演 北尾トロ、えのきどいちろう、日高トモキチ、和田静香、佐藤温夏。
会費 1000円(終了後、懇親会「北酒場」に参加ご希望の方は別途3000円)
会場 北書店(新潟市中央区医学町通 市役所向かい)
申し込み 直接同店で、または電話かメールにて受付。
TEL 025-201-7466(平日10時~20時、土日祝12時~20時)
mail sato@kitashoten.net 


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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