【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第252回

2015/5/21
 「雪国」

 J1第11節(第1ステージ)、横浜FM×新潟。
 国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。GWの7連戦を抜けると降格圏であった。川端康成もびっくりである。僕もびっくりである。まさか今年のチームがこんなに勝てずに苦しむことになろうとは。「座付きライター」としては率直に反省を表明しておく。見通しが甘かった。主力がほぼ流出せず、積極的な補強が実現した。柳下正明監督はチームを掌握している。「2015年アルビレックス」はこれまでと別次元のチャレンジをサポーターに約束したはずだった。

 それが意外と11戦2勝なんだなぁ。横浜FM戦は三門雄大の「恩返し弾」(何と移籍後初ゴール!)にやられて零敗。ダメ元で走っておくという、三門の長所の出たゴールだった。気がつけば17位、降格圏転落だ。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。

 緊急停車じゃないのか。ちなみに『雪国』に出てくる「国境の長いトンネル」とは上越線の清水トンネルらしい。川端康成は何と昭和6年(1931年)、開業したばかりの上越線に乗って新潟県湯沢町の高半旅館に逗留している。この年、ついに国鉄が三国連峰にトンネルを通し、上越線を整備したのだ。これは今の感覚ならステマに近い。旅行キャンペーン小説?

 そんなことはどうでもいいのだ。まいったなぁ。ACLなんて言ってる場合じゃない。現実を受け入れて、当面、J1残留を目標とするべきだろう。だって実際問題、首位浦和は視界に入らない。現時点で勝ち点14の差(浦和24、新潟10)があるのだ。視界に入るのは下位勢の健闘のほうだ。今節は清水と山形が勝った。仙台は引き分けたが、浦和相手に4対4の乱打戦を展開した。厄介なのは山形や仙台の得点力だ。山形なんて3点取った試合がいくつあるか。下位勢のなかで新潟は「点が取れないチーム」の典型になってしまった。

 内容は悪くない。当コラムも今季、そのフレーズを繰り返してきた。内容は悪くないのに結果に結びつかない。確かに新潟は相手を押し込めるようになったのだ。横浜FM戦も基本的に敵陣でサッカーをしていた。横浜FMの得点機はゴールシーンも含め、2つくらいじゃなかったか。それをあっさり決められてしまう。今季は完封試合が少ない。ヤンツーさんはそれを「試合に入れていない選手」のミスと説明してきた。では、それは何故、断ち切れないのか。別の選手に替えられないのか。「堅守の新潟」は復活できないのか。

 それからこれはTBSチャンネル実況の清原正博アナが言ってたことなんだけど、新潟はリーグでいちばん多くCKを獲得しているチームらしい。帰宅後、録画を見直してそうなのかと驚いた。これはつまり押し込んでいる証拠だろう。相手はきわどいところでクリアしている。で、結果、獲得したCKが得点に結びつくかというとサッパリなのだ。これは「機会の多さが結果につながらない」わけで、改善点の最たるものだろう。改善できればストロングポイントになり得る。現時点で新潟はセットプレーで得点が決まらず、逆にセットプレーで失点を喫するチームになっている。

 
 と、ここまでのところを5月11日(月)の夜、書いたのだ。『雪国』を引用する等、工夫を凝らしてはいるが、昨日負けたばかりでさすがに気勢が上がらない。いちばんのポイントは「現実を受け止めよう」ということだった。受け止めなければ先へは進めない。コラムの後半部分はそれをどう前向きに書くかだなぁ(できればサゲにも川端康成を持って来たりして、ストンッと落としたいなぁ)なんて考えていたのだ。

 12日になって、クラブから驚天動地のリリースが出た。「レオ・シルバ離脱」だ。肝機能の数値に異常が見られ、精密検査のためブラジルへ帰国することになった。復帰は未定。肝機能障害は以前、遠藤保仁(G大阪)がやっている。もちろん一日も早い回復を祈るしかないが、チームは大ピンチを迎えたといっていい。考えてもみなかった事態だ。GWの7連戦を抜けると何と「レオ離脱」だった。

