【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第264回

2015/8/13
「降格圏脱出」

 J1第5節(第2ステージ)、新潟×G大阪。
 7月最後のJ1公式戦はミッドウィーク開催になった。夏のいちばん暑い盛りに「前節・山形戦から中3日の連戦」という言い方もできるんだけど、それを言ったらG大阪は「(ACLの関係で)中2、3日のペースで6連戦」という殺人的スケジュールをこなしている。この日はその6戦めだった。誰が考えてもヘロヘロだろう。これは走り負けるわけがない。警戒すべきはセットプレーというところか。

 新潟は3連勝を目指して雰囲気上々。画期的なことにBSNテレビが生中継(平日ナイターの地上波生は初?)を組んでくれた。もちろんTeNYはスカパー中継、FMポートはラジオ中継をそれぞれ担当したから、つまり「新潟の民放3社が生中継対応」という、ちょっとしたメディアイベント状態だった。何だかんだ言ってアルビのプレステージの高さは大したもんじゃないかな。一体、アルビ以外の何が県内でこんなことを可能にするだろうか。これでビッグスワンの動員が激減したら問題だが、この日もほぼ2万人が詰めかけている。 

 で、試合が始まったら想像通りというか想像以上というか、ガンバの動きが悪い。まるで身体に重りが入ってるようだ。どうやら省エネ戦法だ。これは行ける。ボールが取れるし、取ったら作れる。しかも、新潟はちょうどチームの息が合ってきたところだ。前半6分、山崎亮平がFKのリスタートから素早くボールを供給、加藤大が受けてDFを引きつけそっとパス出し、これを走り込んできた指宿洋史が蹴り込むという、素晴らしい形があった。枠は外したけど、これなんか「息が合ってきた」以外の何物でもない。新潟は攻勢。ガンバは焦っていた。その焦りがオウンゴールに結びついたというところか。

 前半10分、山崎がドリブルで右に切れ込み、フェイントでガンバDF・岩下敬輔を寝かせ、クロスを入れる。それが丹羽大輝の足に当たってオウンゴール! 思わぬ形の先制点となった。まぁ、これは丹羽のミスということにしては可哀想だ。新潟がキックオフから圧力をかけ続けた結果だと思う。

 ここで畳(たた)みかけられたらワンサイドにできたんじゃないか。悔しいことに前半、スコアが動いたのはこの1点だけ。まぁ、でもガンバは後半、もっと落ちるだろうと思った。こっちはセットプレーの守備だけもういっぺん確認すればいい。1-0で折り返し上等。この試合、いただきだよ。ハーフタイムは夢いっぱいだった。まさか後半、思いもよらない展開が待っていようとは。

 思いもよらない展開その1、後半開始早々の2分だ。いきなりCKから米倉恒貴にニアで合わされた。同点! セットプレーはずっと嫌な感じがしてた(フリーで合わされてた)から、「思いもよらない」というより「心配が的中」なんだけど、それにしても2分とは思いもよらなかった。ま、ガンバの技術が高いってことなんだけど、「後半の入り」って大事なところでしょ。どうにかはね返して欲しかった。

 向こうからすると前半はガマンだったんだ。大崩れしないで何とかやりおおせた。後半GO!だったと思うよ。最初からガツンと叩いて、目ぇ回してる間にガンガン行く。長くエネルギーはもたないけど、短い間なら「いてこます」だか「いわす」だか、ちょっと関西弁よくわかんないけど、十分可能でしょう。

 思いもよらない展開その2、家本政明主審にPKを取られてしまった。「後半の入り」、同点に追いつかれバタバタしてる時間帯だ。ガンバはこの時間帯に有り金全部賭けた感じ。問題のシーンはエリア内のせめぎ合いだった。ガンバはボールを持ち込み、これからクロスを入れようというタイミングだった。つまり、「エリア内のせめぎ合い」はまだボールに関与していない。舞行龍がガンバ岩下をつかみ倒したということなのか。申し訳ない、ビデオを何度も見直しているんだけど僕には確認できない。

 岩下は最終的には自分でぴょんと飛んでいるように見える。まるで見えない障害物につまづいたような感じだ。だから倒れたこと自体はジャッジと関係ないだろうと思う。おそらく「つかまれた」「バランスを崩した」ということだろう。だけど、まだボールに関与してないからいわゆる「1点ものの決定的なプレー」が阻害されたわけじゃない。

 まぁ、厳密な話をすればホールディングは倒すか倒さないかではない。また悪質かどうかでもない。相手選手の身体やユニホームをつかんだだけで成立し得るファウルだ。「成立する」ではなく「成立し得る」というあいまいな表現をとったのは、実際にはリーグや大会、個々の審判によってものすごく運用面に幅があるからだ。どこまでを取ってどこから流すか。サッカー選手は試合が始まると、その日の主審の「接触プレーの基準」を見極めようとする。

 「新潟が嫌われているのか、俺が嫌われてるのか、もし俺が嫌われているのなら俺がやめればいい」(柳下正明監督) いささかショッキングなヤンツーさんの会見コメントだが、要はその「接触プレーの基準」のことを言っている。その基準を見る目にはプロとして誇りを持ってますよ、という意味だ。で、その基準がブレてるというかダブルスタンダードになってますよ、と主張しているわけだ。

