【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第263回

2015/8/6
 「翌日、山形新聞の見出しは『モンテ痛すぎる黒星』(7月26日付スポーツ面)。記事中、MFロメロ・フランクが『シュートまでいけたが、(新潟のような)ゴール前の落ち着きは自分たちも欲しかった』とコメントしていて、いやいやいや、そんなことないっすよと非常にくすぐったい気持ちになった。どうです、散歩道史上、最長のタイトルですよ。ぜんぜんタイトルに見えませんね」

 J1第4節(第2ステージ)、山形×新潟。
 下位どうしの直接対決。年間勝ち点は試合前の時点でどちらも17、得失点差で山形が16位、新潟が17位に位置する。6ポイントマッチだ。勝ったほうは勝ち点3を加えるだけでなく、相手が勝ち点3を上乗せする機会を確実につぶせる。3と3を合わせて6ポイントマッチ。これが直接対決じゃないと、せっかく勝ったのに向こうも勝っちゃってプラマイ0ってケースがありますね。

 山形は第2ステージ開幕から3戦連続ドロー。しかも、相手が横浜FM(1-1)、浦和(0-0)、FC東京(0-0)と強豪揃いだ。堅守に自信を深めている。直近の浦和戦(2-5)、FC東京戦(1-3)に大敗した身としては、その力量を認めるほかない。認めた上で浦和やFC東京が破れなかった「難攻不落の城」を落とさなきゃならないんだね。テーマは攻城戦。力攻めじゃなく、工夫が要るってことだよ。

 天童駅前からのシャトルバスが異様に空いてて、NDソフトスタジアムの特殊性をあらてめて思った。ここは広大な駐車場を有し、地方特有のクルマ社会に対応している。10年くらい前、初めて来たとき、ドジャースタジアムを連想したものだ。観客が公共交通機関よりもマイカーを利用したがる傾向はビッグスワンにも通じる。ただ、NDのほうが顕著なんじゃないかな。

 で、バスがスタジアムに着いたらオレンジのユニホームだらけだった。笑ったなぁ。後で聞いたら1万1千強の入場者のうち、4千人がアルビサポだったらしい。夏休みの隣県アウェーだ。スタジアムグルメの充実ぶりではJ屈指の山形だ。オレンジユニの精鋭らはこっちでは芋煮の列に並び、そっちでは鳥中華を写メにおさめ、更にあっちでは尾花沢スイカをふるまわれる等、美味しい「アウェーの洗礼」を満喫していたのだった。

 試合。珍しく両軍ともにファーストユニ。旗幟(きし)鮮明になって決戦ムードが自ずと高まる。ゴール裏の人口密度は新潟側のほうが高い。夕闇が訪れピッチレベルの気温はだいぶ下がったが、ゴール裏はめっちゃ暑いだろう。動員を見るかぎり、この一戦に懸ける気持ちは新潟に分がありそうだ。ていうか、このスタジアムは4月の松本山雅戦でもバックスタンドが埋まらなかった。山形の泣きどころはそこだなぁ。

 新潟は序盤から攻勢に出た。「鹿島戦を思わせる」戦いぶりだ。選手間の距離を保ち、奪ってスペースへ出す。奪ってもぐり込む。スペースへ出すという、そのスペースがあるということは相手が取りに来てくれるということだ。「山形はボールを奪いに来たときに、その背後等にスペースができる。そこを予測し、落ち着いて攻めた」(柳下正明監督)。

 前半のうちに2得点する。先制点は同23分、指宿洋史のヘディングゴール。これは順番に言うとポストプレーから山本康裕が持ち込んでシュートを打って、山形GK山岸範宏が弾き、そのボールを加藤大が拾うところまでが前段階。加藤の勝負パスは迷わず指宿だったが、その向こうには山本康裕もいた(指宿がつぶれて、コースケゴールもあり得た)。イブゴールは超高い打点でどかーん! 195センチの長身ながら実は指宿のヘディングゴールは珍しい。加藤とはいいコンビになりそうだ。待ち合わせの時間と場所がピッタリ合ってる。

