【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第268回

2015/9/10
 「勝利がすべて」

 J1第9節(第2ステージ)、仙台×新潟。
 重苦しい試合だった。ムードは7節・清水戦に酷似している。年間順位で14位の仙台と15位の新潟の直接対決。勝ち点差5が結果次第で8まで開くか2に縮まるか、まさに運命の分かれ道。そりゃ両軍、必死である。キックオフから緊張感でピリピリしている。仙台市は今週ずっと雨だったらしい。雨上がりの小寒いような気候、ピッチはかなりぬかるんでいる。

 新潟は小泉慶の負傷について公式リリースを出した。「右第4中足骨疲労骨折(全治3ヶ月)」。骨折の治りは個人差もあって、必ずしも「全治○○」の診断が絶対とはいえないけれど、額面通りとらえれば事実上の「今季絶望」だ。本当に残念のひと言では片付けられないものがある。柳下正明監督はこの試合、レオの相方に加藤大を起用、右サイドハーフには佐藤優平(初スタメン!)を使った。戦術的な関心事は「レオ&慶」ありきで回っていたチームバランスがどう変わるか。

 しかし、わかんないものだ。開幕前、小泉慶がここまでチームのキーマンに成長するとは誰も思わなかったし、移籍の佐藤優平はもちろん、若き加藤大に運命の一戦を託すことになるとは誰も予想していなかった。だから「絶え間ない変化」がサッカーというチームスポーツの本質なんだろうね。常に応用問題を解いてるような感覚。で、「絶え間ない変化」の一例がこの日、いきなりベンチ入りした端山豪(慶大在学中)だ。「内定出たと思ったらその週のうちに仙台の現場」ってすごくないですか?

 前半は仙台の攻勢にさらされた。新潟は中盤の構成が変わったせいなのか、チームとして機能しない。何度も攻め込まれてずるずるラインを下げた。いちばん危なかったのは舞行龍のクリアミスを仙台・野沢拓也にダイレクトで狙われたシーン。強烈なシュートに思わず「うわぁ」と声が出たが、これはGK・守田達弥が止めてくれた。

 で、後半14分、この試合最大のポイントが訪れる。カウンターで抜け出しかけていた山崎亮平を、仙台・上本大海が後ろから手をかけて倒し一発レッド。11人対10人の戦いになり、それまでのガンガン来られてたじたじって流れはいったんおさまる。何しろ前半の45分、新潟はシュート1本だったからね。ちょっとどうしたもんかと思っていたよ。「エンジンがかからない」状態だったから。

 さすがに11人対10人になると持ち直すね。シュート数もぐんぐん増えて、最終的には同数(13本)に追いついた。ただ数的優位を生かしてゴールが割れるかというと、そんなに簡単じゃない。10人になって仙台は気持ちが入る。球際もきびしくなる。どうしてもゴールに迫れないんよ。逆に仙台けっこうにカウンターから決定機を作られたりして、フラストレーションがたまる。ミスが多かったなぁ。(小泉慶欠場で仕事が増えたせいなのか)レオのミスが目についた。

 膠着したまま時間だけが過ぎていくんだ。ついにロスタイム4分の表示が出てしまった。この場合のドローは下位のチームにとって負けに等しい。もうダメなのかと思ったよ。最後の最後、CKのこぼれ球を山本康裕がボレーで叩き込んだ。後半49分、奇跡の決勝ゴールだ! 

 その歓喜の爆発っぷりがすごかった。コースケはまっすぐ新潟応援席3千人のサポのところへ走る。スタンドでは皆、大声で叫んだり、飛び上がったり抱き合ったり、拳を突き上げたり、バンザイしたり大騒ぎだ。「コースケ!」と泣いてる人もいる。が、実はピッチレベルも同じだった。コースケめがけて飛んできた選手、ビブスをつけた控え組、スタッフも感極まってめちゃくちゃだ。自然に輪ができた。やっとこの雰囲気にたどり着いた気がする。読者よ、この一体感がアルビレックス新潟だ。

 試合内容は(敗れた)浦和戦、広島戦のほうがずっといい。が、内容ではない。苦しみのなかでチームは欲していたものを手にした。その歓喜を皆で分かち合った。勝利がすべてだ。勝利が道をひらく。

 単なる勝ち点3の上積みという以上に価値のある勝ち。価値勝ちだ。仙台まで行ったサポは「価値勝ち組」だ。童話の「かちかち山」はタヌキの背負う柴に火をつけるが、「価値勝ち組」はハートに火をつける。おわかりか。そこが違いだ。


附記1、♪らーらららー、ウーサギーたちよ、タヌキの柴に火ぃをー、背中に火をつけろー。

2、端山豪選手のベンチ入り初戦、最もアルビらしい姿を見せることができててよかったです。この歓喜の輪を忘れずにいれば、いつか決勝ゴールを決める役にまわってくれるでしょう。端山君、ようこそJリーグへ!

3、レオの指が心配ですね。すんごい痛そうでした。

4、ナビスコ準々決勝・浦和戦については来週まとめて扱います。実は日光アイスバックスの15-16シーズン開幕週なんですが、特別に許可をもらって、ホーム&アウェー両方とも行けることになりました。その上、天皇杯にも参戦します。楽しみだなぁ、秋田は僕の出生地なんですよ。間瀬秀一監督はオシムさんの通訳をされてた頃、インタビューでお世話になりました。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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