【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第265回

2015/8/20
「盆・休・盆」

 J1第6節(第2ステージ)、新潟×浦和。
 猛暑酷暑の夏も盆の入りまで来た。東アジア杯のブレークが明けて、いよいよリーグ戦再開は12日(水)のナイター開催から。ていうか、今、書いててびっくりしたのは自分のPCが「さいかい」と打ったら「最下位」と予測変換しやがったことだ。これは衝撃。いかに「最下位」としょっちゅう書いてきたかだよ。残念なことだなぁ。今後は新潟には順位をぐんぐん上げてもらって、PCにも「さいかい」と打てば心ときめく「再会」あたりがパッと浮かぶようであってもらいたい。

 今回、当コラムは平日ナイターの記事を翌日、モバアルにアップするという趣向だ。具体的には12日の試合について13日にアップする。で、浦和戦は大事な「再開」初戦ではあるけれど、生観戦はあきらめることにした。自宅でTVで見れば移動時間がショートカットでき、見終ったらすぐPCに向かえる。そもそも帰省ラッシュのピーク日なので交通機関が混み合っている。また翌13日は午前中からなでしこJAPAN、有吉佐織選手の取材が入っていて、その点でも東京にいたほうが好都合なのだった。

 しかし、「東京にいたほうが好都合」はぜんぜんサラッと決断したものじゃない。実は8月13日は僕の誕生日なんだね。お盆だから子供の頃からあんまり誕生会ってものをしたことがない。夏休みと重なるし、お盆はその家々の行事があったりする。大人になってからは、貴重な盆休みに自分のために集まってくださいとはなかなか言い出せなくなった。だから大概、都内がひっそり静まり返るなか、夫婦で寿司屋かなんかに行く感じになる。

 で、今シーズンは日程表を見て、非情にムシのいいことを考えてたんだなぁ。まず浦和に快勝するんですよ。前提として浦和戦勝利。ウキウキでスワンを引き上げ、万代口あたりの居酒屋に集合です。先に行ける人だけでとりあえず乾杯はしといてもらって、順次、後続が加わる。皆、ウキウキだから話長いんだね。ラストオーダーの時間が何時か知らないけど、設定上はつい日付が変わってしまう。8月13日。僕は思いついたように言う。「お、そういえば今日、誕生日なんだよ」。で、祝勝会の流れのなかで誕生日の乾杯もしてもらう。

 これがね、夢破れました。「東京にいたほうが好都合」のせい。皆で祝ってほしかったなぁ。ていうか、話を切りたくないから黙ってたけど、今も「かんぱい」って打ったら「完敗」って予測変換したよ。何てPCだ。

 試合。まぁ、負けちゃったんでどっちみち夢破れてたね。悔しい負けだった。試合後、浦和・ペトロヴィッチ監督に「新潟にも勝ち点3をあげたい」(どうも「お互いに攻め合って素晴らしいゲームになった」という文脈での発言らしい)なんて言われちゃうとますます悔しさがつのる。

 累積警告でレオ・シルバを欠くなか、第1ステージで「かんぱい」を喫した浦和とどこまでやり合えるかが見ものだった。新潟の2ボランチは小林裕紀と小泉慶。特に久々にスタメンを張る小林は心中期するものがあったに違いない。また浦和は武漢帰りの代表組がどうなるか注目されたが、槙野智章、西川周作が何と強行出場した(興梠慎三と武藤雄樹はベンチ入りせず)。一昨日帰国して、昨日新潟入りし、今日試合というハードスケジュールだ。

 順を追って話すと試合の入りは「新潟100点、浦和0点」だった。新潟はつがえた矢をパァーンと放った感じだった。やる気満々。早く試合がしたかったぜ。一方の浦和はフワッと入ってしまう。いきなり加藤大の突破、山崎亮平→指宿洋史の仕掛けで決定機が連続する。

 先制点は新潟だ。前半12分、山本康裕のシュートがポストを叩き、はね返りを山崎ギュンギュンが決めた。勢いそのまま試合を牛耳(ぎゅうじ)る。浦和は柏木陽介のコンディション(負傷のため代表辞退)がもう一つというせいもあって攻勢に転じられない。

 が、浦和にひとり抜群に身体が切れてる選手がいた。梅崎司だ。新潟は結果的には梅崎の「個の力」にやられてしまう。前半26分、ズラタンの同点ヘッド! カウンター攻撃だ。ポジションチェンジし、(新潟の)右サイドに持ち込んだ梅崎がひとつターンを入れて、勝負パスを供給。

 前半は1対1で終了。はっきり新潟が押していた。が、そのままは終わらないんだ。後半は浦和が地力のあるところを見せる。後半の入りは浦和のほうがアグレッシブだった。CKからの梅崎&槙野のヘッドをGK・守田達弥のファインセーブで防いだり、あと高木俊幸のヒールはポストが弾いてくれたり、ヒヤッとする場面が続く。

 ギアを変えてきた感じだった。セカンドが拾えない。攻守の切り替えが速くなった。ただ第1ステージと違って、新潟も勇気を出してやり合う。ワイドな展開から加藤がドンピシャでシュートを打つが決まらない。カウンターから関根貴大にフリーで打たれるが、守田が防いだ。熱戦だ。レオ抜きでこんな試合ができるとは。

 ただ後半31分、梅崎にまたもやられた。今度はアシストではなく、弾丸ミドル。守田が反応しなかったからブラインドから打たれたか。梅崎はホントに絶好調だった。

 あと感心したのは槙野の頑張りだな。東アジア杯であれだけ奮戦して、帰ってきてパフォーマンス落ちないんだ。気力でもたせた。2点めが入った直後、山崎ギュンギュンが那須大亮を振り切ってシュートして、ポストに嫌われたシーン。その流れからの新潟の追撃をはね返したのは槙野だ。

 敵将に「新潟にも勝ち点3をあげたい」と言われようと、勝ち点0は0だ。ポジティブに評価すべき内容だったとしても、僕らは結果を求めていかねばならない。「惜しかった」「内容は悪くない」「善戦したけど、個の力で負けた」の繰り返しはそろそろ脱したいじゃないか。「さいかい」や「かんぱい」の予測変換でゲンナリしたくないじゃないか。


附記1、タイトルは「ぼん・きゅう・ぼん」と一応読みますが、中身とあまり関係ありません。ちょっと悔しすぎて壊れた?

2、田中達也選手の復帰戦になりましたね。おかえりなさい、待ってましたよ。浦和への恩返し弾は9月のナビスコ連戦まで取っておきましょう。

3、この日はアルビ・ラッピングバスのお披露目でしたね。公式サイトで写真を見て、めっちゃ乗りたいと思いました。普段は路線バスとして走るんですよね。素晴らしすぎる。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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