【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第261回

2015/7/23
「セカンド開幕連敗!」

 J1開幕節(第2ステージ)、新潟×鹿島。
 小説にたとえれば乾くるみだろうか。ロスタイムにすべてがひっくり返った。ほんの数分の間に勝ち点が3から1、1から0と手からこぼれ落ちた。ビッグスワンは呆然自失である。かんしゃくを起こしたり、ブーイングを始めるサポーターはむしろ少数だった。皆、その目で見たことが信じられない。ショックが大きすぎて、それが感情まで結びつかない。

 と言ってる僕自身、気持ちや考えを整理するのに時間がかかった。まず、気持ちの面は(中3日でFC東京戦が組まれていることでもあるし)切り替えるしかない。くよくよしてたって勝ち点が分けてもらえるわけじゃないだろう。難しいのは試合の評価だった。僕は「ロスタイムまでは」という但し書きは必要だけど、今季ベストゲームだったと思うのだ。

 いちばんポイントが高いのは戦い方がフォーカスされていたところだな。2週間の準備期間を挟んで、柳下正明監督の鹿島対策が徹底されていた。これはヤンツーさんのスカウティング力(新潟のストロングポイント!)だけじゃなく、チームの士気や実行力をも物語る。実際、ピッチ上には「やってやる!」という闘志がみなぎっていた。選手は戦っていた。

 この試合で圧倒的な存在感を示したのは小泉慶だった。新潟の守備は「タックルで奪う」。非常に「攻撃的な守備」だ。守備は守備なんだけど、攻撃と連動している。「奪う→スペースへ出す」。このパターンを繰り返し、鹿島を大混乱に陥れる。キーを握ったのはこの試合で戦列復帰が叶ったレオ・シルバと小泉の2ボランチだ。

 あ、川口尚紀の守備も誉めておきたい。金崎夢生を見事に封じていた。ざっくり言って「鹿島にサッカーをさせなかった」級の試合ができていた。CKから失点(前半30分、昌子源)したけれど、指宿洋史、小泉慶の連続ゴールであっさり逆転、僕は第1ステージの試行錯誤が実を結んだ「会心のゲーム」だと思っていたのだ。

 それがロスタイムに2点(同点&逆転弾!)奪われ負けるのだ。僕は2つの問題を切り分けて考えるべきだと思う。ひとつは「後半、再三訪れた得点機を決めきれない」だ。追加点があればその後の展開はぜんぜん違った。ただそれは「欲を言えば」の話だ。ゴールに結びつかなかったが、あのサッカーは続けてほしい。

 敗因として考えるべきは「なぜ2対1のまま勝ちきれなかったか」のほうだ。ネタとしては「カシマる」&「潟る」の合体と言われてしまうような現象だが、僕は「結果の出てないチーム」のもろさなんだろうと思う。ずっと「攻撃的な守備」を続けていたチームが、終盤は引いてしまった。それは何でかっていうと勝ちたいからだ。勝ちたくて結果がほしくて、引いてしまう。そうすると攻め込まれるからあわてる。パニック心理だ。瞬(またた)く間に不安が伝染する。

 「90分のサッカー」と「ロスタイム5分のサッカー」。どちらも現在の新潟の姿だと思う。結果は最悪だが、全部が全部悪いことばかりじゃない。しかし、仕切り直しただけで、けっこう「開幕戦」感のある試合になった。


 J1第2節(第2ステージ)、FC東京×新潟。
 ミッドウィークのアウェー戦。関東は3日ほど前から急に暑くなって、選手らの運動量が保てるか心配だった。ちなみに新潟県もここ数日、猛暑に見舞われており、7月13日には上越市や胎内市で38℃超が観測されている。今年の夏はどうやら暑そうだ。加えて今季は2シーズン制の影響で平日開催が多く組まれ、日程がハードになっている。

 試合が始まって、あれ、ちょっと元気ないなと見えてしまった。入りのテンションが低い。FC東京は武藤嘉紀のマインツ移籍を感じさせないほど、タレント豊富だ。ガツガツ行かないとどんどんつけ込まれる。守りが危なっかしかった。敵の前線がかけひきしてるせいなんだけど、立ち上がりからハラハラするシーンが続く。水際で防いでどうにか落ち着くかなと思ったら、あっさり失点した。

 一方、攻撃はなかなかくさびが入らない。FC東京はフィッカデンティ監督になって、ブロックを形成する堅守のチームに様変わりした。これを崩すのは新潟でなくても至難のワザだ。自然、外側でボールを回し、いったん下げて機をうかがう「見せかけのポゼッション」に終始する。くさびが入らないんでサイドを起点に放り込む感じになるが、楽々対応されていた。つまり、攻め手なし。

 前節、あれほど奏功したプレスがFC東京相手にはぜんぜんかからない。新潟はさっぱり持ち味を出せなかった。で、それは「戦う気持ち」のような部分に還元すべきことだろうか。あるいは単に「力の差」でしかないのだろうか。

 「力の差」は確かに認めざるを得ない。が、僕には負けるべくして負けた「完敗」という風に見えた。それをもうちょっと解像度よく説明してくれるのが毎度おなじみの「平澤メモ」(元サカマガ編集長、平澤大輔さんによる戦術解析メモ)だ。ラッキーなことに平澤さんは東京出張を利用して味スタに駆けつけてくれた。

 「鹿島戦ではあんなに良かったのに、なぜ…、という疑念が払えないと思います。特に守備で、鹿島戦でうまくはまったプレスがまったく機能しません。でも、種を明かせばそんなに難しいことではありません。鹿島は執拗にボールをつないでくれたので結果的にプレスに入るスイッチをこちらに与えてくれたことになります。東京はそれを知ってか、古典的な、でも効果抜群の対策を施してきます。それは、プレスがかかる前にロングボールで回避する、というテクニック。これで『プレスレス状態』に持っていきました」(平澤メモより)

 だから戦術的にも完敗だったと思うのだ。ショートカウンターのスイッチが入らない。フィッカデンティさんは「新潟はこれをやられたら嫌だなぁ」というのを全部やってきた。今後、対戦チームはこの試合映像を参考にするだろう。こちらはその上を行かなくてはならない。

 最後、PKもらって1点返したけれど、1対3でタイムアップ。ま、ひどいことはひどいが、この試合くらい完膚なきまでにやられたらあきらめもつく。顔を上げて鳥栖戦だ。ひとつ勝てば雰囲気も変わるさ。


附記1、鹿島戦は勝ちジンクスを持ってるアサクラさん(知人の関東サポ。ちなみに僕らは川崎市立生田中学の先輩後輩OB)のクルマで出撃したんですけどねぇ。こうなったら鳥栖戦は皆、思い思いにラッキーアイテムを持ち寄りますか。

2、最下位転落って逃避心理が働きますね。僕は久々に『桃太郎電鉄WORLD』をひっぱりだしてプレーしています。これ、新潟がカード売り場になってて、「刀狩りカード」の補充にしょっちゅう立ち寄るんだ。

3、FC東京戦後のカコミ取材。山崎亮平は「こういうとき、選手がバラバラになっちゃうチームがあるけど、うちはまとまっている。立て直す」と誓っていました。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動がさめる前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!

photo


ユニフォームパートナー