【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第271回

2015/10/1
  「総力戦」

J1第11節(第2ステージ)、神戸×新潟。
この試合は録画観戦だった。神戸ユニバのキックオフ時刻には浦安市総合体育館のプレス席にいた。Fリーグ第20節、浦安×名古屋だ。なかなか週末のスケジュールが取れず、『フットサルナビ』誌の取材がシルバーウィーク初日までズレ込んでしまっていた。だもんで、この日のスタメンは舞浜駅へと向かうJR京葉線の車中で知ったのだ。びっくりしたなぁ。舞浜駅はもちろんディズニー客でごった返している。そのなかを「こうでこうでこうか…」とシミュレーションしながら歩く。イクスピアリのハロウィン装飾の前で立ち止まり、もういっぺんモバアルを見直したりした。

 この1週間はスタメン予想で持ち切りだったのじゃないか。前節の横浜FM戦から先発4人が消えている。レオ・シルバ、加藤大、川口尚紀が出場停止。コルテースが右内転筋を痛めて離脱。これは非常事態だ。非常事態ではあるんだけど、ファンにとっては「ヤンツーさん、どう組んでくるだろう」と楽しみの部分もある。サイドバックは左が前野貴徳、右が舞行龍が順当なところだろう。センターバックは大井健太郎と大野和成で決定。2ボランチは佐藤優平と小林裕紀か。前の4枚は右SHに平松宗かな、あとは同じじゃないか。でも、ひょっとしたら右SHに佐藤優平で、ボランチに端山豪ってこともあり得る?

 という僕の予想はぜんぜん当たらなかった。SBは前野、舞行龍だったが、CBは大井と元韓国代表、イム・ユファン(7月、上海から移籍)。2ボランチは佐藤と端山の新加入コンビ。右SHは平松宗で、2トップの一角にラファエル・シルバが第2ステージ初のスタメン。これは舞浜駅の雑踏を「こうでこうでこうか…」でしょ。どうなるかフタを開けてみないとわからない。特に連携面だなぁ。

 不安がないといえば嘘になるが、期待感のほうが大きい。ヤンツーさんは面白いな。お前らわかるな、みんなで頑張れってスタメンで来た。めっちゃ新鮮だ。特に注目はプロ初先発の端山豪。浦安市総合体育館のほうがキックオフが1時間早かったからいったんすべてペンディングにして、Fリーグ屈指の好カードに集中した。ちなみに試合は森岡薫の大活躍で名古屋オーシャンズが逆転勝ち。

 で、帰りの京葉線に乗り込んだ時点で神戸ユニバは後半10分過ぎ、スコアは0対0だった。端山君は頑張ってるらしい。で、車窓に江東区夢の島競技場が見えた頃だったか、ケータイ速報に動きがあって「1-0、後半15分 森岡亮太」と表示される。うわ、あっちもこっちも森岡か。人知れず全国森岡デーか。

 幸い全国森岡デーではなかったようだ。東京駅に到着するまでに指宿洋史の同点ゴールが決まり、まだ山手線に乗ってる間に山本康裕の決勝弾が炸裂した。いや、「炸裂した」ニュアンスかどうかはその時点では想像でしかないのだが、つまり、僕は勝利をかみしめ、最寄駅からホクホク顔で家路についたのだ。

 帰宅してさっそくスカパー・オン・デマンドの見逃し再生だ。ヤンツーさん苦心のスタメンは映像で顔ぶれを見るとあらためてすごい。僕はイム・ユファンなんてろくに顔を見たことないもんな。こんな顔なんだね。よっしゃ、皆、いい顔してる。このメンバーで「新潟スタイル」をやり遂げるんだ。

 前半はラファの抜け出しとチョン・ウヨンの強烈なミドルが(決まるかに見えて)ともに決まらない立ち上がり。神戸・ネルシーニョ監督は4バックが機能しないと見て、前半27分、石津大介を下げ、北本久仁衛を入れて3バックにシステム変更する。一方、新潟も同37分、イム・ユファンの負傷で大野和成を投入、前半の間に両軍、DFの手当てをするという波乱含みの展開となった。

 が、より波乱が大きかったのは神戸のほうだろう。更に前半39分、ケガで渡邉千真が退き、ペドロ・ジュニオール(久々の出場!)に交代している。渡邉はゴールに迫る働きを見せていた(前野貴徳が危ういところで蹴り出した!)。まぁ、代わったペドロがもっと働くケースもあり得るが、フツーに考えて前半、交代カード2枚使うのは大誤算だろう。あ、それからアヤの部分としては前半40分、神戸DF・ブエノにイエローが出ている。これは後半の狙い目になる。0対0で折り返し。

 佐藤優平と端山豪、2枚替えのボランチコンビが素晴らしかった。佐藤は「MR.ハードワーク」。何で今までいなかったのかわからないほど「新潟スタイル」が合っている。端山は勘がすごくいいなぁ。距離感の取り方や危機察知能力が並じゃない。

 さて後半。例の全国森岡デー(じゃないんですけど)は同15分の出来事だった。端山のパスをカットされ、ドリブルで持ち込まれて、独特の間で決められた。端山は後半29分に成岡翔と交代するが、この失点を成長の糧として欲しい。もっと見たくなる選手だ。新潟は素晴らしい選手を獲ったね。

 失点直後の後半19分、指宿の同点ゴールが生まれる。見事やり返した。パスカット→前線へ供給→指宿粘ってドーン! こう、懐の深さが生きたナイスキープ&シュート。指宿は頼れる男だ。すぐに追いついたので流れが良くなった。

 そこからがね、試合としては面白いとこだった。勝ち点が3にも0にもなり得る。1のままもあり得る。再三、ブエノがファウルすれすれで抑えにきて、ありゃりゃ、イエロー2枚めにならないのかな~、的な煩悶もあった。ようやくこじ開けたのは後半40分、山本康裕だ。映像ではっきり確認した。「炸裂」だ。山崎亮平とのワンツーで決めた。持ち帰る勝ち点は3になったぜ!

 この勝利は大きい。選手が変わってもプレスをかけまくる「新潟スタイル」が貫けたこと。総力戦をやり切ってチームの結束力が高まったこと。レギュラー組・控え組といった垣根が払われたこと。各々が刺激を与えあったこと。

 そして、最大の収穫。僕らは佐藤優平のアメージングな運動量を知った。2人の得点者にヒケを取らないMVP級の働きと言っていい。舌を巻いた。あんなハードワークが90分もつんだなぁ。文句なくスーパーな存在!


附記1、この日は神戸ユニバでも浦安市総合体育館でも、先日亡くなられた日本サッカーの父、デットマール・クラマーさんに追悼が捧げられました。ドイツと縁深い鈴木良平さんや風間八宏さんにクラマーさんの話を聞かせてもらったっけなぁ。慎んでご冥福をお祈りします。

2、イム・ユファン選手の負傷は残念でした。すごく落ち着いて見えたでしょ。戦列復帰を首を長くして待ちましょう。

3、川崎戦、スケジュール空けといたんですけど、ちょっと家庭の事情で行けなくなっちゃいました。登戸の多摩病院で勝利を祈ってます。あれ、川崎戦だと登戸は「敵地」か!


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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