【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第251回

2015/5/14
 「昇格組さんシリーズ」

 J1第9節(第1ステージ)、松本山雅×新潟。
 とにかく会場の雰囲気が素晴らしかった。松本はサッカーに恋してる。その高揚感がストレートに伝わってきて、本当に楽しかった。アルウィンに乗り込んだ新潟サポは4千人。GWの渋滞も何のその、ある意味、このアウェーを今季いちばん楽しみにしていたんじゃないか。新潟もサッカーに恋してる。僕は2つの街を劇的に変えた人物、「男前」反町康治監督に限りないリスペクトを感じる。

 松本山雅はここまで2勝4敗2分(勝ち点8)の14位。ホームのGW連戦(新潟&甲府戦)を最重要と位置づけている。持ち味はハードワーク。システムは「1トップ2シャドー」の3-4-2-1。得点の多くをセットプレーから挙げている。面白かったのは柳下正明監督が3バック(3-5-2)にして、事実上のミラーゲームを挑んだことだ。新潟はマンツーマンだから噛み合わせがハマる。これはエース、ラファエル・シルバの累積欠場も影響していると思う。ヤンツーさんの考えは「捕まえる」だ。捕まえて奪う。

 だから、キックオフと同時にガチの「局面の1対1」が連続して面白かった。そうしたら、ピッチがまだ落ち着かないうちに指宿洋史がPKをもらう。エリア内で倒されたというジャレッド・ジレット主審(オーストラリア連盟)の判定だったけど、これは松本山雅DF・後藤圭太がちょっと気の毒に思えた。前半7分、レオ・シルバが難なく決めて先制!

 で、このPKが試合の様相を変えていく。山雅はプランが狂った。「0対0で行って最後に仕留める」試合はできなくなった。新潟も様子を探りながらやる感じになった。普段やってない主審は笛の基準がわからない。「え、これでPK?」はその後のバランスを変える。PK取られたチームはむしろ積極的だ。つっかけて「ほら、これでPKじゃないの?」と倒れたりしがち。PKもらったチームは審判の「おあいこ心理」を怖れる。なるべく高めにラインを設定して、エリア内でごちゃごちゃしたくない。

 しかも、ものすごい強風になった。風上から攻める山雅は優位に立つ。新潟は風の圧力、山雅の走力にたじたじになる。反町さんはポジションをスイッチさせ、それがまたコルテースあたりに混乱を生じさせていた。前半23分、前田直輝のミドルシュートで試合をふりだしに戻された。これは敵ながらなかなかのファインゴールだった。アルウィンの盛り上がりが最高潮に達する。やばい、呑み込まれそうだ。

 だけど(当たり前の話だが)、後半は新潟が風上に立つのだった。ハンパない強風は続いている。徐々にセカンドボールが拾えるようになるんだよね。後半は時間が経つにつれ、新潟が圧倒的になる。あとさすがに山雅はバテたと思うな。2シャドー(岩上、前田)の推進力がなくなって怖さ半減。松本山雅のスタイルは過密日程や夏の暑い時期が大変だね。

 決勝点は後半38分、交代出場の山本康裕だ。レオ・シルバが阿部吉朗からボール奪取し、コースケに出す。このとき真ん中にスペースができてるんだよ。コースケは落ち着いてグラウンダーで仕留めた。きわどい勝利を拾ったんだよ。


 J1第10節(第1ステージ)、新潟×山形。
 GW最後の一日。今季最多となる2万5千人がビッグスワンに集まる。大河ドラマの題名から「天地人ダービー」と呼ばれたこのカードは僕のお気に入り。過去のコラムでは「友軍」という呼び方をしている筈だ。ひたむきさにいつもシンパシーを覚える。それから以前は田中亜土夢が「山形キラー」ぶりを発揮してきた。亜土夢のヘルシンキ移籍を山形サポは内心喜んでいるかもしれないよ。

 スタメンが発表になり、ラファエルの名前がなくて驚く。足の違和感らしい。レオも累積欠場だからこの試合、新潟自慢の「Wシルバ」が揃って不在ということになった。システムは2トップ山崎亮平&鈴木武蔵の3-5-2。武蔵がんばれ。この試合めっちゃ大事だぞ、チームにとっても武蔵個人にとっても。

 僕は先月、山形の試合を見てるから非常に厄介だと思っていた。松本山雅より走るチームだ。一生懸命プレスをかけてくる。球際のしぶとさがある。先月見たときと条件が異なるのは2点。前節、横浜FMに快勝したプラス効果はあるか。そしてGW連戦の疲れが出るか。この2つはフタを開けてみないとわからない。果たして勢いに乗ってるのか、バテてくれるのか。

 で、前半はプラス効果のほうを思い知った。しっかりした形を持ってる。やってるサッカーに自信を深めた感じだ。両方のサイドバックとボランチの1枚がとにかく走り切る。迷いがないよね。味方が持ったらもう走り始めてる。

 新潟も何度か決定機をつくった。武蔵も特徴を出そうともがいていた。惜しかったのは32分過ぎの山崎ギュンギュンの斬り込み。終了間際の川口尚紀の飛び込み&大井健太郎のヘッド。どれかひとつ決まっていればあんな苦しい試合はしないですんだかな。

 サッカーの中身は山形のほうがずっと良かった。やっぱり「Wシルバ」の不在が響いてるのか。それは後半になるともっとハッキリする。山形はあいにく疲れを見せてくれなかった。驚異的なことだ。あの姿は胸を打つよね。

 後半16分、CKから山形・林陵平のヘッド一閃! 痛恨の失点を喫する。この場面、「不注意な横パスをさらわれたところから相手にCKのチャンスを与えてしまった」と「林のマークがあいまいで、フリーで打たれた」の2点は猛省を要する。

 で、いったん手詰まりになりかけるんだ。皆、気があせってバタバタしてしまう。ヤンツーさんの切った交代カードは成岡、指宿、加藤大だった。技術の高い3人が入る。これがロスタイムに実るんだよ。けっこうスタンドのファンも帰りかけていた。加藤大から成岡へ勝負パス。あれは戻ってきたボールだから(頭のなかで)準備できてないと成岡に出せないね。で、成岡がチームの危機を救う同点ゴール! いや~、死ぬかと思った。かろうじて勝ち点1を確保。


附記1 というわけで「GWスペシャル/昇格組さんシリーズ」は1勝1分(勝ち点4)で終わりました。前途多難ですけど、一歩ずつ歩いていきましょう。←ホントは今週、「連勝とは連続して勝つこと」というタイトルを予定していた。

2、先月、NDソフトスタジアムへ行ったときにも書いたんだけど、松本山雅&山形ともに魂を感じるチームですよね。僕は新潟も以前はあんなだったと思う。原点を思い出すべきじゃないですか。

3、加藤大はいい仕事したと思います。是非、次のチャンスを!

4、アルウィンでは反町さんが会見前、わざわざ僕の席に来て「ご無沙汰してます」って握手してくれた。のみならず質問の最後に「えのきどさん、質問いいの?」って名指しですよ。当コラムはトニーニョ・セレーゾ、反町康治両氏を2大「えのきどがかけられた(「指された」の新潟弁)名将」に認定します。ちなみに質問はありません。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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