 チームは大ピンチを迎えたといっていい。さっき書いたばかりのフレーズだけど、これは何回繰り返しても間違いない事実だ。新潟がレオ依存体質に陥っているのは、直近の山形戦を見ても明らかだ。月並みだが、これを機に選手らが奮起するしかない。復帰に時間がかかるケースも想定し、レオ抜きでサバイヴする覚悟が必要だ。

 13日、帰国を見送りたいというサポーターの要望を受け、アルビレックス新潟広報が英断を下す。レオの乗る新幹線、飛行機を公表したのだ。これは互いに信頼感がないと成り立たないことだと思う。感動的なドラマが巻き起こる。平日にもかかわらず、14時台の出発に合わせて、まず新潟駅にサポが集結した。本当はレオのチャントが歌いたかったが、公共の場所であることをわきまえ、皆、マナーを守った。レプリカを着て、バナーメッセージを掲げて、駅ホームで手を振った。

 が、それだけでは終わらなかったのだ。燕三条で、長岡で、浦佐で、越後湯沢で、レオお見送りのリレーが始まる。ツイッターがその模様を刻々と伝えた。浦佐駅ホームでは2人がバナーを持って立ち、越後湯沢では1人がフラッグを持って立つ。僕はJR九州の新幹線開業CMを思い出した。レオはもちろんそれに気づいている。

 上毛高原がわからないんだよ。高崎、熊谷、大宮、上野は確実にサポが立った。レオはどうやら動画撮影していたらしい。あるバナーにはこう書いてあった。「LA FAMIRIA」。メッセージは明確だ。レオは新潟の家族だ。そして家族はこんなに大勢いる。みんな心配している。平日なのに心配ですっ飛んで来たんだ。

 もちろん東京駅には大勢のサポが待ち受けていた。そして成田空港にはもっと大勢が駆けつけた。関東サポは仕事を早めに切り上げ、上司に泣きつき、電車に飛び乗った。残念ながら間に合わなかった人もいる。僕はそのスプリントを称賛したい。それを繰り返すことでいつか点が決まるんだ。

 チームは大ピンチを迎えたといっていい。と、同時に危機意識でひとつにまとまった。レオが新潟の原点を呼び起こしてくれた。全力を尽くそう。やり切ったほうが気分いいから。そりゃこれで火がついて勝てるほどサッカーは甘くないとも思う。だけど「甘くねーんだよ」なんて言って楽しいか。こうなったらやってやろうじゃないの。


附記1 いやぁ、激動の1週間でしたね。もう僕は川端康成でサゲる構想は放棄しました。しょうがないからタイトルは『雪国』流用ですよ。だって要素が多すぎて、ひとつのタイトルにまとまらないです。レオは母国ブラジルに着いたでしょうね。願わくば全快の日の早からんことを!

2、次節・仙台戦が「大山のぶ代」になりました。と思ったら大山のぶ代さんが認知症で闘病中というニュースを知り、それにも驚かされました。僕の実家は小田急線の向ヶ丘遊園で、藤子・F・不二雄ミュージアムの間近です。上りホームの発車メロディは『ドラえもんのうた』という、めっちゃドラえもん寄りの環境です。僕自身も『ハリスの旋風』の石田国松から始まって、大山さんと同じ時代を生きてきた。がんばれ大山さん。がんばれ国松くん。がんばれドラえもん。

3、16日、仙台戦の試合前は元サッカーマガジン編集長の平澤大輔さんとトークショー(たぶん雨予報だからEゲート前広場のトラックですね)。翌17日は北書店でレポCDのトークセッション(15時開始、北尾トロさんらと)です。結果的に仙台戦のプレビュー、レビューを両方、客前でやれることになりましたね。北書店はもうちょっとお客さん入れたいみたいですよ。ご予約&お問い合わせは北書店(026-201-7466)まで。 


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動がさめる前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!

photo


ユニフォームパートナー