 もちろん、これに対し「ホールディングはホールディングである」という反論は立派に成立する。ていうかこれが正論。その日の基準も何もない、身体をつかんだらホールディングだ。正論だけあってまったく正しい。

 ただそれを厳密に適用していくとゴール前のかけひきはどうなるだろう。例えば身体やユニホームをつかむよりもっと一瞬のテクニックで、相手がジャンプする直前にトンと押したりするのをよく見かける。相手はほんの一瞬バランスを崩して、ジャンプのタイミングが一拍遅れる。この種のかけひきは無数にあると思う。すべてアンフェアーということになるだろうか。

 件(くだん)のホールディングのシーンは僕がビデオを見直した限り、舞行龍が岩下をつかんでるのか、張りついて身体で抑えようとしているのか判然としない。岩下は身体を押しつけられてバランスを崩し、その後で自分でぴょんと飛んだようにも見える。くどくど書いているのはファウルの考察は面白いからだ。僕は何故、判定についてスポーツニュースが取り上げないのかわからない。あんな面白いものないのに。ルールの勉強にもなる。誤審を指弾してばっかりになるかというとそんなことはあり得ない。「よく審判はこれを見てたな~」というほうがずっと多いと思う。

 で、今回、ビデオを何度も確認して僕がいちばん面白いと思ったのは「舞行龍のホールディングは判然としない。別の選手のホールディングははっきり映ってる」ところだ。これはヤンツーさんの言う運用面の話とはぜんぜん別の次元だ(運用面の話とは、例として適当かどうかわからないけど、40キロ制限の道で41キロ出しても、交通の流れを見て違反を問わない法規の「運用」もあり得ますよね、というニュアンス。もちろん常識的に考えて100キロ出したらスピード違反で結構ですよ、というような)。だから、今、僕が言ってるのは単につかんだかどうかという話。でも、「単につかんだ」らアウトだとすると、ファウルは舞行龍だったのかな、難しいとこだなと思ったのだ。

 後半9分、このPKを遠藤保仁にあっさり決められ1対2。いったん逆転を許した。このあたりから場内がずっと騒然としていた印象だ。ちょっとプロレスを連想させる雰囲気。悪役レスラーがパンツのなかに凶器を隠し持っている。卑怯だ。理不尽だ。ユセフ・トルコ仕事しろ。そんな感じかな。あ、昭和プロレスに詳しくない方のために解説しておくと、ユセフ・トルコはプロレスラー出身の名物レフェリーですね。

 そのざわざわと落ち着かない空気をどかーんと歓喜の爆発に変えたのが指宿、山崎の2トップだった。後半15分、山崎がドリブルでバイタルに持ち込んで、指宿の動き出しにピッタリ合わせるスルーパス。指宿は倒れながら足先でフワッと浮かせ、(飛び出してきた)キーパーを越すファインゴール!

 指宿はゴール量産体制に入ったと思う。チームの骨格が定まるなかで、役割がはっきりし、周囲からも生かされるようになった。ラファエル・シルバのブラジル帰国は指宿にとっては大チャンスだったのだ。代わりにエースの座を獲得しつつある。主力選手の戦線離脱は別の誰かの千載一遇のチャンスになり得る。それがプロの世界だね。 
 
 試合はそこから「死闘」の様相になる。僕はガンバは後半になったら連戦疲れからガタガタに崩れると想像していたが、大変失礼しました。疲れ自体は垣間見えるものの文句なく怖さがある。倉田秋のシュートはやられたと思いました。新潟も攻めたから最後はどっちに転ぶかわからない展開になっていた。これはね、ガンバの根性が成せる業だよ。大熱戦は2対2のドローで時間切れ。

 正直言って、本来は「どっちに転ぶかわからない展開」になるような試合ではないね。新潟の圧勝であって然るべきだ。(スコア上は追いついたドローだけど)内容的には勝ちを逃がした試合だった。けれど光明は見えてきたと言いたい。今節を終了して、新潟は僅差ではあるけれど降格圏を脱し、15位に浮上した。いいムードで東アジア杯のブレークに入れる。


附記1、交代出場した佐藤優平がすんごい面白かったですね。ちょっと今までいなかったタイプです。新しい化学変化の予感がしますよ。

2、この日、Eゲート前広場で八色スイカのイベントが行われました。以前も書いたけど、このイベント実施日ってまだ無敗なんですよ。この日も「不敗神話」継続。いっぺん浦和戦にぶつけてほしいなぁ。

3、8月1日のサマーフェスタは「とにかく明るい高聖」で盛り上がったようですね。僕も映像で見て大爆笑しました。

4、鈴木武蔵選手の水戸期限付き移籍にはびっくりしました。マーケットが閉まるぎりぎりのタイミングでしたね。実戦経験を積んで、でっかく成長してほしいです。水戸は代表に呼ばれる前、闘利王が修行したクラブとして知られます。あの当時、「闘利王を見に行く」のがサッカーライターの間で流行した。武蔵にもそんな存在になってもらいたいですよ。

 
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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