 追加点は同42分、山本康裕。右サイドからの崩しだった。レオ・シルバが奪って川口尚紀に渡し、川口がサイドまで顔を出した指宿に預ける。指宿はダイレクトで山本にさばく。このあたりのテンポ感ね。コースケが山崎亮平に渡し、山崎が切り替えして敵DFを2人転ばせる。ここが最高だった。愉快痛快! 山崎はゴール前に駆け込んだコースケに戻して、ちょっと前めだったけど左足を伸ばしてフィニッシュ! おいおい、どうしちゃったの? 浦和やFC東京をはね返した堅守山形から2点も取っちゃったよ。

 但し、「鹿島戦を思わせる」戦いぶりは別の(歓迎できない)意味も持っていた。発端は後半、PKをもらってレオが外したあたりからじゃなかったか。嫌な感じがした。それは「決めるとき決めとかないと厄介なことになる」的な考えが頭をよぎり、弱気になったのか。それともゲームを圧倒して油断があったのか。いずれにしても「勝ち切れないチーム」の弱さだ。これを乗り越えないかぎり、いつまでたっても「内容は悪くない」で足踏みだ。

 リズムが悪くなった。後半24分、山形・宮阪政樹のブレ球ミドルをGK守田達弥が弾き、こぼれをディエゴにぶち込まれる。スコアは2対1。そこから怖かったなぁ。追いつかれたら逆転される気がした。人口過密の新潟ゴール裏も、あの時間帯はヒヤヒヤして暑さを忘れたんじゃないか。失点の後、ピッチに投入された成岡翔、鈴木武蔵に皆の思いが届いていただろうか。「成岡たのむ、落ち着かせてくれ!」「武蔵追え、本気で追いまわせ!」。皆、生きた心地がしなかった。

 この苦しい時間帯に耐え、鹿島戦の亡霊を振り払った意味は大きいと思う。大&武蔵が後半50分、ダメを押してくれる。で、3対1でタイムアップ。勝たなきゃならない試合に勝ち切った。殊勲はスーパーな働きをした加藤大じゃないかな。いっぺんスタジアムで(ボールの動きではなく)加藤大の動きだけ目で追ってみるといい。あんなにハードワークして、あんなに質の高いプレーする選手も珍しい。たぶんファンになるはずだ。

 システムができてきたなぁ。復調したレオと成長を続ける小泉慶の2ボランチが土台だ。守りの重心が定まった。選手の距離感やなんかがうまくハマると、セカンドボールがどんどん奪えて波状攻撃になる。あ、それから指宿にボールがおさまるから「守→攻」に人数かけられるようになった。チームは今季初の連勝。自信をつけていきたい。次は中3日でガンバ戦だよ。守田のだまし討ちのカタキを取らないとね。


附記1、というわけで第5節・G大阪戦は敢えて反映させないことにしました。まぁ、頑張れば平日開催の観戦記もアップできるんですけど、今週末から東アジア杯のブレークに入るから別に頑張る必要ないわけです。2本立てで扱うより次週たっぷりやるほうが読者も嬉しいですよね?

2、当日はモンテディオ山形のスポンサーの関係で「でん六プレゼンツマッチ」だったわけですけど、社長さんのスピーチの後、山形ゴール裏が「まめーはでん六、まめーはでん六」とコールを始めたんです。と、新潟側が間髪を入れず「かめーだせいか、かめーだせいか」とやり返した。これが「まめー」と「かめー」の紛らわしさ(あ行+めー)から「まめーはでん六」に乗っかったように聞こえてしまい、「新潟さん、スポンサーに配慮してくれてる」とまるで美談のようになりましたとさ。

3、佐藤優平が交代の準備して、第4審と一緒に張り切って待ってたら試合終了になっちゃいましたね。

4、知人サポが教えてくれた話です。山形戦後、選手はその晩のうちにチームバスで新潟へ帰ったんですよ。まぁ、中3日で次の試合だから泊まりませんね。で、クルマで参戦したサポと同じコースを帰るわけです。SAでチームバスの到着にたまたま出くわしたサポが、自然と両側に並んでトイレまで花道を作り、拍手喝采で勝利をたたえたらしい。新潟っぽい、あったかい光景ですね。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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