【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第269回

2015/9/17
 「浦和撃破!」

 ナビスコ杯準々決勝(第1戦)、新潟×浦和。
 手元に翌日のスポニチ(9月3日付新潟版)がある。1面が「9年ぶり浦和に勝利/アルビ5発/4強へ大前進」の記事。駅売店で見かけて、即買いですよ。笑ったなぁ、爆発的なテンション。もうね、1stレグ勝っただけで1面全部です。これは後々、語り草なる新聞だと思います。額装して部屋に飾ったらずっとニヤけていられますね。

 そのテンションも無理はない。5対0の圧勝だ。浦和は完全に勢いに飲まれた。やっぱりね、新潟にとって浦和レッズは巨大な壁なんだなぁ。ビッグスワンの弾けっぷりを見ると他に説明が思いつかない。僕はアルビサポとつき合うようになって、浦和の見え方が自分と違うんだなと気づいた。僕は浦和が弱かった時代をよく覚えてるし、J2降格も知ってる。どちらかといえば屈辱をはね返した歴史だと思うのだ。ピカピカの伝統じゃなく、傷だらけの栄光だね。例えば昨シーズン終盤の失速を思い出してほしい。浦和にはもろさの一面がある。アルビサポが思うほど強大な「ビッグクラブ」じゃない。バイエルンミュンヘンとは違うんだよ。

 ナビスコ準々決勝はビッグチャレンジだった。僕は早々と9月アタマのスケジュールを確保した。今季、新潟はJ1残留争いの渦中で下ばかり見て暮らしている。例えば残留争いに悪影響を及ぼすからカップ戦なんてさっさと負けてしまえ、と真顔で主張するサポもいる。僕は夢がないチームは駄目だと思うのだ。下ばかり見ていたらいじけてしまう。食って寝て、寝て食って、それだけで命をつないでいたらいつかエネルギーが枯渇する。チャレンジが必要なんだよ。魂を震わせるビッグチャレンジがね。

 今年は浦和と既にリーグ戦で二度当たっている。(どちらも完敗ではあったけれど)直近のホームゲームはポジティブな内容だった。今年は有難いことにナビスコのホーム&アウェーで更に二度当たれる。面白いねぇ。この機会に苦手意識を払しょくするのはどうだろうか。

 浦和は代表招集組の4人(興梠慎三、西川周作、負傷離脱の槙野智章、そしてスロベニア代表のズラタン)が欠場。ペトロヴィッチさんはもちろん「それを言い訳にしたくない」とコメントしたが、結果的には大きなファクターになった。特にGKやDFはどうしても実戦のなかで積み上げる部分がある。先制点がカギだったと思うのだ。0対0のまま終わるかに見えた前半ロスタイム(48分)、リスタートから大井健太郎が素早くDFの背後にパスを送った。動き出してウラへ抜けたのは山崎亮平だ。オフサイドぎりぎりだね。浦和守備陣はスキを突かれた。あそこから歯車が狂いだしたと思う。

 後半はガタガタになった。新潟は舞行龍、指宿×2、ラファと4点追加。今季、バーを叩いたり、ビミョーに合わなかったり、もうちょっとのところで決め切れなかったやつが決まるとこうなりますよという見本だ。残念なのは7,603人という観客数だね。平日ナイターとはいえ、「歴史に立ち会った」ファンがその程度とは(!)。「ナビスコ杯決勝トーナメント」の値打ちがわからないんだと思う。逆に言うと観戦できた7千人強は一生の自慢だよ。


 ナビスコ杯準々決勝(第2戦)、浦和×新潟。
 雨中の2ndレグ。興味深いことに親しいアルビサポが皆、「埼スタ浦和戦初勝利」を見るつもりになってる。積年の思いを晴らすイメージだ。心情としてはわかるけど、ちょっとピントがずれてると思う。勝ち抜け第一だろう。他はこの際どうでもいい。「主力を欠き、1stレグ大敗のショックを引きずる浦和」はカンタンに負かせる気がするのか。浦和なめんな。スタンドには(普段より数は少ないけど)本気で0-5をひっくり返すつもりの赤い精鋭が集結している。

 僕はね、アルビサポも皆、UEFAチャンピオンズリーグとかで「1stレグ、2ndレグ」「180分間の戦い」「アウェーゴール」等々を知識としては共有していたと思う。だけど血肉化していなかった。本当の意味でわかったのはこの日初めてだろう。

 その点、チームは賢明な戦いを続ける。ロマンチシズムに溺れない。リアリズムに徹する。思えばその新潟は1stレグからハッキリしていた。前半は攻撃の芽をつぶしまくる。後半は奪ってカウンター。2点先制した辺りからは「アウェーゴールを許さない」がチームの第一優先だった。結果、5対0の大勝だ。「0」の意味が大きい。2ndレグは「5失点しても1点奪えば勝ち」になった。カウンターで仕留めればいい。

 で、実際の2ndレグ。前半は浦和が来なかったんだ。新潟はしっかり対応していた。前がかりで来たら奪ってロングボールを指宿へつなぐ(予定)。でも、来ないんだよ。バランスが崩れない。雨はザーザー降りだ。このままスイッチ入らなかったら浦和サポからブーイング必至じゃないのかな。

 当然、後半はスイッチ入れてきた。新潟は四苦八苦だ。PKも含めて3失点喫する。でも、選手らは落ち着いていたね。ブラジル人プレーヤーを中心にドリブルやパス回しで時間を使う。まぁね、この試合だけ抜き出して見れば0対3の負けだから、新潟応援席の気勢がいまいち上がらないのも無理はない。この試合単体で考えれば「前半、決められるとき決めておけば」のパターン。

 でも、ぜんぜん違う。選手は最初から180分のつもりで戦ってる。アルビ公式LINEのメッセージの通り、「0ー3じゃない、5ー3の勝利だ」「180分、新潟のためにみんながハードワークして、粘り強く戦い続けた結果だよね」なのだ。試合後、負けてずぶ濡れで意気消沈していた応援席は、選手らに促されて「万歳五唱」をする。これは記憶に留めたい珍しいシーンだね。

 やったんだよ、俺たち。わかるかい? 浦和を撃破して準決勝へ駒を進めた。未知の冒険は続く。え、負けて万歳じゃ実感がない。いや、それくらいでちょうどいいかもしれないよ。僕は内心、埼スタで浦和に勝って、皆が喜び過ぎないかなぁと心配していた。こんなとこで達成感持ったら先がないでしょ。嬉し泣きはタイトルを奪取してからでいい。次はガンバにリーグ戦の借りを返そうよ。


附記1、「180分の戦い」に関しては試合後、知人サポから「なるほど、こういうことか!」という反応が多く届きました。皆、毎年ほぼ全試合見に行ってるようなコアサポですよ。Jリーグのことで知らないことなんてないと思ってたはずです。何事も経験してみないとわかりませんね。

2、つまり、サッカーはもっと奥があるということです。一生かけて追い求めるに足る存在だと思います。

3、天皇杯2回戦・ブラウブリッツ秋田戦は酒井高聖、宮崎幾笑、長谷川巧が先発し、斎藤宏太、ラファエル・ハットンが交代出場するという「10代アルビ」のトップチーム公式戦デビュー大会(?)でしたね。そのなかにあってベテラン田中達也の2ゴールはさすがでした。秋田は好チームでしたね〜。戦術の骨組みがしっかりしていた。サポーターの「字幕チャント」も最高です。彼らの旅に幸多からんことを!


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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