【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第270回

2015/9/24
 「9人対11人」

 J1第10節(第2ステージ)、新潟×横浜FM。
 さぁ、カップ戦シリーズがひと段落してリーグ戦の再開だ。カップ戦を勝ち抜いた勢いを残留争いのタフな戦いにつなげたい。再開初戦の今節はものすごく重要だ。勝ち点3が欲しい。ここを取れたら見晴らしがパッとひらける。相手は強豪だけど頑張れば何とかなるんじゃないか。横浜FM戦にあんまり嫌なイメージないなぁと思ったら、ビッグスワンでの対戦成績が過去7年間で「4勝3分」だった。

 これは先方からしたら「鬼門ビッグスワン」だ。何故か「鬼門ビッグスワン」は相手が川崎、横浜方面だと高確率で作動するのか。作動する方面をもっと広げていきたいと思う一方、今回は横浜方面作動を堅持したい。

 それからもうひとつエンギがいいのはこの日、「コメリサンクスデー」だったことだ。恒例の「エイエイオー」が聞けるなと楽しみにしていたら、今年は何と映像と音楽を駆使してバージョンアップしてきた。みんなしばらく経つと忘れてしまうと思うので、この「エイエイオー」の飛躍的な進化は記しておきたい。これがね、前触れなく飛躍的だったもんだから乗り方がわからないんだ。で、コメリのえらい人(今回は社長さんじゃなかった)が事実上のDJスタイルで「体調のすぐれない方はどうぞご無理をなさらずに!」なんて、こう、盛り上げるような抑えるような絶妙のMCをはさむ。すんごい面白かった。試合前、いい感じに場内がほぐれた。

 試合。これがもう大変だった。まぁ、前半は「スリリングな攻防」という範囲におさまるかな。横浜FMは噂に違わぬ好調ぶり(リーグ戦4連勝中)だ。ハラハラしたのはレオ・シルバが前半36分にイエローカードをもらって、直後に自陣右サイドで相手に足がかかったシーン。退場かなと一瞬、観念した。あれは審判によっては取られると思う。レオは普段にも増して広域を警戒し獅子奮迅の働きだったが、あの瞬間は血の気が引いた。

 で、血の気が引いてて逆サイドのコルテース負傷に気づかなかった。座り込んでいる。スタッフが駆けつける。タンカが用意される。後の発表では内転筋を痛めたらしい。レオが消えるかと思ったらコルテースが消えた。重大事だ。もちろん前野貴徳がすぐ交代で入る。僕は血の気が引いた+まま、違う意味で血の気が引いた。

 そうしたらロスタイムに入った前半48分、FKから大井健太郎の先制ヘッド炸裂! ゲンキンなもので即、血の気が戻った。加藤大のFKが素晴らしかった。指宿洋史が敵DFを引きつけて、その手前で大井がスラす。一発で劣勢挽回だ。さすが「鬼門ビッグスワン」。これは上手く戦えば勝てちゃうじゃないですか。

 その「上手く」とは何かというと「相手の良さを消しながら、ファウルをもらわない」じゃないか。特にレオ。勝ち切るためにはレオの存在は不可欠だ。それと横浜FMには中村俊輔がいる。滅多な場所でファウルできないのだ。思えば「レフティの素晴らしいFK→大黒柱DFのヘッド!」は敵のお株を奪う先制点だった。やり返されたくないね。「わかってて止められなかった」って言わされたくない。

 ファウルが肝だったなぁ。後半に入って加藤大がたて続けに2枚イエローをもらう。後半14分、加藤退場。レオが消えるかと思ったら加藤が消えた。1人数的不利だ。その1人が加藤だから実質1.5人だ。レッドが提示されたとき、胃がでんぐり返った。後半14分だからまだ時間があるんだよ。どうやってしのぐ? どうやって勝つ?

 このシーンは加藤の判断ミス(センターサークル付近で相手選手に手を使う)というのが一番シンプルな解釈だ。1枚もらっていて、位置的にもまだ後ろがあるからそこまで切羽つまった対応はいらない。それからもうひとつ、チーム全体の問題として審判の判定基準の読み違えはなかったか。ここはスマートにやれないと残り試合もきびしい。それとも読み違えではなく「新潟が嫌われてるのか、ヤンツーさんが嫌われてるのか」的な次元に回収される話なのか。サッカーを考える上で面白いところだ。

 ざっくり言うと「ファウルが多すぎる」。その「ファウルが多すぎる」の重層性だね。サッカーは試合をコントロールできなかったら勝てない。

 ともあれ10人で守るしかない。山崎亮平OUT→端山豪INで「4-4-1」にシステム変更。が、動揺がおさまらないうちに押し込まれて、アデミウソンのすさまじい同点弾を食らう(後半19分)。結果論を言うとあそこで踏ん張れなかったかなってところだけど、難しいと思うなぁ。横浜FMは勝機と見てギアを上げて来たし、失点シーンはシュートが良すぎた。むしろ失点の後、よく持ち直したと感心する。

 幸運だったのは後半33分、中村俊輔が両足つって交代してくれたことだ。中村俊輔ってこんなに動けるのかってくらいに走ってたからね。これはホントに助かった。敵の攻撃がピタリと止んだ。といってこっちもいっぱいいっぱいでバランスを保ってる。狙い目は唯一セットプレーかなと思うが、そこまでなかなか至らない。

 時計が進み、次善の選択「勝ち点1を拾う」が現実的になった後半48分だ。何とレオが2枚めのイエローをもらって退場する。とうとう9人になった。9人対11人。レオの心配を忘れてたらレオが消えた。いかにいっぱいいっぱいだったかの証左だ。

 だからよくやったと思うのだ。後半のドタバタを考えたらドロー上等じゃないかな。何とか「鬼門破り」は免れた。この勝ち点1が後々、モノをいうことを願う。


附記1、「九死に一生を得た」というか「生きた心地がしない」というか、心臓によくない試合でした。よく負けずに済んだなぁ。帰り道、ちょっとぐったりしましたね。で、「体調の悪い方はどうぞご無理をなさらずに!」を思い出してちょっとほっこりしました。

2、しかし、次節は選手がいませんね~。どういうスタメンになるのか。神戸ユニバは総力戦の様相ですね。

3、この度の東日本豪雨で被害に遭われた皆さまにお見舞いを申し上げます。特に茨城県常総市の鬼怒川堤防決壊はショックでした。被災地真っ只中(本稿執筆の17日現在、東武日光線は不通のまま)の日光アイスバックスは次回のホーム開催を「復興支援マッチ」と位置づけ、募金や災害予防の呼びかけを行うことになりました。幸いチームは無事で、明日、韓国遠征に出発します。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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